今やバイアコムCBSのような超大手ですらストリーミング事業への投資に熱心だが、その成果は出ていない。しかし、それは同社だけの問題ではない。収益が出にくくコストはかかるストリーミングに、テレビ事業を差し置いてのめり込むのはリスクも大きい。テレビネットワークにとってストリーミングへの移行は簡単ではないのだ。
バイアコムCBS(ViacomCBS)の2020年のスタートはスムーズとは言えなかった。バイアコムとCBSの合併が2019年12月に完了して以来、初となる2月の収支報告においてバイアコムCBSのCEOであるボブ・バーキッシュ氏は、バイアコムの新しいストリーミング計画を発表した。彼らの戦略は、2021年初頭に刷新され開始されるCBSオールアクセスを活用したストリーミング戦争への参入と、ストリーミング視聴者を巡る競合相手、Netflixやワーナーメディア(WarnerMedia)に番組や映画を売ること、のふたつの異なる方向性に同時に取り組むというものだ。
この「両賭け」とも取れる戦略判断は、投資家たちからよい評価を得られなかった。バーキッシュ氏は投資家たちに対し、2億7300万ドル(約282億円)の純損失を抱えた同社の悲惨な2019年第4四半期を看過するよう求めたが、数時間のうちに同社の株価は16%下落した。
この「悲劇」以来、バイアコムCBSの株価は回復しており、2021年1月4日現在で2020年2月の収支報告の前日終値35.67ドル(約3695円)から約2%上昇している。それでも、同社はまだ2021年に向けての転換点にある。同社はCBSオールアクセスをパラマウント+(Paramount+)として再ローンチし、ストリーミング戦争に正式に(再)参戦してNetflixやディズニー+(Disney+)と競争することになる。しかし、バイアコムCBSはストリーミング事業を迅速に構築しつつ、かつ稼ぎ頭である従来型テレビ事業を破壊してしまわないように適切に手を緩めなければいけないという、ほかの主要テレビネットワーク・グループ・オーナーたちが直面しているジレンマに対処しなければならないだろう。
Advertisement
「テレビネットワーク各社は、矛盾するふたつのことを両立させようとしている」と、ターナー(Turner)の元エグゼクティブ・バイスプレジデント兼元CSOであるダグ・シャピロ氏は言う。「消費者にとって魅力的なストリーミングサービスでありながら、従来型テレビの体験にとっても付加的なものを作ろうとしている。このふたつの問題を同時に解決できるかどうかは未知数だ」。
バイアコムとCBSが合併してから1年が経った今、合併後の会社は、従来型テレビや劇場映画のような伝統的なチャンネルを中心とした事業を持つメディア複合企業から、ストリーミングを中心としたコンテンツプロバイダーへと生まれ変わろうとしている。その転換の向こう側で会社がどのような形になるかはまだわからないが、少なくとも財政的な必要性から、将来のバイアコムCBSは現在の姿とは違った姿を見せる必要があるだろう。
米DIGIDAYからの取材の求めに対し、バイアコムCBSの広報担当者は同社幹部のインタビューには応じられないと述べた。
従来型テレビからの移行にまつわる問題
テレビ局たちは当初、ストリーミングビジネスを自社の従来型テレビ事業を補完するものとして立ち上げようとしていた。バイアコムをはじめとする一部の企業は、ただウェブサイトを開設し、そこで有料テレビ契約者だけを対象に自社の番組をオンラインでストリーミング配信できるようにしていた。CBSをはじめとするほかの企業は、従来型テレビ事業を少しずつ拡大するための手段として、有料テレビの契約をしていない人々にもサービスを開放した。
しかし、今やテレビネットワークは転換点に達している。テレビ契約を解約し、インターネットでの動画視聴へと移行する「コードカッティング」が加速し、ストリーミングの視聴者数は急増して広告主からの広告支出がそのあとを追いかけるなか、テレビネットワークはもはやストリーミングを「サイドビジネス」として位置付けておく余裕はない。
