広告主が大手プラットフォームに求めるものは、有害なコンテンツからブランドを守るための、信頼できるレポートだ。そしていま、GARMとMRCという2つの巨大業界団体がタッグを組み、さまざまな取り組みを同時並行で進めている。彼らは何者で、何を目指しているのか。彼らと彼らを取り巻く現状の全体像に迫ってみたい。
広告主が大手ソーシャルメディアプラットフォームに求めるもの。それは、サイトやアプリに投稿されるいかがわしい有害なコンテンツからブランドを守るための信頼できるレポートだ。
そしていま、GARMとMRCというふたつの巨大業界団体がタッグを組み、さまざまな取り組みを同時並行で進めている。ソーシャルプラットフォームでの広告出稿に関する、ブランドセーフティの目的に照らした測定を実施するためのアプローチを検証し、標準化すること。その実現へと業界全体を向かわせることが、彼らの目的だ。
彼らは何者なのか? 彼らがタッグを組んでいるのはなぜなのか? この遅々として進まないプロセスにおける、彼らの現在地はどこなのか? ここからは、彼らと彼らを取り巻く現状の全体像に迫ってみたい。
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──GARMとはなにか? プラットフォームにおけるブランドセーフティと、どんな関係が?
GARMは「Global Alliance for Responsible Media(責任あるメディアに向けた世界同盟)」の略称だ。それを構成するのは、ソーシャルメディアプラットフォーム群──YouTube、Facebook、インスタグラム、Twitter、TikTok、Snap、Pinterest──と、インタラクティブ広告協議会(Interactive Advertising Bureau:IAB)、4Asなどの世界の大手広告業界団体、P&G(プロクター&ギャンブル)、ユニリーバ(Unilever)、デル(Dell)、シャネル(Chanel)などの大手ブランドだ。
世界広告主連盟(World Federation of Advertisers:WFA)の後援の下、2019年に設立されたGRAMの目標、それはブランドセーフティ関連の諸問題に対処することだ。暴力的なイメージや、児童に対する性的搾取、偽情報、ヘイトスピーチ、凶器、麻薬……、こうした有害なトピックを含むコンテンツに隣接して広告が表示される、あるいはたとえ間接的にでもこうした有害なコンテンツを広告が金銭的に支援してしまった場合などに生じる、さまざまな問題に対処することだ。
GARMは今年4月、初のレポートを発表し、これらプラットフォームのブランドセーフティ対策に照らして、いま何が起きているのかを明らかにした。それによると、たとえば参加している大手プラットフォームは前年の1年間だけで、53億本以上のコンテンツを削除したという。このレポートには、GARMのパートナーによって考案された、違反コンテンツの視聴率(Violative View Rate)と広告安全性エラー率(Advertising Safety Error Rate)という、ふたつの新たな測定システムに基づくデータが含まれている。
──では、MRCとはなにか?
MRC(メディア・レーティング・カウンシル)は、地上波テレビが誕生して間もない1960年代はじめに設立された。業界が出資する同団体は、GARMと同種の多数のメンバーで構成されている。そのルーツは、独立系測定プロバイダーなどの企業やデジタルプラットフォームのメディア測定指標とプロセスの検証にある。そしてやがて、MRCの検証は従来のニールセンのテレビ視聴率から、動画広告を対象とするコンテンツレベルのブランドセーフティプロセス、さらにはブランドセーフティとは何の関係もないディスプレイ広告インプレッションの指標へと広がってきた。
──では、GARMはいったいなぜ、ブランドセーフティの件でMRCとの連携を望むのか?
GARMとMRCは、デリケートな外交任務に共同で当たるパートナー国同士のような関係にある。その任務とは、プラットフォーム各社を穏やかに諭して(そして、広告費ならではの力でプレッシャーをかけて)、ブランドセーフティや透明性に関するレポートを外部団体が監視する体制に同意させることだ。
まずは、その背景を少し見てみよう。いまのところ、プラットフォーム各社がGARMへ提供するデータは、それぞれのサイトのブランドセーフティ対策に従って何が起きたかを示しているが、独立した組織による検証を受けていていない。GARMの第1回目のレポートについていえば、プラットフォーム各社はその情報を自己報告している。また、たとえばFacebookは、独自のレポート「コミュニティ・スタンダーズ・エンフォースメント・レポート(Community Standards Enforcement Report)」をすでに発表している。Facebookのような一部プラットフォームの場合、GARMに提供されるデータの多くは、それぞれがすでに発表している透明性レポートからのものだ。
独立した組織が、プラットフォーム各社によって提供されるデータを検証する。これが、GARMが望んでいることになる。MRCはすでにこの種のデータの検証をおこなっている。したがって、GARMがMRCを選ぶのは、自然な流れなのだ。
──プラットフォームのデータのみが、GARMの懸念ではないのでは?
