目前に迫ったピンタレスト(Pinterest)のIPOが、同プラットフォームがソーシャルコマースの未来で果たす役割の大きさについて、新たな疑問を生じさせている。ピンタレストは自社を究極の「発見」ツールとして位置づけているが、ユーザーをピンから購入へ導くためには、より優れたコマースツールが必要になる。
目前に迫ったピンタレスト(Pinterest)のIPOが、同プラットフォームがソーシャルコマースの未来で果たす役割の大きさについて、新たな疑問を生じさせている。
ピンタレストは3月22日に提出したフォームS-1のなかで、自社をソーシャルメディア企業ではなく、「夢をプランニングするためのプロダクティビティ(生産性向上)ツール」と説明している。ピンタレストは小売業者に、ウェディングデコレーションや、出産を控えた女性に贈るプレゼント、インスタントポットなど、顧客がどんな商品を買ったのか、あるいは探しているのかを可視化する手段を提供している。
ピンタレストは自社を究極の「発見」ツールとして位置づけているが、ユーザーをピンから購入へ導くためには、より多くの広告主にピンタレストは時間と予算をかけるに値すると確信してもらうためにも、より優れたコマースツールが必要になる。
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ピンタレストは過去、ユーザーがピンしているものと買うかもしれないものの点をつなぐことに苦労してきた。初期のころなら、ユーザーがピンタレストで見たものを買う手伝いをするということは、購入ボタンを実装したり、自社製品をフィーチャーしたピンをユーザーのフィードのトップに広告主がプロモートできるようにしたりすることを意味した。しかし、ブランドや小売業者のクリティカル検索・発見・買い物ツールになるために、ピンタレストは自社のマネタイズ戦略を購入ボタンのはるか先へと進化させ、ここ数年間で新たな広告ユニットを追加し、「Pinコード」やビジュアル検索ツールなどの新技術を開発してきた。
ピンタレストが商取引の促進に向けて少しずつ前進してきた一方で、同社の最大のライバルであるインスタグラム(Instagram)は先ごろ「インスタグラムチェックアウト(Instagram Checkout)」をローンチし、いままさに躍進を遂げつつある。インスタグラムが取引データを集めれば集めるほど、ピンタレストが顧客の意図をもっともよく知るプラットフォームとしての独自の地位を奪われるリスクは高くなる。
「ファネルのトップをめぐる争いが繰り広げられるはずだ」と、ビジュアルコマースプラットフォームのキュラレート(Curalate)で最高経営責任者を務めるアプー・グプタ氏は語り、インスタグラムチェックアウトとGoogleによるショッパブル広告への進出を引き合いに出した。「まだどこも勝利を確信してはいないと、私は思っている」。
購入ボタンの先にあるもの
小売業者に対するピンタレストの最大のバリュープロポジションのひとつは、可能な限りシームレスなショッピング体験を作り出し、ユーザーがピンタレストで好きなアイテムを見つけて、それを買いに行けるようにすることある。そのためのフォーマットをピンタレストはまだ完成させていないが、それは同社のライバルたちも同じだ。
ピンタレストは、顧客がサイト内で商品を買えるようにする「バイアブルピン(Buyable Pins)」を2015年にローンチした。が、同年秋にバイアブルピンを廃止し、リデザインを施した「プロダクトピン(Product Pins)」を発表した。リデザインの一環として、ピンタレストはダイナミックプライシング情報を可能にし、同時に商品が在庫切れの場合の通知も可能にした。ピンタレストのショッピングプロダクト部門を率いるティム・ワインガーテン氏は、顧客のためにシームレスなショッピング体験をつくるうえで、こうしたさまざまな情報がもっとも重要であると同社は考えてきたと述べる。
「商品をクリックしたら、小売業者の商品ページに行って、その商品を買いたい。小売業者のホームページやカテゴリーのページ、在庫切れの商品のページに飛ばされて、がっかりしたり、いらいらしたりするのはごめんだ」とワインガーテン氏は昨年10月に語った。ピンタレストは3月、小売業者は自社の商品カタログをピンタレストにアップロードし、プロダクトピンを最新情報を用いてより迅速に作成できるようになったことも発表した。
