何カ月にもわたる憶測と混乱のあと、Apple待望のプライバシー保護強化施策が実行されます。とはいえ、まだ逃げ出す必要はありません。少なくとも、AppleのATT(App Tracking Transparency)機能について知っておくべきことをまとめた、この入門書を読むまでは。以下、Q&A形式でお届けします。
ついにこの日がやってきました。
何カ月にもわたる憶測と混乱のあと、Apple待望のプライバシー保護強化施策が実行されます。理論的には、この瞬間のための準備が、水面下でずっと進められてきたはずですが、市場は次に来ることへの準備ができていないようです。
とはいえ、まだ逃げ出す必要はありません。少なくとも、AppleのATT(App Tracking Transparency)機能について知っておくべきことをまとめた、この入門書を読むまでは…。以下、Q&A形式でお届けします。
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ーーまず、ひと言で「ATT」とはなんですか?
これは、広告事業者がユーザーを追跡できるように、Appleデバイスのユーザーに対して、デバイスに関連付けられたモバイル識別子(IDFA)へのアクセスをアプリに許可するよう促す通知です。そのプロンプトは次のように表示されます。「”アプリX”が他社のAppやWebサイトを横断してあなたのアクティビティの追跡することを許可しますか? トラッキングは広告効果の測定や分析などのために利用します」。メッセージのあとには、「Appにトラッキングしないように要求」 または 「許可」 という2つのボタンが表示されます。
ーーこれは悪い知らせといえるのでしょうか?
もしあなたが、追跡のためにユーザーレベルのデータを集約することに依存している企業の場合、悪い知らせとなるでしょう。なぜなら、ターゲット設定と測定が難しくなるからです。実際、Appleはターゲティング広告に目もくれず、SKADNetworkのおかげで広告の測定もせいぜい鈍いものになっています。SKADNetworkとは、ユーザーが追跡を拒否した場合に、モバイル広告キャンペーンのアトリビューションが行われる方法です。同様に、ウェブイベントが同じ人物に対して、どのようにアトリビューションするかを示す、プライベート・クリック・メジャメント(Private Click Measurement)というソリューションもあります。基本的にどちらもひとつのイベントについてのみ、ユーザーでなくキャンペーンレベルで広告データを集計します。
ーーなるほど。つまり、追跡がしにくくなったということは、多くの企業にとって良くないことなんですね。
通常、誰かが広告をクリックすると、そのデータとその後の行動は、その広告を出稿している企業によって追跡されます。ATTでは、その誰かが「追跡を許可しない」とした場合、その後の追跡は行われません。その代わり、その企業はキャンペーンレベルでのみ、ユーザーごとにひとつのアクションしか、アトリビューションできないのです。そのため、その人が広告によって、どのような影響を受けたかという詳細な情報は失われてしまいます。このような場合、マーケターは広告キャンペーンによる収益を追跡できなくなります。また、キャンペーンに起因するイベントがひとつだけの場合、マーケティング担当者が最適化できる対象が制限されるだけでなく、ターゲットにできる対象も制限されます。当然のことながら、リターゲティングや粒度の細かいターゲティングに依存しているマーケターは、こうしたプロンプトが表示され始めたときに、失った金額を気にしています。
ーーこれには、Facebookも震え上がっているんでしょうね?
ATTが登場する前、FacebookはAppleユーザーがサイトやアプリで、どのように行動しているかに関する豊富なデータにアクセスできました。この情報を利用して、Facebookは人々がどのように行動し、その環境で何を購入するかに基づいて、詳細なプロフィールを作成できたのです。このデータはその後、その人物をターゲットとした広告を提供するために使用されました。しかし、Appleがこのデータを調整すれば、Facebookの広告ビジネスを抑制することになります。実際、メディアストラテジストで、ブログ「モバイル・デブ・メモ(Mobile Dev Memo)」のオーナーでもあるエリック・ソーファー氏は、第2四半期に、Facebookは収益の7%を失う可能性があると言っています。多くの点で、このデータはFacebookにとって、同じユーザーに関する独自データよりも価値が高いのです。
ーーAppleは、どれくらい厳しく取り締まるのでしょうか?
AppleはATTを非常に真剣に受け止めるでしょう。それには多くのものがかかっているからです。ATTは、同社のマーケティングの柱である顧客のプライバシー保護への試みを補強するだけでなく、Appleのコントロールが抑制された広告で動向が決められるアプリストアに対しても影響力を行使できるからです。AppleはATTが意図した通りに機能し、オンライン広告を麻痺させる必要があるのです。実際、アジャスト(Adjust)が最近発見したように、AppleはすでにATTを静かに施行し始めていました。
ーーATTは最終的に良いものなのでしょうか?
長期的な利益のために、短期的には多少の痛みが伴うことをAppleは期待しています。ここで何かをしなければならなかったのです。ユーザーのデータが、当事者の預かり知らぬところで企業に切り刻まれていたのでは、持続可能ではないからです。アドテクベンダーやデータブローカーに悪用されていたことを考えると、多くの意味で、IDFAは廃止せざるを得ませんでした。先述のソーファー氏が、IDFAを「モバイル広告エコシステムの炭化水素」と表現するほど、IDFAはひどいものでした。
ーーとはいえ、Appleの計画は、完全に利他的とは思えないのですが…
その通りです。オンライン広告のプライバシーポリシーを構築するための正しい方法は、パーソナライズの利点を維持すると同時に、誰かを追跡するための怪しげな慣行を排除することです。しかし、Appleが提案していることは、プライバシーに関する顧客への提案やアプリケーションストアの管理など、市場における自社の地位を強固にすることを重視しているように伺えます。つまり、最終的にはAppleが勝利するということですね。
ーーでも、Appleはユーザーに対して、追跡を拒否するよう強制しているわけではない…ですよね?
確かにそうです。しかし、その選択が自分のお気に入りのコンテンツにとって、どのような意味を持つかを理解している人は、どれくらいいるでしょうか? 「デジタルプライバシーはトレードオフの関係にある」と、エンジン・メディア・エクスチェンジのCEOマイケル・ザカースキー氏は述べています。「業界として、我々は消費者を教育するために、十分な努力をして来なかった」。
パーソナライズされた広告でお金を稼ぐことができないために、アプリが無料ではいられなくなった場合、そのアプリは存在することが困難になります。そうなると、AppStoreへの依存度が高まり、結果的にAppleへの配信が難しくなります。ATTの通知には、このようにたくさんのニュアンスが詰め込まれてあるのです。
[原文:Cheat Sheet: Apple has set a date for its privacy push on advertising. Now comes the hard part]
SEB JOSEPH(翻訳・編集:長田真)