自社のオンライン広告がどこに表示されるか、マーケターは常に気を使うものだ。このような動きは、テキストがないためにコンテンツの危険度がわかりにくいオンライン動画で特に顕著だ。しかしYouTubeは現在、GARMが定義する標準に基づいて、問題解決を図ろうとしている。
自社のオンライン広告がどこに表示されるか、マーケターは常に気を使うものだ。表示位置の問題には、終わらないパンデミックと社会的混乱を背景にさらに重点が置かれるようにもなっている。
それと同時に彼らには、政治や社会不安といったブランドの評価を著しく損ないかねない「地雷」に対して、一層明確な立場を示すことも求められている。現在の情勢に照らして考えれば、「革新的でセーフティ・ファースト(つまり保守的)な」マーケターは矛盾でも何でもないはずだが、実際には矛盾がある。
自社広告を明らかに危険なコンテンツから自動的に離して表示する方法はいくつもある。だが、自社のブランドセーフティ戦略の基準をぎりぎりクリアするコンテンツを広告主が見極めるのは容易ではない。広告を隣接表示したくない危険なコンテンツかどうか、判断基準は広告主によってまちまちであり、そのため広告プラットフォームも広告検証パートナーも、表示位置の管理には苦労している。今日では、メディアオーナーに頼らず、広告主側が厳格な制約を設けることで不適切なコンテンツを避けるほうがずっと簡単だ。
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このような動きは、テキストがないためにコンテンツの危険度がわかりにくいオンライン動画で特に顕著だ。しかしYouTubeは現在、責任あるメディアに向けた世界同盟(Global Alliance for Responsible Media。以下GARM)が定義する標準に基づいて、問題解決を図ろうとしている。
新基準の基本的な考え
基本的な考えとしては、テロリズム、議論の的になっている微妙な社会問題、武器・兵器といった11種類のコンテンツ・カテゴリーについて、広告表示に相応しいかどうかを判断する共通の定義もしくは基準が広告主に提供されるというものだ。
さらに、ゼファー(Zefr)が開発した機械学習とヒューマンモデレーターを組み合わせた技術を用い、広告主がコンテンツの「ブランドスータビリティ(ブランドとの適合度)」を、高中低の3段階のリスク基準に従って、効果的に判断する。たとえば、「成人向け・露骨な性描写を含むコンテンツ」カテゴリーであれば、性教育動画などはリスクが低い動画に分類され、広告主によってはブランドに適合していると見なすことになる。リスクが中くらい、または高いに分類される動画は、テレビでも放送できないほど過激な内容の恐れがあるといった具合だ。これらのリスク基準をベースに、広告主が必要に応じて独自の制約を加えることもできる。
YouTubeの新たな基準について、アドテク企業アデレード(Adelaide)でCEOを務めるマーク・ガルディマン氏は次のように指摘する。「標準化することで、売り手は適合度をチェックし、コンテンツを微調整して収益化を図れるようになるだろう。ただし、ビューアビリティ(可視性)をはじめとする広告指標で起きたように、コンテンツの品質が許容最低限まで低下する恐れもある」。
今後はほかのプラットフォームやオープンウェブのメディアオーナーがYouTubeに追随し、GARMの標準を採用する動きがみられそうだ。現時点で具体的なプランは発表されていないが、プラットフォーム各社はここ数週間で、2020年1月にスタートした異業種間イニシアチブGARMの取り組みを支持する立場を相次ぎ明らかにしている。
賛否両論のエージェンシー
メディアエージェンシーのグループエム(GroupM)でアメリカ全土のブランドセーフティ担当マネージングパートナーを務めるジョー・バロン氏はこう述べる。「プラットフォームだけではなく、オープンウェブ全体でこのフレームワークの採用を推し進めたいと考えている。そのために主な広告検証プロバイダーと協働して、プログラマティックダイレクト取引やその他の取引方法にもこのフレームワークが通用するかどうか評価しているところだ」。
広告主にとって、ブランドスータビリティの標準化は、コンテンツのブロックに際して保守的になり過ぎるのを避けられるという利点がある。ブロックリストが広告主の求める成果をもたらさないのは珍しいことではない。事実、新型コロナウイルスの感染拡大当初、ウイルスと関係があるという理由でブロックされたコンテンツの量が増えたせいでインベントリーが人為的に圧迫され、メディアコストが意図せず上昇するという現象が起きている。
大手エージェンシーのハバス・メディア(Havas Media)でプログラマティック部門とオペレーション部門のシニアバイスプレジデントを務めるトム・グラント氏は、次のような懸念を示している。「当社のクライアントにとって、ブランドスータビリティは容易に取り組める課題ではない。コンテキストターゲティングのようにさまざまなシグナルを使って広告のリーチを伸ばす手法でありながら、極めて保守的なブランドセーフティの概念に基づいており、ふたつのコンセプトがまったく相容れないという問題がある。この技術に信頼を置きつつ、ブランドセーフティの基準をどこで緩めるべきかを自ら判断するのは、クライアントにとって簡単なことではない」。
「さまざまなアイデアを検討中」
なかには、動画コンテンツのブランドセーフティを保証するようアドテク企業に求める広告主もいる。自社のスータビリティ基準に合わないインプレッションには投資したくないという考え方だ。とはいえ、測定不可能なインプレッションを保証するのは容易ではない。だからこそ、YouTubeの新基準は広告主にとって、莫大なビューアブルインプレッションの費用を検討するときのように、スータビリティをひとつの指標として活用するための第一歩となり得るのかもしれない。
エージェンシーのマグナ・グローバル(Magna Global)でメディアスタンダード担当ディレクターを務めるハリソン・ボーイズ氏はこう語る。「我々も、ブランドスータビリティをいかに利用できるか、さまざまなアイデアを検討している。当社のクライアントのなかには、コンテンツが持っているニュアンスについてもっとよく考え、自社広告にとって視認性が高く、詐欺の心配がなく、ブランドセーフティにも優れている分野をクオリティCPMベースで探そうという動きもある」。
[原文:As YouTube adopts new standards, the transition from brand safety to suitability is accelerating]
SEB JOSEPH(翻訳:SI Japan、編集:長田真)