Amazonがより多くのさまざまな業種の企業にAmazon Pay(アマゾンペイ)を導入してもらおうとしている。たとえば、家庭用電化製品を扱う企業やサービス提供を主とする企業、ファッションや家庭用品、スポーツ用品、玩具メーカーなどがその一例だ。
Amazonがより多くのさまざまな業種の企業にAmazon Pay(アマゾンペイ)を導入してもらおうとしている。たとえば、家庭用電化製品を扱う企業やサービス提供を主とする企業、ファッションや家庭用品、スポーツ用品、玩具メーカーなどがその一例だ。
Amazon Payがどの程度小売の実店舗に浸透していくかはまだ不透明だが、物理的な店舗を持たない小規模なオンラインマーチャントは、この支払方法に注目している。新興のeコマース企業にとってAmazon Payを導入することは、安全かつ信用性の高いパートナーによって取引が処理されるため、顧客が一層安心することを意味する。Amazon Payは、より迅速に取引ができ、何百万以上もの顧客にアプローチする手段である。しかし、競合製品やサービスを開発する競争にあるなかで、将来的に競合企業となりうる企業と提携することも意味する。
認知度にメリット
オンラインアパレルブランドのルルス(Lulus)は、まだ起業ばかりの3年前に顧客から信用してもらえるようにAmazon Payを導入したという。ルルスはAmazonのマーケットプレイスを介しては販売しておらず、代わりに自社独自のeコマースサイト上で販売を行っている。
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「(Amazon Payを)展開した当初は、自社ブランドの認知度が低かった」と、ルルスのマーケティング部門のバイスプレジデントであるノエル・サデル氏は言う。「Amazonは、顧客が信用し、一般的に信頼しているブランドだ」。顧客に対する出口調査では、Amazon Payを利用した支払い手続きに満足しているようだと、サデル氏は付け加えた。
取引を取りやめてしまう件数を減少させることも、ブランドがAmazonの支払い用ウォレットを導入する理由のひとつだ。オンライン靴下販売企業であるボンバス(Bombas)は、2年前にAmazon Payを導入した。これは顧客にモバイルショッピングをする習慣が付いてきたことに対応するためのより大きな戦略の一環だったという。カードオンファイルを利用すれば、特にモバイルショッピングの利用者からの購入が増える可能性がある。ボンバスは、モバイル販売をさらに増やすために、ペイパル(PayPal)に加えてAmazon Payを導入した。Amazonによると、Amazon Payは、18カ国の「何万もの」マーチャントに利用されており、アメリカやヨーロッパ、日本において、その数は不明だが、物理的な店舗やレストランでの支払い手続きでも利用されているということだ。ペイパルと比較すると、まだ比較的少数の店舗でしか利用されていない。グッゲンハイムパートナーズ(Guggenheim Partners)のアナリスト、ジェフ・キャントウェル氏が発表した最近のレポートによると、Amazon Payの利用者は、ペイパルを利用しているマーチャント数の4%だという(ペイパルの利用者は、1900万人である)。しかし、Amazon PayがAmazon以外のWebサイトに拡大してきているため、ペイパルの合計取引額の増加は抑制されることになりそうだと、レポートは報じている。
「モバイル決済手続きは、(物理的な支払いとは)大きく異なる」と、ボンバスのCOO(最高業務責任者)であるアンドリュー・ヒース氏は言う。「モバイル決済なら、モバイルブラウジングをするだけでショッピングができる。出かけるときもクレジットカードを持ち歩く必要はないのだ」。
迅速な手続きも魅力
より迅速に支払い手続きができることが、ますます顧客が一番に望むことになってきている。ガートナー(Gartner)のL2データによると、現在、大規模小売店の72%が、「迅速な決済サービスの選択肢」を提供している。この選択肢には、Apple PayやGoogle Payなどのモバイル決済サービス、あるいは、マーチャント独自のモバイルウォレットソリューションを含む決済方法がある。
「ブランドは、購買ファネルに入ってきた顧客を失うことのないように支払い手続きの手間を緩和することを優先する必要がある」と、ガートナーL2のAmazonインテリジェンス(Intelligence)チームの上級スペシャリスト、グリフィン・カールボーグ氏は言う。「Amazon Payは、手続きを迅速化するソリューションとして役立つ」。
ほかの企業にとって、Amazon Payは単に数多くあるモバイル決済手段のひとつである以上の意味を持つ。Amazon Payを利用すれば、1億人のプライム(Prime)会員に簡単にアプローチする機会が得られる。Amazonと自社独自のWebサイトで販売を行っているユニーク・ヴィンテージ(Unique Vintage)は、販売を増加させるためにAmazon Payを導入し、モバイル決済で一括取引を行うようにした。
「当社は、Amazon Payやペイパルのような非常に迅速な支払い方法をますます利用するようになってきている」と、ユニーク・ヴィンテージでマーケティングコーディネーターを務めるアビィ・グラディ氏は言う。プライム会員へのアプローチができることは、大きな魅力だとグラディ氏は付け加えた。
利用には妥協も必要
Amazon Payは、短期的には取引の迅速化に役立つ。ただ、幾分かの妥協も必要になり得る。カールバーグ氏によると、Amazonに決済処理を委ねるということは、Amazonが取引の一部を支配することを意味し、Amazonが顧客の行動を調査し、競合サービスを開始するなどAmazon独自の目的のためにその情報の利用を許可するということになる。AmazonがAmazon Payの取引から得られるデータのうち、どのデータにアクセスできるかについて、Amazonはコメントを控えた。AmazonはAmazon Payから得られる決済データは共有せず、取引データは個々の企業のものだと以前に発表している。
「Amazon Payの利用を検討しているすべてのブランドは、この提携の二面性を理解する必要がある」と、カールバーグ氏は言う。「短期的には、Amazon Payはコンバージョン率を高めるかもしれないが、長い目で見れば、オンライン販売の獲得を狙い、競合他社に対抗するための洞察をAmazonに与えてしまうことになる」。
それが、6カ月間ののち、自社のeコマースサイトにおけるAmazon Payの利用から撤退する決定を下した栄養補助食品会社であるキャンパスプロテイン(Campus Protein)が抱いた懸念だ。AmazonがAmazon Payを介して顧客の行動に関する洞察を得てしまうということ、そして、コンバージョンが有意義に高まることがないことなどに対する懸念が、Amazon Payから撤退する判断につながったと同社のCEO(最高経営責任者)であるラッセル・サックス氏は語った。Amazon Payを自社のWebサイト上で利用しないようにしたものの、同社はAmazonストアフロント(Amazon Storefront)での販売は継続している。
「過去の経験から、(Amazonが行動の洞察を利用して)通常行っていることは、異なる市場または業界を模索する、あるいはAmazon独自のプライベートレーベル商品を開発することだ」と、サックス氏は言う。
「ほかの選択肢はない」
これらの懸念はあるものの、新興のeコマースブランドがAmazon Payを無視すると顧客を失うことにつながると主張する人もいる。匿名を条件に語ったセラーによると、Amazon Payは、従来の支払い方法よりも好ましく、顧客とマーチャントの両者にとって簡単に利用できるものだという。会社の代表者も問題に素早く対処できると、このセラーの男性は付け加えた。
「私見だが、ほかの選択肢などないのではないかと思っている。Amazonはeコマースにおいて勝利者だ」と彼は言う。「決済手続きが非常に得意な会社だ。Amazonは、顧客が不正取引をするリスクがあるかどうかを99%の確実性で教えてくれる。Amazonと提携するのは理にかなっている」。