TikTokはいまや、Z世代のみにリーチするためのプラットフォームではない。これは、博報堂DYホールディングス、博報堂、博報堂DYメディアパートナーズの共同研究プロジェクトであるコンテンツビジネスラボによって発表された、 […]
TikTokはいまや、Z世代のみにリーチするためのプラットフォームではない。これは、博報堂DYホールディングス、博報堂、博報堂DYメディアパートナーズの共同研究プロジェクトであるコンテンツビジネスラボによって発表された、2年前の「コンテンツファン消費行動調査」で自明の事実だ。
同調査は2011年から毎年行われており、全国の15~69歳の男女約1万人を対象に、エンタテインメントやスポーツなど計11カテゴリのコンテンツに対する消費行動の実態を調査したもの(インターネット調査、2023年の調査時期は3月10〜15日)。調査のなかには、主要なプラットフォームにおけるユーザー動向の分析も含まれている。
2年前の調査でわかった、TikTok利用層の平均年齢は約34歳だったが、今年2023年の調査では、約36歳に上昇していることがわかった。コンテンツビジネスラボの谷口由貴氏は、「サービスは多くの人に使われるようになればなるほど、利用層が日本人の平均年齢に近づいていく。この変化は、TikTokがより多様な世代に使われるようになってきた証だろう」と語る。
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DIGIDAY[日本版]では、今年も谷口氏にコンテンツファン消費行動調査について話を聞く機会を得た。例年どおり、とくにTikTokの調査結果に焦点を当て、同プラットフォームの利用者層を紐解いていく。

谷口 由貴 hakuhodo DXD / コンテンツビジネスラボ
2017年博報堂入社。同年より研究開発局にて研究員として若者研究やARクラウドを用いたサービス開発に従事。また、コンテンツビジネスラボのメンバーとしてエンタメ領域のコンテンツ消費行動研究を行い、音楽分野担当として音楽ヒット分析等を行っている。2020年よりマーケティングプランナーとしてサービス開発の戦略立案を行う。2022年よりhakuhodo DXD所属。
検索に近いような使われ方に変化
2023年度の調査によると、TikTokの利用層について正しくは平均が35.95歳となり、2022年の調査結果である34.70歳よりも1.25歳上昇したことがわかる。年代別にみてみると、10〜30代の利用が依然として高いものの、昨年と比べて60代の利用が上がっており、多くの年齢層にじわじわと受け入れられてきたことが読み取れる。
また、TikTok以外の主要なSNSや動画サービスと比べると、やはり利用層は若めなものの、従来のイメージである10〜20代のみのサービスという概念は、もはや一昔前の話のようにも見える。
「従来は好きなアイドルや好きなクリエイターを見るためだけの本当にエンタメのみに特化した楽しみ方だったが、最近ではたとえばレストランを探したり、旅先でのレジャーを探したりなど、検索に近いような使われ方をするようになってきた」と谷口氏は話し、「困ったときや疑問を持ったときに使えるツールとして、ユーザーのなかで認識されてきているのではないか」と予想した。
これはつまり、ブランド側からすれば、Z世代などの若年層に加えて、購買力をしっかりと持った世代にも問題なくリーチできるようになってきているということだろう。
TikTokユーザーはエンタメ系コンテンツの消費金額が高い
とはいえ、メインの利用層が10〜30代であることに変わりはない。同調査では、TikTok利用層がほかの主要なプラットフォームのユーザーと比べて、エンタメ系のコンテンツに対する支出金額が多いこともわかっている。
TikTokユーザーは漫画やゲームなどに対する支出が高いことはもちろん、スポーツやレジャー施設などのカテゴリにおいて積極消費がみられることも注目に値する。若年層は購買力が弱いというイメージがあるものの、エンタメコンテンツの支出に関しては、購買をリードしているようだ。
コロナ禍によって室内でのコンテンツ消費は堅調となり、その傾向はいまでも変わらないようだが、加えて「コロナ明けによってリアルイベントの需要も増えている」と谷口氏は言う。
また、同氏はエンタメ系コンテンツとTikTokの親和性について、「相性がよいのは間違いない」と語り、「TikTokではすべてがエンタメコンテンツとなって投稿される。そのため視聴者の心を揺さぶりやすく、動画コンテンツであることからわかりやすさもある。情報量も多く、試してみたり購入してみたくなりやすいのだろう」と、TikTokの強みを話す。
シームレスなレコメンド機能と多様なコンテンツ
さらに、コンテンツを消費する際のユーザーの意識について調査結果をみてみると、DIGIDAYの昨年の記事同様、TikTokユーザーは衝動買いをしやすい傾向が読み取れた。今年の調査でもTikTokユーザーは、動画コンテンツを見て「ふと欲しくなったものを購入したことがある」「今まで興味がなかったものを急にほしいと思うようになることがある」といった項目値が、ほかの主要プラットフォームと比べて高かった。これこそが、いわゆる『TikTok売れ』の背景とも言えるだろう。
谷口氏は、「これはTikTokというプラットフォームの特性が大いに影響している」と語る。TikTokは、強力なレコメンド機能によって興味を持ちやすいような動画をタイムラインに表示している。シームレスな表示でユーザーもレコメンドされる動画を見るのに違和感を抱かない。「これが、衝動買いのような行動に繋がっていく」と、同氏は付け加える。
購買力を刺激するようなコンテンツがプラットフォーム内に多いという点もあるが、このシームレスなレコメンド機能が、TikTokがほかのプラットフォームと差別化している点とも言えるだろう。
また、さまざまジャンルのコンテンツが集まっていることも、購入意欲を後押ししているようだ。「認知から購入までのファネルを一気に進められることは、TikTokの強みだ」と、谷口氏は分析する。
ブランドが心得ることとは?
では、ブランドがTikTokを利用してマーケティング活動をする際、心得たいことは何なのだろうか。
「UGC(ユーザー生成コンテンツ)がひしめくプラットフォーム内において、『広告を作る』から『コンテンツを作る』という意識に切り替えることが大切だ」と、谷口氏は言う。ユーザーはエンタメコンテンツのなかにおり、エンタメと広告の見極める力に肥えている。そのため、純粋にコンテンツを作るという考えで活用していくのが、ユーザーに受け入れてもらえるもっとも正しい方法だということだろう。
また、同氏は「TikTokクリエイター、あるいはインフルエンサーの力を借りることも重要だ」と指摘し、「クリエイターやインフルエンサーであれば、プラットフォーム、ひいてはユーザーに寄り添った作り方を把握している」と言い添える。マス広告とプラットフォーム広告の考え方は大きく異なるためだ。
重要なのはプラットフォームの特性をしっかりと理解すること
膨大なコンテンツがあるなかで、ユーザーの可処分時間は限られる。いかに短い時間で、ユーザーの心を掴むコンテンツを作ることができるかどうかが、プラットフォームを活用したマーケティングの肝といえるだろう。
加えて、現在はプラットフォーム激動の時代を迎えており、マーケティングにおいてどのプラットフォームがもっとも有効なのかが不透明な状況だ。数々のプラットフォームがリリースされ、各社は機能面でもしのぎを削っている。こうした状況のなかで、何に注力するべきか悩むマーケターも多いだろう。
各プラットフォームの特性をしっかりと理解し、明確なターゲットを見据えてマーケティングをすることが、現代のマーケターに求められている。
Written by 島田涼平