さまざまな企業がGoogle傘下のYouTubeから自社の広告を引き上げた。好ましくない動画の脇で自社の広告が表示されるのを避けるためだ。もっとも、ブランド各社は、いまになってインターネットのダークサイドの存在に気づいたわけではない。だが今回は、あらゆる関係者が、さまざまな企てを抱いているようだ。
デュオポリー(2社による独占)が厳しい批判にさらされている。
このあいだ、米通信大手のAT&Tや米携帯大手のベライゾン(Verizon)からジョンソン・エンド・ジョンソン(Johnson & Johnson)にいたるまで、さまざまな企業がGoogle傘下のYouTubeから自社の広告を引き上げた。好ましくない動画の脇で自社の広告が表示されるのを避けるためだ。また、Googleをめぐるこの騒動と並行して、デュオポリーのもう一方を構成するFacebookへのプレッシャーも拡大している。この両社はともに、フェイクニュースの拡散を許したとして嘲りの対象となり、いまはそうしたニュースの流入を阻止しようとしている。
もっとも、ブランド各社は、いまになってインターネットのダークサイドの存在に気づいたわけではない。どのみち、YouTubeで広告がどの動画に表示されるかは、サイコロを振るような偶然に左右されるのだ。米DIGIDAYは2011年の段階で、マイクロソフト(Microsoft)のポータルサイト「MSN」の広告が、ガールフレンドに殴る蹴るの暴行を加えている男性のアニメ動画の横に表示されたり、携帯大手のスプリント(Sprint)の広告がロボットポルノ動画にオーバーレイ表示されたりするケースを指摘していた。
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だが今回は、あらゆる関係者が、さまざまな企てを抱いているようだ。
ブランドにとって、その企みとは、とてつもない力をもつGoogleへの影響力を強め、最終的に誰がボスなのかを見せつけること。
パブリッシャーにとって、それは影響力を少しでも取り戻す機会として利用すること。
そしてエージェンシーにとっては、クライアントに対し、自分たちが仕事を怠けているわけではなく、ブランドの安全維持にきわめて真剣に取り組んでいるとアピールすることなのだ。
誰もが隠れた動機をもっており、これらすべての関係者が次々と非難の声を上げている。公の場では、どの企業の幹部も、心から怒っているような発言を繰り返しているのだ。だが、その裏では、彼らの多くが、実際には見せかけのショーだというだろう。
「今回の出来事が明らかになり、誰かが何か言い出すまで、ブランド側の人間でこのことを気に留めている人は誰もいなかった。ブランドはずっと前から、一挙両得を望んでいた。低価格で契約し、ブランドの安全を維持できる環境を求めていたのだ」と、あるエージェンシーのバイヤーは述べる。別のエージェンシーの上級幹部も、この意見に同調して、次のように語った。「クライアントは、この問題そのものよりも、自分たちがこの環境から追い出されることを懸念している」。
以前から何も変わっていないのだ。
デジタルマーケティングの「第三勢力」
こうした騒ぎのなかで、ベライゾンとAT&Tは米国時間3月22日、ブランドの安全性に対する懸念を理由に、検索広告以外のGoogleの広告の利用を中止すると発表した。この両社は、GoogleとFacebookに対抗できるマーケティング力をもつ「第三勢力」を作り上げようとしている企業だ。ベライゾンが米ヤフー(Yahoo!)を48億ドルで買収したのも、その戦いの一環といえる。戦いの相手であるGoogleとFacebookの2社は、2016年第3四半期に米国のデジタル広告支出の70%を飲み込んだ巨人だ。
リサーチ企業eマーケター(eMarketer)の予測によると、ベライゾン/AOL/米ヤフー連合が2017年に販売する広告の額は33億ドルになるという。だが、Googleの288億ドルとFacebookの127億ドルに比べれば、大きく水をあけられている。
