Amazon のBuy With Primeボタンは、リリースから数カ月が経過した現在、普及に向けた厳しい戦いに直面している。ShopifyはBuy With Primeをインストールすると顧客データが盗まれる可能性があると出品者に警告。Shopifyの競合であるビッグコマースは同サービスの活用を推奨している。
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AmazonのBuy With Prime(プライムで購入する)ボタンは、リリースから数カ月が経過した現在、普及に向けた厳しい戦いに直面している。
普及を阻む課題
マーケットプレイス・パルス(Marketplace Pulse)は9月1日、Shopify(ショッピファイ)でBuy With Primeをインストールすると、Shopifyの不正注文検出能力が制限され、顧客データが盗まれる可能性があるとして、出品者に警告していることを報じた。Shopifyは特に、Buy With Primeを使用している小売業者に対し、Buy With Primeのボタンが、「サポートされていない外部のチェックアウトスクリプト」を使用したHTMLコードだとして、名指しで警告した。
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しかし、Amazonにとって、Buy With Primeの普及を阻む課題はこれだけではない。業界からの反発があるほか、Amazonはショップペイ(Shop Pay)やApple Payなどのモバイル決済オプションがあふれかえっているなかで、Buy With Primeも取り入れるように小売業者を説得する必要がある。この機能は現在もベータ版の状態で、AmazonがBuy With Primeをどれだけ広く宣伝するかは未定だ。
Amazonは現在のところ、どれだけの企業がBuy With Primeを使いはじめたのかを明かしていない。しかし、美容品ブランドのボッシーコスメティクス(Bossy Cosmetics)やリブ・バイ・ビーイング(Live by Being)など、いくつかの企業が自社のチェックアウトページにBuy With Primeを掲示しはじめた。
Shopifyによる見解の変化
AmazonがBuy With Primeを発表したのは今年4月のことだ。Buy With Primeとの連携により、出品者はAmazonの決済・配送オプションをサードパーティのウェブサイトに埋め込むことができるようになった。Amazonプライムのバイスプレジデントを務めるジャミール・ガーニ氏は、4月に発表した同社の声明で、「Buy With Primeの導入により、会員が便利で信頼性の高いプライムショッピングの特典を受けられる場所をAmazon以外にも広げ、メンバーシップの価値をさらに高めることができる」と述べている。
AmazonがはじめてBuy With Primeの開始を発表したとき、この分野の競合他社は当初熱意を持って受け止めていた。Shopifyは、このサービスを自社のプラットフォームに組み入れることを「喜んで」いると述べた。ShopifyのCEOを務めるトビ・ルーク氏は同社の第1四半期の決算発表で、「当社は実際に、Amazonが自社で構築したすばらしいインフラを採用すると決定したことに興奮を覚えている。同社は最高のインフラを保有し、そのインフラをインターネット全体で小規模な小売業者と共有することを望んでいるからだ」と語った。
しかし、カナダの大手テック企業である同社による最近の警告は、完全な見解の変化がうかがわれるものだ。
Shopifyのスポークスパーソンは、9月初旬に米モダンリテールに送ったメールによる回答のなかで、「当社には小売業者を保護するために利用規約があり、小売業者に完全な透過性を与えるため、規約への違反は警告を招くことがある」と述べている。たしかに、同社の利用規約では、小売業者は、同社の決済プラットフォーム(Payments Platform)に記載されている、ほかの決済プロバイダとチェックアウトを統合できる。対応しているプロバイダにはアファーム(Affirm)、アフターペイ(Afterpay)、さらにAmazon自身の決済処理サービスであるAmazon Payも含まれている。
小売業者の選択肢を増やす
一方、Shopifyの競合他社であるビッグコマース(BigCommerce)は別の方針を採用している。ビッグコマースの成長担当バイスプレジデントで、オムニチャネルパートナーシップのジェネラルマネージャーも務めているシャロン・ジー氏は、同社が小売業者に対してAmazonのBuy With Primeなどのサービスを活用することを推奨していると、米モダンリテールのインタビューで語った。
ジー氏は次のように述べている。「いくつかのeコマースプラットフォームでは、フルフィルメント、決済、チェックアウト、デザイン、そのほかの重要な機能について小売業者のオプションが制限されているが、ビッグコマースはオープンなコマースを重視しているため、小売業者が自分たちの顧客に最良のオプションを選択できる。人々の注意を引くことがますます難しくなり、買い物をしてもらうことがさらに難しくなってきている現在、小売業者に対して制約を増やすのではなく、より多くの選択肢を与える必要がある」。
一方でAmazonは、出品者に権限を与え、希望する場所で販売を行えるようにするため、Buy With Primeを構築したと語っている。「当社は、すべてのeコマースプロバイダが顧客のエクスペリエンスと小売業者の成功を第一に考え、小売業者がより多くのツールを活用可能にすることを望んでいる」と、Amazonのスポークスパーソンは米モダンリテールの問い合わせへの回答としてメールで述べた。
Amazonは、Amazon Payを使用してBuy With Primeの注文を処理していると語り、このサービスによって顧客データを盗むことが可能になるという主張を否定した。「当社はBuy With Primeで収集された情報を、買い物客のデータも含め、Amazonの高いセキュリティ標準に従って保護する。当社はこの情報を、小売業者と買い物客にBuy With Primeを提供し、改良するために使用する」と、同社はメールの声明に記載している。
「Amazon Payは、Amazon.comで使用されている不正防止のテクノロジーにより支えられている。小売業者は顧客に請求する価格を完全にコントロールできる」と、同社のスポークスパーソンは記している。
「出品者向けの強力なツールになり得る」
しかし、Buy With Primeの広範な採用を推奨するため、Amazonは小売業者に対して、新しいチェックアウトサービスが安全なだけでなく、ほかのチェックアウトサービスよりも先に搭載する価値があると説得を試みている。
eコマース代理店のコマースキャナル(Commerce Canal)でCEOを務めるライアン・クレイバーは、同氏が話し合ったShopifyの出品者の多くはBuy With Primeに対して「特に熱意を欠いていた」としている。これは、すでにショップペイ、Apple Pay、PayPalなど数多くの決済オプションが存在し、チェックアウトフローに統合されているためだ。
「そのような背景があるが、実際にBuy With Primeを使用した出品者はコンバージョン率の向上やカートの破棄の減少を体験している。Shopify、マジェント(Magento)、ウー(Woo)などの大手サイトは、このオプションをより正式に運用開始し、導入を拡大していくと、私は確信している」と、クレイバー氏はメールでコメントしている。
同氏は、コマースキャナルが対応している「大手の出品者の多く」は、Buy With Primeのベータ版プログラムにアクセスを許可されたと語る。同氏は、消費財、美容品、衣類、アパレル分野における同氏のクライアントの一部はBuy With Primeを使用していると付け加えたが、実際の業者名は明かしていない。
最終的にBuy With Primeは、サードパーティ・ロジスティクスのほかの価格モデルと比べて、出品者向けの強力なツールになり得ると、クレイバー氏は語る。「このプログラムは、同社のペイ・ウィズAmazon(Pay with Amazon)とマルチチャネルフルフィルメント(Multi-Channel Fulfillment)プログラムとを組み合わせ、配送収益を増やすものだ。同社は、現在のところ過剰な容量を抱えている。出品者が望むなら、このプログラムはほかのサードパーティ・ロジスティクスと比べても非常に魅力的なものだ」と、クレイバー氏は述べている。
[原文: Buy With Prime faces ‘lukewarm’ adoption months after rollout]
VIDHI CHOUDHARY(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)
Image via Amazon