プライバシー重視型ブラウザのBrave(ブレイブ)とブラウザ拡張機能のDuckDuckGo(ダックダックゴー)は、GoogleのFLoCをブロックすることを、すでに決めている。そのうえ、新たにMozillaも、Firefoxブラウザにそれを実装するつもりはないことを米DIGIDAYに語った。
プライバシー重視型ブラウザのBrave(ブレイブ)とブラウザ拡張機能のDuckDuckGo(ダックダックゴー)は、Cookieを使用せずに集団を対象としてトラッキングや広告ターゲティングを行うGoogle提案の手法をブロックすることを、すでに決めている。そのうえ、新たにMozillaも、FirefoxブラウザにGoogleのFLoC(Federated Learning of Cohorts:コホートの連合学習)を実装するつもりはないことを米DIGIDAYに語った。
Mozillaのスポークスパーソンは米DIGIDAYに「現在、プライバシーを保護する広告の提案の評価を数多く進めているが、現時点ではどれも採用する計画はない」と述べた。
Mozillaをはじめとする各社に退けられている提案は、Googleがプライバシーサンドボックス(Privacy Sandbox)の取り組みの一環として打ち出してきたものだ。プライバシーサンドボックスは、サードパーティCookieを使用して長年行われてきた、個人を対象としたトラッキング、広告ターゲティング、広告の効果測定と同様の機能を実現する各種手法を含むもので、その一部にはワールドワイド・ウェブ・コンソーシアム(W3C)のオープンソース環境のなかでGoogleがほかの参加者と共同で開発したものもある。
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Mozillaのスポークスパーソンは「人に関する何十億にも上るデータポイントを、当人の知らないあいだに収集して共有しなければ、関連性のある広告が提供できないという想定には賛同できない」と話す。同社のFirefoxブラウザでは、強化されたトラッキング保護機能がデフォルトで有効になっている。だが、スタットカウンター(Statcounter)によるとFirefoxの世界シェアは4%を下回る。
Google Chromeのもうひとつの代替ブラウザでプライバシー保護重視を売りにするBraveは、4月14日に「FLoCを外した」と述べた。同社はFLoCの技術が、「今日のブラウザではまったく行われていない新しい方法で閲覧履歴の情報をサイトに渡す」ため、「そもそもの設計が直接プライバシーを害するものになっている」という懸念をブログ記事で示している。Braveのユーザー数に関して信頼できる数字はないが、そのシェアは市場の約20%を占めるFirefoxとAppleのSafariと比較しても微々たるものだろう。
さらにもう1社、個人データ保護を謳うDuckDuckGoも4月、同社のChrome拡張機能でFLoCをブロックできるようにすることを表明した。同社の検索エンジンも、ブラウザ拡張機能の利用とは関係なく、FLoCのトラッキングからオプトアウトされる設定になっているという。
米国やその他の国々でFLoCのテストが進められるなか、反対を連呼する声はますます高まりを見せている。だが、プライバシーへの懸念からヨーロッパでのテストが滞り、米国の議員などほかの方面からも差別につながるおそれに関する批判が上がっても、当面FLoCは検索大手GoogleのChromeブラウザ、つまり世界でもっとも普及しているブラウザ内に存在し続ける。ということは、広告主もパブリッシャーもGoogleのアドテクパートナーも、まずは試してみないわけにはいかないはずだ。
アドテク企業、セントロ(Centro)のRTBプラットフォームオペレーション担当バイスプレジデントであるイアン・トライダー氏は「[FLoCが]有効になっているブラウザがChromeだけであったとしても、そのスケールは膨大だ」と述べながら、ほかのブラウザで許可されないとしても広告インベントリーには影響がないだろうと付け加えた。「広告は、ブラウザに読み込まれるサイトに提供できる。単にターゲティング手法としてFLoCが利用されないというだけの話だ」。
なぜFLoCにブラウザが必要なのか
FLoCが機能するには、それがブラウザでサポートされていなければならない。Cookieレスのターゲティング手法であるFLoCは、ブラウザ内でアルゴリズム的なプロセスを使用し、最近のサイト訪問履歴や閲覧したページのコンテンツ内容などの要素に基づいて、最低1000人から成るコホート(グループ)を生成する。各コホートには、個人レベルのデータを一切含めずに、FLoC IDが割り当てられる。FLoCは、Googleが2022年1月までにChromeでの廃止を予定しているサードパーティCookieによるトラッキングとターゲティングに代わる手法のひとつである。どのサイトを訪れているのかという行動情報を使用し、個人ではなく集団としてトラッキングとターゲティングを行うというもので、Googleはこれによって個人のプライバシーが守られると主張する。