eマーケター(eMarketer)でeコマースアナリストを務めるアンドリュー・リップスマン氏によれば、ピンタレストのコマース機能の進化はソーシャルコマースという考え方がどのように進化してきたのかを示しているという。つまり、インスタグラムなりピンタレストなりの画像に「購入」ボタンをさっと組み込むだけではもはや十分ではないということを。
「私が思う課題のひとつは、ほとんどの人にとって、ショッピングはそれほど直線的なものではないという点だ」と、リップスマン氏は語る。「値段が下がったとか、近くで手に入るとかいったような、役に立つ情報をプッシュすることで、ユーザーを購入に近づけることができるのだ」。
インスタグラムはチェックアウトのローンチで、すでにピンタレストが失敗したことに挑戦している。つまり、シームレスなアプリ内課金体験の実現だ。しかし、インスタグラムにはアドバンテージがある。はるかに多い日次アクティブユーザーを抱えているということ、多くの小売業者にとってのより大きな広告チャネルであるということだ。インスタグラムチェックアウトが目覚ましいトラクションを得るようになれば、コマースにおけるピンタレストのさらなる野望は打ち砕かれることになるかもしれない。
広告は有望だが、リーチは少ない
ピンタレストがソーシャルコマースの未来であるということを小売業者に確信してもらうためには、彼らを説得してピンタレストに対する広告費を増やしてもらうしかないだろう。
ピンタレストは過去、そのマネタイズの遅さで批判されてきた。ピンタレストが広告に乗り出したのは、いまから4年前のことだった。その結果、ピンタレストの手元には、そのハイプサイクルの最盛期にもっとも頻繁に比較されたプラットフォームであるFacebookよりも、はるかに少ないターゲットオプションや広告フォーマットしかない(Facebookには2007年から広告ユニットがある)。2億5000万人というピンタレストの月間アクティブユーザーもまた、Facebookの23億人に比べると大幅に少ない。ピンタレストが小売業者を説得して出稿を増やしてもらう努力をする過程で、このことが補わなければならない非常に不利な状況を同社にもたらしてきた。
「小売業者がピンタレストから得るトラフィックはほかのソーシャルプラットフォームの倍のレートで変換されているかもしれないが、一般的にその量は小売業者が得るトータルトラフィックの1%以下だ」と語るのは、ピュブリシス(Publicis)で最高商務責任者を務めるジェイソン・ゴールドバーグ氏だ。「したがってピンタレストは、このマーケティングミックスに参加する資格は得ているかもしれないが、一般的にその重要度は高くない」。
ピンタレストはIPOに至るまでの過程で、さらなるターゲットオプションはもちろん、動画などの新たな広告フォーマットのローンチにより、さらに多くの広告主を獲得しようと努力してきた。デジタルエージェンシー、ワラルーメディア(Wallaroo Media)の創業者であるブランドン・ドイル氏の推定によれば、ピンタレストで利用できる広告フォーマットの数は、この1年間で4~5種類から約20種類に増加してきているという。とりわけ、ここ2年に渡ってピンタレストが力を入れてきたのが動画広告で、直近では昨年6月に、より大型の新たな動画広告フォーマットをリリースしている。
ピンタレストには追い風も吹いている。そのひとつが、これまではFacebookやインスタグラムに出稿を頼ってきたDTCブランドが、これらプラットフォームの広告コストが上昇するにつれて、ほかのチャネルでの出稿に目を向けるようになっているということだ。実のところこれが、それに向けたセルフサービス度の高い広告ツールの開発に着手しつつあるとピンタレストがフォームS-1のなかで述べているデモグラフィックなのだ。