その通り。GARMは現在、全プラットフォームパートナーを対象に、3つのレベルのブランドセーフティ監査の確約を求めている。
- ブランドセーフティの管理と実施:この監査レベルでは、ブランドセーフティガイドラインに照らした測定を行うための、内部管理とプロセスがきちんと整えられているかどうかが評価される。
- 外部ベンダーとの統合:この監査レベルでは、サードパーティの広告測定企業(ダブルベリファイ[DoubleVerify]やモート[Moat]、IASなど)を統合する際のデータ転送をはじめとする分野を対象に、プラットフォームが実施しているプロセスが調査される。
- 透明性レポート:この監査レベルでは、GARMのレポートに用いられる、プラットフォームが提供するブランドセーフティ関連のデータが対象となる。
注目すべきは、MRCが「管理と実施」を監査やブランドセーフティなどの点で不可欠な構成要素としてとらえているのに対して、GARMはプラットフォーム各社の内部管理をほかのふたつのカテゴリーとは別のブランドセーフティ監査の構成要素と考えている点だ。したがって、MRCとGARMはそれぞれ、監査のさまざまな側面に対して別の用語を使うケースがあり、それが問題の複雑化を招くおそれもある。
──では、このGARMとMRCのプロセスおける、プラットフォーム各社の現在地は?
GARMに参加するプラットフォームの大半はまだ、GARMあるいはMRCのブランドセーフティ対策に関する外部監査に同意していない。だがその一方で、GARMのそれについては、若干の動きも見られる。
Facebook: これまでのところ、Facebookでは、MRCのブランドセーフティ監査はおこなわれていない。ただし、GARMの依頼により、MRCが透明性レポートに関する監査を実施することに同意しているのは、Facebook1社だけだ。その一方でFacebookは、これとは別に、ブランドセーフティ関連指標の監査をMRCと共同で6月に開始する準備を進めている。
またFacebookでは、これまでにも公開してきた、より消費者やメディアに目を向けた「コミュニティ・スタンダーズ・エンフォースメント・レポート」に関する、ほかのプロセスも進行中だ。同社は5月19日、EY (アーンスト&ヤング[Ernst & Young])をパートナーに選び、同レポートに用いる指標の評価を立証するための監査を実施すると発表した。この点は重要だ。というのもEYは、MRCが監視するプラットフォーム広告指標の、監査の大半を手がけているからだ。事実、MRCは、デロイト(Deloitte)やEYなどの監査法人に依頼し、同団体による監査の基本実務を任せている。
YouTube: YouTubeもまた、ほかのプラットフォームよりも、ブランドセーフティの測定プロセスに積極的に関わっている。とはいえ、GARMに提供するブランドセーフティの透明性レポートに関する監査については、まだ協力を確約していない。しかしながら、GoogleとYouTubeの広告システムを介して提供される「コンテント・レベル・ユーチューブ・ブランドセーフティ・プロセシーズ・フォー・ビデオ・アド・サービング(Content Level YouTube Brand Safety Processes for Video Ad Serving)」はMRCの認定を受けている。YouTubeは昨年、GARMの基準に合うように、自社のブランドセーフティプロセスをアップデートする取り組みを開始している。
全般的に監査プロセスは断片的で、これらふたつのプラットフォームは、現在のステージもアプローチの仕方も同じではない。その一方で、ほかのプラットフォームはいまのところ、それがいかなる形であれ、GARMまたはMRCに関連するブランドセーフティ対策の独立検証を公には受け入れていない。
──では、ほかに何がこのプロセスを妨げているのか?
データ処理や技術の検査を要求する、独立組織による監査への漠然とした抵抗感。全プラットフォームに共通して、これが大きな障害になっている。その一方で、官僚的な煩雑な手続きが事態の進展の足を引っ張っている可能性もある。GARMの報告要件がまとめられたのちに、それがMRCのブランドセーフティ基準と監査に組み込まれるまでは、プラットフォームが提出するデータを検証するための監査を、MRCは開始できない。
MRCによれば、そうなるのはまだ先のようだ。
[原文:Cheat Sheet: How GARM and MRC work together on platform brand safety]
KATE KAYE(翻訳:ガリレオ、編集:分島 翔平)