ブロックチェーン で「知的財産」を保護、AP通信の挑戦:スタートアップと提携

シビルメディアカンパニー(The Civil Media Company)は、暗号通貨の販売を通じて、質の高いニュースメディアを支援するために設立されたスタートアップ企業だ。同社は現在、デジタル通貨を支えるブロックチェーン技術を利用して、ジャーナリズムを守る取り組みに乗り出している。

そのシビルが8月28日(米国時間)、AP通信(Associated Press)とふたつの項目から成る合意を交わしたことを明らかにした。AP通信は今後、シビルのネットワークに参加しているニュースメディアに、自社のコンテンツをライセンス提供する(ポッドキャストを手がけるジグザグ[ZigZag]やローカルニュースメディアのブロック・クラブ・シカゴ[Block Club Chicago]などのスタートアップを含む、計14社が対象)。また、シビルと共同で、ブロックチェーンを利用した技術の開発に取り組むことになる。この技術は、シビルのネットワーク各社が自社のコンテンツを追跡し、無断利用が見つかった場合にライセンス権を行使するためのものだ。

シビルは、今回の合意により、AP通信が持つライセンス、ビジネス手法、製品設計に関するノウハウを活用できるようになる。一方、AP通信は、シビルのネットワークを通じて新しい潜在顧客にリーチする機会を得るとともに、新しい技術であるブロックチェーンへの理解を深め、この技術を利用できるようになるだろう(シビルは、このブロックチェーン技術の構築に取り組むことを明らかにしているが、AP通信は、この技術への取り組みを正式には認めていない)。さらにAP通信は、シビルが発行するトークンを獲得することになる(このトークンの販売は9月18日から開始される予定だ)。このトークンは、質の高い倫理的なジャーナリズムを支援する自律的なシステムの構築を目指してシビルが開発しているツールのひとつだ。

コンテンツを守るため

非営利企業のシビルは、イーサリアム(Ethereum)ブロックチェーンを利用する企業を支援するコンセンシス(ConsenSys)から500万ドル(約5.5億円)の資金を調達した。また、メディア業界から有力者を迎え入れている。たとえば、シビルの掲げる基本的価値の実現を支援する非営利財団、シビル・ファウンデーション(Civil Foundation)の理事長に就任したビビアン・シラー氏や、アドバイザーを務めるコロンビア大学のエミリー・ベル氏やギズモード・メディア・グループ(Gizmodo Media Group)前CEOのラジュ・ナリセッティ氏などだ。シビルのトークンは、シビルのネットワークに参加しているメディアを金銭的に援助したり、質の低いニュースメディアをネットワークから排除したりする役割を果たす。ワシントン・ポスト(The Washington Post)の元幹部、ジャロッド・ディッカー氏は、同じような技術的アプローチを利用してパブリッシャーのビジネスを支援するため、ブロックチェーンのスタートアップであるポエット(Poet)を設立した。

シビルの創設者兼CEOであるマシュー・アイルズ氏によれば、同社のブロックチェーン技術にはふたつの狙いがあるという。ひとつは、パブリッシャーやクリエイターが自分たちのコンテンツを簡単にライセンス提供できるようにすること。もうひとつは、許可なく利用されているコンテンツを簡単に追跡できるようにすることだ。ESPNに長く在籍していたアイルズ氏が、複数の大手メディア企業の話として述べたところによると、彼らが公開したコンテンツの50~70%が、クレジットや報酬なしに転載されているという。しかも、強力な法務部門を抱えている彼ら大手メディアでさえ、こうした違反を追跡するのは難しいという。

「コンテンツを作成している人々が、そのコンテンツをまったくコントロールできていない」と、アイルズ氏は語る。「そのため、コンテンツを作成した人が、そのコンテンツが公開されている場所にかかわらず、作成者として認められ、価値あるコンテンツを追跡して、クレジットと報酬を得られるようにしたいのだ」。

3カ月以内にリリース

AP通信で戦略およびエンタープライズ開発担当シニアバイスプレジデントを務めるジム・ケネディ氏によれば、シビルとの提携でもっとも関心を持っているのは、APの記事を読んでくれる新しい顧客を見つけ出すことだが、知的財産権の保護も重要な関心事だという。

「現時点では、インターネットに何らかのコンテンツを配信しても、それが最終的にどのように消費されているのかを完全に追跡することはできない」とケネディ氏は話す。「従来のメディア企業にコンテンツをライセンス提供している場合には、コンテンツの追跡は非常に簡単だ。しかし、インターネットの場合は、簡単ではない。我々が誰かと契約を交わし、記事を利用する権利を彼らに認めれば、彼らはたいてい(契約に)従う。だが、記事が公開されると、記事の一部を削ったり、切り貼りしたりすることが自由に行われる。かつての我々であれば、記事を無料で利用する人のことを懸念するだけだった。だがいま、このような人たちは皆、フェイクニュースやデマを流すために記事を利用している。このような状況のおかげで、誰が記事の公開を許可されているのか、その記事がどのように利用されているのかを正確に追跡して記録しようという機運が生まれたのだ」。

アイルズ氏によれば、シビルでは3カ月以内に製品をリリースしたい考えだという。価格はまだ決まっていないが、シビルのネットワークに参加しているメディアは無料で利用できるようになる可能性が高い。

Lucia Moses(原文 / 訳:ガリレオ)