ボイコットをもってしても、Facebookの広告事業にとどめを刺すことはできないようだ。ボイコットが7月31日に公式に終了したのちも、一部のFacebook広告主は出稿の停止を継続する意思を表明している。しかし、売上の低下が同プラットフォームのバランスシートに影を落とすことはほとんどなさそうだ。
ボイコットをもってしても、Facebookの広告事業にとどめを刺すことはできないようだ。ボイコットが7月31日に公式に終了したのちも、一部のFacebook広告主は出稿の停止を継続する意思を表明している。しかし、売上の低下が同プラットフォームのバランスシートに影を落とすことはほとんどなさそうだ。
Facebookの収益には、ほぼ影響なし
先日開かれた直近の収支報告の場で、Facebookが7月全体の利益を明らかにすることはなかったが、7月第1~3週の広告売上は1~6月の前年比成長率と一致する10%の成長を記録したと報告した。つまり同社の成長は、出稿の停止を声高に叫ぶ多数の広告主を尻目に、今後も続いていきそうな気配を示しているのだ。最大手広告主の一部の足が遠のいているにもかかわらず。
パスマティクス(Pathmatics)が発表した2019年のデータによれば、Facebook広告主の上位20社のうち、5社(マイクロソフト[Microsoft]、ユニリーバ[Unilever]、ディアジオ[Diageo]、コカ・コーラ[Coca-Cola]、CVS)はメディア費を同ソーシャルネットワークから遠ざけつつあるという。これら5社が2019年にFacebook広告に投じた費用は、総額で2億3740万ドル(約250億5100万円)だった。
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ほかの上位20社の多くと同じように、これら5社もすでに過去3年間にわたってFacebookに割く予算を削減してきた。どの広告主もFacebookに戻らないことを言明はしていないが、いつ、どのような形で戻るかについても明らかにしていない。ユニリーバなど一部の企業は、年内はFacebook広告を購入する予定はないと述べている。一方、CVSをはじめとする広告主は出稿の停止を8月末まで継続し、同じく8月末に再開すべきかどうかを再検討するという。
引き続き精査を続ける広告主たち
ディアジオやコカ・コーラなどの広告主は、Facebook復帰のXデーを明確にしていない。ディアジオはFacebookに割くメディア費をどうするのかについて公式に発表していないが、同社に近い消息筋によれば、この出稿の中止は無期限で続く見込みだという。それに対してコカ・コーラは、とにもかくにも次のステップの詳細を明らかにしている。
コカ・コーラは1カ月前から全ソーシャルネットワークをボイコットしているが、これに関するアップデートのなかで、Facebookとインスタグラムに対しては、今後も出稿の中止を世界全域で無期限で続けていくと発表した。その一方で、YouTube広告とLinkedIn(リンクトイン)広告については、8月1日に購入を再開した。しかしながら、Facebook広告とインスタグラム広告の購入再開は、ヘイトスピーチ撲滅に対するFacebookの取り組みが、現在開発中の、ヘイトコンテンツに対する自社の新たな安全対策と比較したうえで、決定が下されるという。
このアップデートのなかでコカ・コーラは「前に進んではいるが、コカ・コーラはまだ目的地にたどり着いたわけではない」と述べている。「我々はいまも各プラットフォームの評価を続けている。ソーシャルメディアへの復帰には、チャネルごとに段階的にアプローチしていく予定だ」。
ビームサントリー(Beam Suntory)も同様のスタンスをとっている。
「アメリカ国内におけるFacebookとインスタグラムの有料広告の配信中止を、当社のブランドポートフォリオ全体に拡大しつつある」と、同社の広報担当者は語る。「ビームサントリーはまだ、自社のアプローチを変えるのに十分な進歩を確認できていない。この集団行動がポジティブな変化と説明責任に化学反応をもたらしてくれることを願っている」。
ほかの広告主もボイコットがはじまった7月初頭以来、ヘイトスピーチや誤報に対するFacebookの取り組みを独自に評価してきたが、同社の取り組みに対して満足の意を表している。
いち早く復帰したザ・ノース・フェイス
アウトドアアパレルメーカーのザ・ノース・フェイス(The North Face)を例にとってみよう。同社はボイコットに参加した最初の広告主のなかの1社として注目を集めたが、Facebookへの復帰をいち早く発表したなかの1社でもある。
同社の広報担当者はメールのなかで次のように述べている。
「ザ・ノース・フェイスは#StopHateforProfit運動の導入を通じて、アンチ・ディファメーション・リーグ(Anti-Defamation League:以下、ADL)とNAACPのサポートを発表した最初の大型ブランドになった。そのことを誇りに思っている。6月19日の署名以来、我々が確固たる変化を期待するエリアを明確にするための、建設的な話し合いをFacebookと行ってきた」。
