スポーツ配信にAmazonが注目している。Amazonのこの動きは、テニスやアメリカンフットボールの配信が、Netflixとのビデオ配信競争において、有利に働く可能性があるという狙いに基づいている。
スポーツ配信にAmazonが注目している。Amazonのこの動きは、テニスやアメリカンフットボールの配信が、Netflixとのビデオ配信競争において、有利に働く可能性があるという狙いに基づいている。
eコマースの巨人Amazonが、スポーツのストリーミング配信権をここ数カ月求めている。特にラグビー、ゴルフ、そしてテニスという全世界で普遍的に視聴者が存在する種目に積極的に働きかけているようだ。視聴ユーザー数といったNetflixにまだ及ばない分野や、プライム会員の増加に向けて、これらのスポーツ配信が役に立つ可能性がある。コムスコア(comScore)によると、4月には、アメリカにおけるすべてのOTT視聴家庭における視聴時間のうちプライムサービスが占める割合は7%だった。一方のNetflixは、40%という数字を出している。
現在行っている急速な拡大路線を続けるのであれば、消費者がコンテンツを見るための一番のプラットフォームにならないといけないことをAmazonは理解している。Amazonが抱えるエコノミストやデータサイエンティストたちは、ビデオがどうユーザーの購買習慣に影響を与えているかを分析している。彼らによると、プライムビデオを見るユーザーは、メンバーシップを更新する傾向、そして無料トライアルから正会員になる傾向が強いという。コンテンツとコマースのこういった相関関係は見られているものの、まだスポーツ配信によって会員数が増加するだろうと決め込むのは時期尚早だ。
Advertisement
スポーツを配信する意味
メディア所有者としては、世界規模でのスポーツ配信権に対して何千万ドルも支払うためには、それによって十分な数の人々がプライムの有料会員となって必要な投資利益率を達成することができる、という確信が必要となる。
一方、ゴルフ、クリケット、そしてF1は、より大きなオーディエンスにリーチしたいと考えている。しかし、まだ実証されていないAmazonのプラットフォームとパートナーシップを組むのは、彼らにとってもギャンブルだ。その結果、スポーツ配信に関してAmazonが狙うのは、リスクが双方にとって比較的小さい分野となる。これはFacebookも同様だ。たとえば、衛星放送事業者スカイ(Sky)は、サッカーのプレミアリーグを2016年から2019年のあいだ放送するために、年間18億ドル(約1950億円)という大金を支払っているのに対し、Amazonが男子プロテニス協会との5年契約で支払っているのは年間1300万ドル(約14億円)だ。
この金額の差は、いかに人気のスポーツを放送するためには大金が必要であるか、また放送できたときのメリットの大きさを語っている。金額を考えると、Amazonが好機を求めてタイミングを見計らっているのは理解できる。今後もほかのスポーツがAmazonのラインナップに加わるのは確実だ。今シーズンのNFL木曜ゲーム、クリスマスゲームをAmazonが配信することになったが、これでマーケットの手探りが行われている状態だろう。
テニスに関しては2019年まで配信されることはない。現時点ではAmazonのビデオ戦略に、どうテニスが組み込めるのかを決めるのはまだ早すぎるだろう。プライム会員の数をただ増やすために活用されるのか、それともAmazonチャンネルのほかのグループと並んで、プライムのレベニューシェア追加サービスとして加わるのか。
リーチよりも収益がすべて
スポーツマーケティングの専門家のなかには、Amazonと契約しているスポーツが重要視するのはリーチよりもプライム会員からの収益だと考える者もいる。彼らによるとライセンスをほかのバイヤーに渡す可能性も低いだろう、とのことだ。スポーツとエンターテイメントのエージェンシー、オクタゴン(Octagon)のシニアバイスプレジデントであるジョエル・シーモア−ハイド氏は次のように語る。
「Amazonと男子プロテニス協会の契約の一番のモチベーションは収益だ。Amazonはイノベーティブなパートナーかもしれないが、究極的にはコンテンツはプライム会員に限定する可能性が高い。その場合、リーチは限られてくる。(中略)収益がほかのどんな要素よりも重要なのは事実だ。これはリーチを犠牲にしてでもこれまで有料TVプロバイダーとのあいだで交わされた契約の多さが物語っている。UEFAチャンピオンズリーグがその分かりやすい例だ。ファンやスポンサーから、そのアクセスの狭さから批判を受けたにも関わらず、BTスポーツ限定で配信されている」。
Amazonのスポーツ配信モデルへのアグレッシブな参入が男子プロテニス協会やスカイに与える脅威は、ハリウッドであったりリテール業界がAmazonに感じている脅威ほどではない。スポーツ分野ではAmazonはライブストリーミングという新しい分野においてGoogleやFacebookと競争している。マーケットがその脅威を感じるのは、2021年にNFLの全米放送権に関するメジャーな権利が売りに出されるときだろう。そのときまでには、5Gネットワークが普及されており、さらに高速な通信網によって膨大な数のデバイスにコンテンツを配信できるようになっているはずだ。
Seb Joseph(原文 / 訳:塚本 紺)