ただ状況をややこしくしているのは、ストリーミングがまだネットワーク各社の主要ビジネスである従来型テレビに取って代わるほどの収益を生み出していない点だ。2020年第3四半期、バイアコムCBSのアメリカにおけるストリーミングとデジタル動画の収益は6億3600万ドル(約658億円)に達した。それに対して、同社の従来テレビ上で販売された広告と、同社のコンテンツを放映する有料テレビプロバイダーから受け取る手数料収益を含めると、従来型テレビ事業の収益は合計で54億ドル(約5600億円)だった。収益全体に占めるストリーミング事業の割合は依然として低い。この手数料は、特にバイアコムCBSを従来型テレビ事業に強く縛りつける要因であり、場合によってはストリーミング事業の発展を危うくするリスクすらはらんでいる。
コンサルティング会社TVレブ(TVRev.)の共同創設者で主任アナリストのアラン・ウォルク氏は、「バイアコムCBSの問題のひとつは、ほかの誰よりも多くのチャンネルを持っていることだ」と述べた。「多くのレベルで極めて莫大な投資がおこなわれている従来型テレビ事業を主流から排除することには、社内でかなり抵抗があると思う」。
現在バイアコムCBSは、視聴しているかどうかにかかわらず、同社のチャンネルを受信するすべての有料テレビ世帯数に応じて料金を受け取っている。これとは対照的にサブスクリプションベースのストリーミングには、消費者が積極的に料金を支払う必要がある。つまり、従来のテレビと比較して加入者数が減少する可能性があるだけでなく、常に視聴者獲得のための宣伝費用がかかり、利益も減少する。「ストリーミング事業は構造的に収益性が低い」とシャピロ氏は指摘する。
潮流の変化
一部のエージェンシー幹部はバイアコムCBSのストリーミングへの移行が一部の競合他社よりも遅れていると考えているが、上記のような経済的なマイナス面が一因かもしれない。さらに、ディズニーやワーナーメディア、NBCユニバーサル(NBCUniversal)は2020年にストリーミングに特化した大規模な社内再編成をおこなったが、バイアコムCBSはまだそのような全面的な再編成を発表していない。バイアコムCBSはストリーミングを中心に組織全体を再編するのではなく、2020年10月に新しいグローバルストリーミング部門を設立し、傘下にあるプルートTV(Pluto TV)のCEO、トム・ライアン氏の管轄下に配置した。
とあるエージェンシー幹部のひとりは「バイアコムCBSは基本的にメディア企業としてほかのすべての企業に後れを取っている」と話している。別のエージェンシー幹部は「彼らは早い段階でストリーミングのトレンドを認識していたが、その方向で迅速に移行して有利に立つということをしなかった。とはいえ、彼らはすでに巨大な消費者基盤を抱えており、サブスクライブ型ストリーミング分野での経験も持っているという点では有利な立場にある」と話した。
CBSは2014年10月にCBSオールアクセス 、2015年7月には ショータイム(Showtime)のストリーミング専用サブスクリプションサービスを開始しており、大手メディアコングロマリットのなかでもいち早く独立したストリーミングを立ち上げた。CBSオールアクセスとショータイムの加入者数は、2020年9月30日時点で合計1790万人となっている。バイアコムCBSはCBSオールアクセスの加入者数を具体的に公表していないが、調査会社ウルフ・リサーチ(Wolfe Research)のマネジング・ディレクターであるジョン・ジェーンディス氏は、同サービスの加入者数を800万人以上と見積もっている。「消費者向けのダイレクトなストリーミング事業を独自に初期から立ち上げ、なんらブーストすることもなくここまでの業績を見せた所はほかにいない」と述べた。
しかし、バイアコムが意味のある形でストリーミングを開始したのは、広告収入に支えられた無料のコネクテッドTVプラットフォームであるプルートTVを2019年3月に買収してからだと、バイアコムの幹部らは述べている。それ以前はバイアコムのストリーミング事業の売り込みも、自社サイトやYouTubeのようなプラットフォームで投稿される動画に加えて、有料テレビの加入者向けに視聴を許可している番組が中心になっていた。プルートTVは今では月間アクティブユーザー数が2840万人にまで成長し、広告付きのコネクテッドTVプラットフォームとしては市場を圧倒する存在であると代理店やメディアの幹部たちに認識されている。
道筋は見えている?