「我々は最初の進歩に自信を得た。そして、変化は一夜にして起こるものではないと認識するようになった。だからこそ、これからもFacebookとの話し合いを続けていくつもりだ。彼らが実行を計画している活動について、その説明責任を彼らに課すためにも。ザ・ノース・フェイスはFacebook、インスタグラムとのビジネス関係を8月に再開するつもりだ。だがその一方で、親会社のVFコーポレーション(VF Corporation)とほかのVF系列ブランドに合流し、連合組織の形成に向けて動いてもいる。その連合組織はFacebookチームと定期的に連絡をとり、彼らの進捗具合を継続的に評価し、彼らが我々の価値観を大切にするパートナーであり、プラットフォームであるかどうかを判定することになる」。
なだめるだけの対策は打っている
コカ・コーラやディアジオなどの企業は、Facebookがヘイトスピーチをめぐる管理体制の変更にどの程度の準備ができているのかに対して、根強い懸念を抱いている。こうした広告主の懸念に対して、Facebookは譲歩を示してきた。
たとえば、移民や難民、亡命希望者をターゲットとするヘイト広告から彼らを守るための対策を強化し、コンテンツに「newsworthy(ニュース価値がある)」とラベルづけする決定を下したが、そうしなければFacebookのポリシーに違反したとして削除することにしている。ボイコットを主導する団体の代表たちは、Facebookがプラットフォームに流れるヘイトスピーチや誤報に対して具体的な解決策を講じると約束しようとしないことに「失望」感をあらわにしている。このことからも明らかなように、こうしたFacebookの対策の効果に議論の余地はあるものの、声高に非難する人々の一部をなだめるだけなら、それだけでも十分なようだ。
ハイネケン(Heineken)もFacebook広告とインスタグラム広告の購入を再開している。
「ソーシャルメディアの有害なコンテンツに対する懸念から、ハイネケンは7月、Facebookとインスタグラムにおける活動を休止する決断を下した」と、広報担当者はメールのなかで述べている。「その後、Facebookと綿密な話し合いを行ってきたが、グローバル・アライアンス・フォー・レスポンシブル・メディア(Global Alliance for Responsible Media)考案の4点行動計画に基づく彼らの新たなコミットメントには満足している。ハイネケンは8月からFacebookの各プラットフォームで出稿を再開するが、今後も彼らとの話し合いを続け、このコミットメントの進展を見守っていく」。
1カ月におよぶボイコットは崩壊
ストップ・ヘイト・フォー・プロフィット(Stop Hate for Profit)」ボイコットを後押しする、ADLやNAACPなどの公民権団体からなる連合組織は、Facebookが7月に示すべき譲歩に明確な期待を抱いていた。だが、ボイコットに加わる広告主の多くは、そうではなかった。パタゴニア(Patagonia)をはじめとする一部の企業はボイコット側の要求に賛意を表明したが、ほかの企業がそれに触れることはほとんどなかった。ユニリーバなどは自社独自のボイコットを展開し、ストップ・ヘイト・フォー・プロフィットからは距離を置いた。
また、ペルノ・リカール(Pernod Ricard)などはボイコットに参加はしたものの、これがFacebookの体質改善につながるという見込みに懐疑的な見方を示した。他社と同じように、同社もFacebookへの支出を再開した。だが、その一方で、ユーザーがオンラインで目にしたヘイトスピーチを報告できるアプリの開発も行っている。
対照的な見解がひしめき合うなかにあっては、1カ月におよぶボイコットは崩壊という結末を運命づけられていた。
「敗者はこの社会運動そのものだ」
「敗者はこの社会運動そのものだ」と、アドテクベンダーのインフォリンクス(Infolinks)でCEOを務めるボブ・レギュラー氏は語る。「Facebookは、彼らが長続きしないということを証明した。そして、集団的屈辱以外に──彼らの自尊心を傷つけうる中心的メッセージングプラットフォームを彼らが管理している以上、そのようなことは起こらないだろうが──彼らを思いとどまらせることができるレバレッジポイントはひとつもないということを」。
クロロックス(Clorox)など、Facebook広告主トップ20のほかの企業の反応は、ふたつに分かれた。ボイコット開始時に出したコメントに新たに付け加えることは何もないと述べる企業もあれば、この記事の配信前に回答が得られない企業もあった。その一例がファイザー(Pfizer)で、同社はあからさまにコメントを拒んだ。
SEB JOSEPH(翻訳:ガリレオ、編集:長田真)