Googleが大きな力をもっていることは疑いの余地がない。だがブランドにとって、今回の出来事は、交渉のきっかけを得るチャンスといえる。プラットフォーム側は大きな力をもっているが、ブランド側も多くのカードをもっており、そのカードを切りたいと考えている。世界最大の消費財メーカーであるプロクター&ギャンブル(以下、P&G)は、プラットフォーム各社に対し、メディア評価評議会(Media Rating Council)の基準に準拠することを求めている。プラットフォーム企業とパブリッシャーが異なる測定指標を使っている以上、いまのきわめて混乱した状態に耐える理由はないというのが同社の言い分だ。また、「プライバシー上の問題がある」とか「モバイル向けのデザインではない」といった「もっともらしい言い訳」はもはや容認できないと、P&Gのブランド責任者マーク・プリチャード氏は、全米広告主協会(Association of National Advertisers:ANA)の講演で語っている。
いま起きていることは、デジタル広告をやみくもに信じる時代的空気に対する反動だ。デジタル広告は不正やごまかしが非常に多く、根本的に疑わしいという発言がますます増えている。
「デジタルメディアに関する問題点と次の新しい常識を伝える報道の影響がじわじわと広まった結果、デジタルメディアについてわかりきった質問をしてもOKだという雰囲気が作られはじめている」と、メディアエージェンシーであるノーブル・ピープル(Noble People)のCEO、グレッグ・マーチ氏は語る。「数年前にもこうした疑問はあったかもしれないが、それを口にすると、最新であることやデジタルであること、そしてビッグデータを活用することがマーケティング業界で流行っているという環境において、『古い人間』だと思われてしまう時代だったのだ」。
ブランドの安全性が懸念される以上、マーケターが広告を引き上げるのは当然だというのが、模範的な回答だと、あるエージェンシー幹部はいう。だが、匿名を条件に「本音」をいえば、彼らが広告を取り下げる理由は、自分たちが広告でテロや武器といった「恐ろしいもの」を支持しているといった悪評をマスコミが広めかねないからだという。
「Googleがブランドを助けることはない」
エージェンシーは長いあいだ、あることを恐れてきた。それは、朝になってクライアントからスクリーンショット付きのメッセージが入り、自分たちの広告のなかで不適切なコンテンツ(わいせつなもの、攻撃的なもの、さまざまな不快なものなど)に掲載されたものがどれくらいあるか正確に教えてほしいと依頼されることだ。
Googleの敵であるルパート・マードック氏が、自身の所有メディア、タイムズ・オブ・ロンドン(Times of London)にYouTube広告の暴露記事を掲載したとき、エージェンシーは、自らをブランドの安全を守る勇ましい門番として印象づけようと必死になった。たとえば、アドテク企業のピュブリシス・メディア・エクスチェンジ(Publicis Media Exchange:PMX)は声明で、Googleが「顧客の懸念に耳を傾け、信頼回復のために活動を見直すべきだ」と述べ、Googleに対して厳しい姿勢を見せている。さらに同社は、ブランドにとって安全な環境をどのように実現できるのかを3月24日までに具体的に報告するよう「要求」したのだ。
「エージェンシーの価値は、長年にわたって疑問視されてきた。Googleのような企業が、エージェンシーは不要だとクライアントに触れ回っていたからだ。だがいま、その価値が再び認識されるようになってきた」と、先ほどのエージェンシー幹部は話す。「エージェンシーの仕事は、どんなときでもクライアントを守ることだ。Googleやほかのメディア所有者はそうではない。だから彼らは、我々を遠ざけたがっている。だがいま、クライアントは我々が自分たちを守ってくれることを理解してくれるようになった」。
最近の報道は「間違いなく我々の主張に信ぴょう性をもたらしている。その主張とは、Googleがブランドを助けてくれることはないというものだ」と、別のエージェンシーのバイヤーは語る。「こうした企業(Googleなど)がやろうとしているのは、ブランドに何かを売りつけることなのだ」。