ちなみに、GoogleがFLoCをはじめとするプライバシーサンドボックスの手法を同社の大手アドエクスチェンジで採用するという3月の発表は、プロダクトマネジメント・広告プライバシー・信頼担当ディレクターのデビッド・テムキン氏のブログ記事を通して行われた。テムキン氏は、2020年にGoogleに入社する前、まさにFLoCに「ノー」を突き付けているBraveブラウザを開発するブレイブソフトウェア(Brave Software)のチーフプロダクトオフィサーを勤めていた人物だ。
プライバシーとデータ倫理の擁護者たちの主張は、オンラインやモバイルのサイト訪問履歴に基づいて人をグループ分けすることでまったく新しい種類の個人データが生み出され、個人レベルのほかのプロファイルデータに付加できるようになってしまうというものだ。FLoCのプロセスによって不当にグループ分けが行われ、差別的なターゲティングやデータ利用が可能になるおそれがあるという。同時に、FLoCは少なくともひとりの米国議員の目に留まっている。ニューヨーク州選出の下院議員イベット・クラーク氏は、3月に開かれた米議会下院のエネルギー・商業委員会の誤情報問題に関する公聴会で、GoogleのCEOスンダー・ピチャイ氏に向けた発言のなかでFLoCが偏見や差別的な扱いにつながる懸念を指摘した。
ブラウザでFLoCを無効にする方法
ブラウザには、FLoCを無効化するために何もしなくてよいものもある。BraveやMicrosoft EdgeといったブラウザはGoogle Chromeのベースとなっているオープンソースコード「Chromium」に基づいており、FLoCを有効にするには特定のコードが必要になる。
デジタルプライバシー擁護団体、電子フロンティア財団(EFF)のスタッフテクノロジストで、FLoCがどのように機能するのかを詳しく調査しているベネット・サイファーズ氏は「Braveが有効にすることを選ばない限り、[FLoCは]有効化されない」と語る。Edgeも同じだそうだ。「EdgeではわざわざFLoCを有効化しなければならないため、マイクロソフト(Microsoft)では今のところ有効にしていない」と説明し、次のように付け加えた。「将来的にはGoogleがFLoCのスイッチをオフに切り替えなければならない仕様にする可能性もあるが、現在はそうではない」。ChromiumベースのブラウザではFLoCを積極的に有効化する必要があるのかGoogleに確認のメールを送ったが、同社のスポークスパーソンからは返事がなかった。
同じくFLoCの仕組みを調査しているコンピュータサイエンティストのクリストフ・フラナゼック氏も、サイファーズ氏の評価を裏付ける話をしてくれた。「Google Chromeにはどのウェブサイトを訪問したかをトラッキングするコードがあり、それを使用して[FLoC IDの]計算とグループ割り当てを行う」が、「Braveにはそのような基盤となる仕組みがない」。また、DuckDuckGoなどのブラウザ拡張機能では、Chromeからコードを取り除くことはできないそうだ。「その代わり、拡張機能の場合はウェブサイトやJavaScriptがユーザーのFLoC IDを読み取るのをブロックする。ユーザーがECサイトなど、FLoC IDを使用して消費者をターゲティングするようなウェブサイトを訪問すると、そのウェブサイトがFLoC IDを見ることもアクセスすることもできないように拡張機能がブロックをかける」。
FLoCの良心的拒否に回るパブリッシャー
GoogleがFLoCを試験的に展開するあいだ、パブリッシャーのウェブサイトに対してはデフォルトでトラッキングが行われることになる。自社のサイトをトラッキングの対象から外したいパブリッシャーはオプトアウトする必要があるが、これは簡単ではない。FLoCをブロックするには、特別なHTTPヘッダーをサイトに追加しなければならず、ガーディアン(The Guardian)とザ・マークアップ(The Markup)など一部のパブリッシャーでは実際にそうしている。Googleのリサーチャーは、医療サービス機関や銀行、ポルノサイトなど、機密性の高いコンテンツやGoogleの新しいトラッキング手法によって関連付けられることを人々が望まないようなコンテンツのパブリッシャーが、FLoCの「良心的拒否」陣営に加わると予想している。
全般的に、広告主や広告エージェンシーは、サードパーティCookieを使用しないさまざまなトラッキングとターゲティングの手法をFLoCも含め試しているところであり、Google以外の企業が開発するブラウザでFLoCが有効化されないことにはさほど驚いていない。デジタルエージェンシーのグッドウェイグループ(Goodway Group)のエンタープライズパートナーシップ担当バイスプレジデント、アマンダ・マーチン氏は、Chromeの巨大なユーザーベースを考えると「ChromeはサードパーティCookieが非推奨となっていく状況に単独で解決策をもたらすことができるだけの優位性がある」と述べる。
ただし、こうも付け加えた。「それが規制機関に問題ないとされないかどうかは、また別の話だ」。
KATE KAYE(翻訳:SI Japan、編集:長田真)
ILLUSTRATION BY IVY LIU