数年前から盛んになったビッグデータの議論はいまやIoTと人工知能(AI)の議論に発展している。爆発するデータ量は未来をどんどん変えており、もちろんマーケティングは例外ではない。
数年前から盛んになったビッグデータの議論は、いまやIoTと人工知能(AI)の議論に発展している。爆発するデータ量は、未来をどんどん変えており、もちろんマーケティング業界も例外ではない。
米サン・マイクロシステムズ社の共同設立者のひとりで、シリコンバレーの黎明期を知るスコット・マクネリ氏は9月20〜21日に開催されたアドテック東京で「現在の世界でもっとも大きな変化はビッグデータだ」と語った。マクネリ氏はIoTが浸透した世界は、ビッグデータドリブンな「接続された」サービスが支配し、ブランドは厳しい役回りになると分析。「今後2年間で収集されるデータ量が、それ以前のデータの総量を超える時代を我々は生きている」。
ビッグデータの処理能力を握るものが勝つ
このなかで爆発的なデータ量を握り、ソリューションを生み出すプレイヤーが圧倒的に優位に立つことが考えられる。モバイル、PCなどから生まれるデータの確保競争については、Google、Facebookなどが勝利を収めている。今後はさまざまな機器にセンサーが搭載される流れだが、このデータ量をもとに人々にベネフィットをもたらせるかが重要になる。
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「私の息子はゴルフに熱中し、テレビは観ない。『誰かが私に何かを売ろうとしている』と受け取る」。マクネリ氏はA/Bテストなどのアプローチでインターネット上のバズを生み出すBuzzfeedを素晴らしい例とした。
「ビッグデータをリアルタイム処理するにはマシンラーニング(機械学習)が必要になる」。ヤフー株式会社CSO安宅和人氏はアドテック東京初日のセッションでそう語った。ビッグデータはこれまでの行動観察データを超えるもので、発生するすべての事象(全量)がほぼリアルタイムでデータ化されるという全量性が重要になると分析する。
機械学習には実用例がたくさん
『AIに職を奪われる』というようにAI対人間という文脈で語られるが、むしろAIというコンピューティングパワーを使う人とそうでない人のあいだに大きな差が現れる時代だと語る。「ビッグデータのロングテールは長い。ヤフーの検索の場合、年間に検索されるワードの種類は80億種類以上に及んでいる」
安宅氏はGoogleのさまざまなプロダクト、Amazonのレコメンデーションエンジンなど機械学習を活用したサービスはすでに存在していると指摘。独消費者金融Kreditech(クレディテック)は、ビッグデータ与信とも言うべき仕組みを採用しているという。個人向け融資を行うとき、銀行明細やFacebook、Amazonにまたがる履歴、つながりなどのデータをもとに与信審査を瞬く間に終える。
Google Awareness APIでは人のコンテクストをもとにその人が必要とする情報を予測することがはじまっているという。Amazonもその人のニーズを予測し、注文完了前に発送プロセスを開始している。生データをインサイトデータに変換する。
データマーケットの可能性
東京大学工学部教授でシステム創成学科学科長の大澤幸生氏は、衣料品向けの生地メーカーのマーケティング事例を紹介。売れ筋の生地の分布をビジュアライズすることで傾向を掴んだ。
データは過去の情報の蓄積なため、今後のトレンドを予測するのに不十分だとし、商品やサービスなどのアイデアのディスカッションを行い、そこで交わされた言葉を分析することで「未来」予測を組み込む方法を考案したという。
大澤氏は「コンパクトデータという2、3のデータから重要な情報を生み出すことを目指す手法も存在する」と語った。「このデータをこう使うから、この値段で売って欲しいというデータマーケットが存在しうる」。
安宅氏は、ビッグデータがビジネスでうまくワークするための条件として、以下の3点を指摘している。
- メタ化されたデータ
- データとIDの紐付け
- データの大きさ
安宅氏は「これらが揃うと爆発する」と語った。「どう市場のニーズをパッケージするか。コンテクストやデモグラフィックを利用し、データを立体的にするかという部分、つまり人間がどう考え、何をしたいのかを解明するのには時間がかかる。他方、人に何を手渡すかという部分はかなり進んでいる」と語っている。
Written by 吉田拓史
Photo by Thinkstock