とはいえ、エージェンシーの側も、クッキーで追跡したユーザーにリーチするために、プログラマティックを利用して大規模な購入を行ってきたことの責任を負うべきだ」と、イールドボット(Yieldbot)の創設者兼CEO、ジョナサン・メンデス氏はいう。アドテク企業の同社は、広告主が検索スタイルのキーワードでディスプレイ広告を購入できる製品を手がける企業で、もちろんGoogleのライバルだ。
「2016年から聞かれ始めたブランドの懸念の声が、いま大きなうねりとなっている。自分たちの広告が一体どこに表示されているのかについて、透明性が確保されていないという懸念だ」とメンデス氏はいう。「プログラマティックバイヤーやDSP(デマンドサイドプラットフォーム)のために、状況はますます悪化している。彼らは、インプレッションレベルのURLデータを公表したがらない。ブランドはいま、このような詳しいデータを得られない製品に対してあまりに多くのお金をつぎ込んでいる。こうした状況が続けば、ブランドは質の高いデジタルインベントリー(在庫)を購入するのに、もっと高いお金を払わなければならなくなる。それに対する準備ができているかどうかを自らに問いかける必要があるだろう」。
あるパブリッシャーのベテラン販売担当者は、もっと皮肉めいた、しかしおそらくは正直な考えを述べている。「今回の騒動で、エージェンシーはこういっているはずだ。『なんてことだ。いままでなら、適当にGoogleの広告枠を買って、ディナーやコンサートに行っていればよかったのに、仕事をしなくちゃいけなくなったよ』とね」。
間近に迫るパブリッシャー
メディア企業のご都合主義も揺れている。デュオポリーによる独占は、パブリッシャーにとってとりわけ大きな弱点となっている。おかげで、FacebookとGoogleに掲載されなかったデジタル広告の残骸をどう扱うか、苦慮する羽目になっているからだ。たいていの場合、彼らがプラットフォームにコンテンツを配信した見返りに得られる売上はわずかなものなのだ。そこで、当然ながら、パブリッシャーは今回の出来事を利用したいようだ。大いに打ちのめされてきたパブリッシャーにとって、Googleに楔を打ち込むチャンスを逃すのはあまりに惜しい。
ここで忘れてはならないのは、この問題が、Googleを以前から挑発してきたニュース・コーポレーション(News Corp)の報道からはじまったことだ。ニュース・コーポレーションは、タイムズ・オブ・ロンドンの記事を引用してGoogleとFacebookを暗に批判した同社CEO、ロバート・トムソン氏の言葉をすばやく報道。そして、この記事がものすごい勢いで広まった。
調査会社ピボータル(Pivotal)のアナリスト、ブライアン・ウィーザー氏は3月20日、Googleの親会社であるアルファベット(Alphabet)の格付けを引き下げた。理由は、英国でブランドの安全に関する問題を引き起こしたためだ。同氏はその際、この混乱について報告したメディア企業の多くが、Googleの独占によって痛手を負ってきた企業だと指摘した。ウィーザー氏は、今後はこうしたパブリッシャーが「将来的にブランドの安全性が損なわれ、ブランドに悪影響が出る事態を喜び勇んで取り上げるようになるだろう」と予測している。
新興デジタルメディアのボックス・メディア(Vox Media)の会長兼CEOジム・バンコフ氏は、同社の有料広告市場「コンサート(Concert)」を、テレビネットワークのNBCUやパブリッシャーのコンデナスト(Condé Nast)に売り込んでいる。「我々は今回の件をチャンスと捉えている」とバンコフ氏は言う。そしてもちろん、同氏の同業者の多くが、同じように攻勢を仕掛けている。
Lucia Moses And Shareen Pathak(原文 / 訳:ガリレオ)
Image: courtesy of ▓▒░ TORLEY ░▒▓, via Flickr.