さらには、ピンタレスト最大のバリュープロポジションのひとつもまだ公開されていない。ユーザーがカスタマージャーニーのリサーチフェーズ内のどこにいるのかを広告主が正確に把握できるようにすることだ。アメリカのホームセンターチェーン、ロウズ(Lowe’s)のターゲットマーケティング部門でバイスプレジデントを務めるシャノン・バーサッジ氏は、これこそ同社がいま解決に取り組んでいる課題のひとつだと述べる。同氏によれば、ロウズは現在、ピンタレストのユーザーが商品を買おうとしているタイミングを特定するためのプレディクティブモデリングのテストを行っているという。わかりやすい例をあげると、あるユーザーが新しいシンクを買った場合、バスルームのリノベーションを仕上げるために、その人はほかの商品もピンタレストで見たくなるだろう。
加えて大きな課題は、ピンタレストのユーザーが商品のリサーチを開始しかけている時点で、彼らにリーチすることだ。グプタ氏は、家を買うのはまだ何年か先の話だが、ピンタレストで自身が考える「ドリームハウス」のボードを作成するかもしれないユーザーをその一例としてあげた。ピンタレストはフォームS-1のなかで「広告効果を測定する既存ツールの多くは、ユーザーの意志決定プロセスの初期段階における広告の持つ重要性を評価しない」と述べている。しかし、ピンタレストが意思決定プロセスの初期段階でユーザーのターゲティングを支援できることを広告主に証明できれば、それが力となって、ピンタレストは多くの取引を勝ち取れるかもしれない。
「いまのところはピンタレストの広告を非常に気に入っている。プライバシーの問題もないし、スキャンダルもない。ブランド各社は安心してピンタレストに広告を出している。それに、競争入札もそれほど激しくないので、通常はコストも安く抑えられる。特にeコマースブランドのデモグラフィックが女性中心の場合は、考える必要さえない」と、ドイル氏はいう。
スーパーマケットチェーン、アルバートサンズ(Albertsons)で広告・マーケティング部門のシニアバイスプレジデントを務めるショーン・バレット氏もピンタレストを称賛し、いくらのマーケティング予算をピンタレストへ投じているのかは明かさなかったものの、「我が社がピンタレストへの出稿から得ている成果は、デジタルメディアのなかでもトップクラスだ」と述べている。
アドテクの推進
またピンタレストは、ソーシャルコマースのエッジケースを試行するリーダーでもある。その最たる例がビジュアル検索だ。ピンタレストは2017年、同社初のビジュアル検索ツール「レンズ(Lens)」を発表した。「レンズ」を使うと、スマホのカメラを特定のアイテムに向ければ、ユーザーが検索しているものに似たアイテムの画像が表示される。ピンタレストは昨年、「レンズ」を使ったビジュアル検索が毎月6億回行われていると発表した。
ビジュアル検索が買い物目当てのユーザーの日常習慣になる見込みは少ないが、それがデータ収集に役立つことは確かであり、そのデータを使えばレコメンド機能を向上できるはずだ。
また、ピンタレストはここ数年、ビジュアル検索ツールを使って、オンラインとオフラインの購買行動を結びつける実験も行ってきた。バレット氏によれば、アルバートサンズは昨年夏から、Pinコード(ピンタレストが2年前に開発した、QRコードのような機能)のテストを行っているという。顧客がスマホのカメラをPinコード(一部店舗の食肉・鮮魚コーナーにディスプレイされている)に向けると、顧客はピンタレストにアップされているおすすめレシピに誘導される。
「買い物客にとっては(QRコードよりも)こちらのほうがいくらか自然なようだ」とバレット氏は語る。「顧客はすでに、レシピや食事のヒントを見つけるための場所としてピンタレストを受け入れている。棚札やディスプレイにPinコードを貼って、すぐにそれとわかるようにしている」。
その「発見」という大望をさらに強固なものにするピンタレストは先日、ウォルマート(Walmart)の最高技術責任者であるジェレミー・キング氏をエンジニアリング部門の代表として迎え入れると発表した。
「これまでのキャリアのなかで、私はチームを育て、ポジティブなオンライン体験をオフライン体験に結びつけるためのプロダクトを開発することに力を注いできた」と、キング氏はその際、声明のなかで述べた。「ピンタレストでそれを続けられることを心からうれしく思う。ピンタレストは、インスピレーションを求めて日常的に行われる検索にコンピュータービジョンなどの技術を結びつけることで、発見における可能性を再定義し、ユーザー2億5000万人の生活に本物のインパクトを与えている企業だからだ」。
Anna Hensel (原文 / 訳:ガリレオ)