プルートTV、そしてバイアコムCBSの広告プラットフォーム「アイキュー(EyeQ)」 のおかげで、同社は今年のアップフロント(広告枠先行販売)におけるストリーミング広告販売戦略を拡大し、ストリーミングおよびデジタル在庫の全ポートフォリオを網羅することができた。
ふたり目のエージェンシー幹部は、「彼らは合併に関してはゆっくりと進めており、明確な道筋はまだ見えていないが、潮流は変わりつつあるようだ」と述べた。
プルートTVは、視聴者をパラマウント+への加入へと導く玄関的な役割を担う可能性もある。同社はショータイムで、この戦略を展開し始めている。しかし、この戦略が成功するにはヒット番組が必要だ。また、バイアコムCBSはパラマウント+において「ゴッドファーザー(The Godfather)」や「スポンジボブ・スクエアパンツ(SpongeBob SquarePants)」など既存のフランチャイズに関連したオリジナル番組を配信すると発表したが、他サービスが有する「マンダロリアン(The Mandalorian)」や「ハウス・オブ・カード(House of Cards)」のような熱狂的なヒット作はまだ出てきていない。
最初のエージェンシー幹部は「パラマウント+の大人気コンテンツは何か、と言われるとパッと頭には浮かばない」と指摘する。しかし、看板商品がなければ成功できないわけでもない。
ワーナーメディアのHBOマックス(HBO Max)とNBCユニバーサルのピーコック(Peacock)は特に大ヒットのオリジナル番組が無い状態でデビューしたが、加入者を引きつけることができている。さらにバイアコムCBSは、プルートTVを所有しているという、ほかにはない利点がある。先述のようにプルートTVは、無料サービスの視聴者をパラマウント+の加入者に変えるための入り口として機能することができる。そうすれば、ストリーミングサービスの方で何か大ヒット作が誕生したときに、無料で利用できる提携サービスとしてプルートTVを使ってプロモーションをおこなうことができる。「両サービスは互いのメリットとなる」とウォルク氏は言う。
最も有力な2番手グループ
何よりも重要なのは、バイアコムCBSは今ある有料テレビの加入者に、できるだけ多くパラマウント+に加入してもらう方法を見つけることだ。この数値に関しては、同社が設定しているであろう目標を下回る可能性が高い。さらに、たとえ有料テレビ契約者全員をパラマウント+に加入させることができたとしても、「(ひとつの世帯を)従来型テレビ利用からストリーミング利用へと完全に移行させることは、どんな世帯であれ、ビジネスにとっては損になる。収益が少なく、コストが高いからだ」とシャピロ氏は述べた。
バイアコムCBSが従来のテレビ業界における最大手のひとつという立場から移行しストリーミング市場へより深く入り込むなかで、ストリーミング事業をリニアテレビ事業を上回るほどに成長させ、収益損失を相殺することができるようになるまでは、一時的に人員削減などをおこなう必要が出てくるリスクがある。もちろん、ほかのほとんどすべてのテレビネットワーク・グループも同様だ。
「Netflix、ディズニー+、Amazonがトップに君臨するなかで、テレビネットワーク各社は二番目のレベルに食い込める可能性が十分にある」とジャネディス氏は言った。「2番目のレベルでは、(消費者が自分にとって意義があると思えるという意味での)エンゲージメントをめぐる戦いが起こるだろう。私が思うに、テレビネットワークの潜在的なポテンシャルを加味すれば、彼らはストリーミング業界における2番手グループの頂点に位置している」。
[原文:Change the channel: How ViacomCBS is managing the transition from linear TV to streaming]
TIM PETERSON(翻訳:塚本 紺、編集:分島 翔平)
Illustrated by IVY LIU