iOS9からiPhone/iPadに導入されたコンテンツブロッカー。一般的には「広告ブロック」と呼ばれており、登場時は「(適切な広告収入が得られず)このままではメディアが死んでしまう」との話も出るほどでした。
しかし、リリースから約2カ月経ったいま、コンテンツブロッカーはメディアを殺すほどの影響を及ぼせたでしょうか? コンテンツブロッカーの役割を振り返りながら、解説していきたいと思います。
本記事は、企業のアニメーション動画制作をサポートするCrevo(クレボ)が運営する、動画制作・動画マーケティングのニュースメディア「VIDEO SQUARE」からの転載となります。
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iOS9からiPhone/iPadに導入されたコンテンツブロッカー。一般的には「広告ブロック」と呼ばれており、登場時は「(適切な広告収入が得られず)このままではメディアが死んでしまう」との話も出るほどでした。
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しかし、リリースから約2カ月経ったいま、コンテンツブロッカーはメディアを殺すほどの影響を及ぼせたでしょうか? コンテンツブロッカーの役割を振り返りながら、解説していきたいと思います。
ユーザーにとって必要なコンテンツブロッカー
まずコンテンツブロッカーについてですが、名前のとおり、そもそもコンテンツをブロックするためのものです。このコンテンツには広告以外に、画像や動画、CSS、各種Javascriptなどが含まれます。
広告を非表示にすることで、ユーザーには広告を利用した攻撃/ウイルス感染を防げるセキュリティ上のメリットもあります。ユーザーが読み込みたくない、利用したくないと思っているコンテンツを、ユーザー主導で拒否できる。それがコンテンツブロッカーの役割です。
そのため、コンテンツブロッカーを導入するにはユーザーによるアプリのダウンロードと設定が必要となっています。
今までも利用できていた広告ブロック
しかし世間で言われているように、コンテンツブロッカーの主な役割は広告のブロックです。これにより、メディアはバナーによる広告収入と、ユーザーのトラッキング(追跡)データを失います。
リリース当初のコンテンツブロッカーアプリの多くは有料だったため、「そこまでユーザーに広まらないのではないか?」との見方もありましたが、最近では『1Blocker』を筆頭に多くの無料アプリも公開されており、無料で利用できるようになっています。
けれども、無料で利用できる広告ブロックや、トラッキング拒否はいままでも利用できていました。広告ブロックはPCでは『Adblock Plus』、モバイルでは『ドルフィンブラウザ』などが有名です。トラッキング拒否は、Google Analyticsの追跡を拒否するツールをGoogleが公式に提供しています。
つまり、コンテンツブロッカーがリリースされる前も、広告やトラッキングをブロックしたいユーザーにはそれが可能だったのです。
広告ブロックユーザーをブロックした独ニュースサイト
一方、こうした流れを受けて、ドイツの大手メディア企業アクセル・シュプリンガー(Axel Springer)は、同社が運営するニュースサイト『BILD.de』において、広告ブロックツールを使っているユーザーを拒否する機能を導入した話は記憶に新しいところです。
この拒否機能は、ニュースサイトにアクセスしてきたユーザーが広告ブロックツールを使っている場合、広告ブロック機能をオフにするか、月額2.99ユーロの有料コースの契約を求める警告画面を表示するものです。
アクセル・シュプリンガーは、この機能を導入してから3週間後に行った会見で「アクセス数が300万件増加した」と発表しています。増加した理由は拒否機能の導入が話題になったことにくわえて、ドイツはインターネットユーザーの3分の1が広告ブロックツールを利用していることが背景にあると考えられます。
コンテンツブロッカーの影響はモバイル広告の1.3%
それでは日本のメディアでも、同じようなことが起きるでしょうか?
データから見るに、その可能性は限りなく低いと言えます。というのも、すでに日本でコンテンツブロッカーを必要とするユーザーにはアプリが行き渡り始めたからです。
当初人気だったコンテンツブロッカーアプリ『Crystal(有料)』は、すでにダウンロードランキングから姿を消そうとしています。代わりに人気が出てきた『Safari上の広告をブロックする -Adバスター(同)』も、そのダウンロード数に陰りが見え始めました。
App Annieより
iPhoneの有料アプリランキングで上位に入るには、1日あたり7000ダウンロード程度が必要と言われています。どちらのアプリも1カ月ほどは1位を維持できていましたが、そのダウンロード数は甘く見積もっても30~40万程度でしょう。この数字では、メディアにダメージを与えられるとは考えられません。
なお、スイスの金融機関UBSのアナリストの分析によると、コンテンツブロッカーが2016年にもたらす影響は10億ドル(約1234億円)と推測されています。この金額は、世界のモバイル広告費全体から見るとたったの1.3%です。
日本のモバイル広告費は3450億円(2014年)のため、この1.3%は約45億円となります。金額にすると大きいですが、日本の広告市場は前年比で166%成長しており、コンテンツブロッカーの影響が出る場所はかなり限定的になると思われます。
Apple、Facebookはニュース配信へ
そして、コンテンツブロッカーの導入を決めたAppleも、ただメディアから売上を奪おうとしているわけではありません。日本ではまだ利用できませんが、Appleの新しいアプリ「News」に記事を配信することで、メディアが広告収入を得られるようにしています(アプリのためコンテンツブロッカーの影響を受けません。ただしAppleに手数料30%が徴収されます)。
同様にFacebookも「Instant Articles」を使ってアプリ内でコンテンツを配信し、その広告収入を分配する手法を取っています。コンテンツブロッカーによって減った1.3%は、これら別の収入源によっても補われることでしょう。
広告業界も「より良い広告」を目指す?
とはいえ、新たな収入源があるからと現状に甘んじていては広告業界に未来はありません。コンテンツブロッカーが広告ブロックとして話題になったのは、それだけ広告が嫌われているからです。
そしてユーザーに嫌われない広告への挑戦は、すでに始まっています。たとえば日本でも今冬から創刊予定の「BuzzFeed Japan」の本家である「BuzzFeed」は、ネイティブ広告で2014年に1億ドル(約123億円)以上の広告売上をあげています。
ほかにもTwitterやFacebook、インスタグラムがインフィード広告を始めており、各メディアが旧来のバナー広告に頼らない新しい広告売上を作ろうと努力しています。
それがどんな形に落ち着くのかは分かりませんが、コンテンツブロッカーが登場したことでユーザーはより良いかたちのモバイル体験ができるようになります。メディアには広告ブロックを拒否するのではなく、その流れに合わせるかたちで進化していくことを求めたいものです。
written by VIDEO SQUARE編集部(篠原修司)
photo by Thinkstock / Getty Image
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