広告需要が鈍化しているFacebookだが、そのなかでもコマース分野の強化に積極的に取り組みつつある。こうした動きは、オンラインの買い物客へリーチするためにFacebookを活用し、収益面で大きく依存しているEC企業にとっても重要だ。ボイコットの如何に関わらずFacebookは存在感を増している。
パンデミックによる不況で広告需要が鈍化しているFacebookだが、そのなかでも長期的視野のもとしたたかにコマース分野への進出に取り組んでいる。
Facebookの昨年度第2四半期の広告収益は、前年比で42%増だった一昨年からは鈍化したものの、166億ドル(1兆7600億円)で同28%増となっていた。同プラットフォームは現在コロナ禍のなかで広告収益の維持に努めているが、その一方でECへの取り組みも強めている。現在オンラインショッピングは急増しており、たとえば米国国勢調査局によれば、第2四半期のEC市場規模は前年同期比で31.8%増の2115億ドル(約22兆3300億円)に達している。
Facebookショップの強化を推進
市場調査会社グローバルデータ(GlobalData)によれば、Facebookはここ数週間、決済やEC、広告分野の上級職の雇用を進めているという。募集されているのはEC商品事業マーケティングマネージャー、ECマーケットプレイス事業技術プログラムマネージャー、EC商品マーケティングマネージャー、APAC地域決済パートナーシップ担当ディレクターといった役職だ。
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これは日本でも6月からサービス提供を開始したオンラインショッピング機能、Facebookショップに伴う雇用と考えられる。Facebookショップは、企業がアプリ上で仮想のストアを作成し、販売する商品を掲載できるEC機能だ。FacebookショップがこれまでのFacebookのショッピングサービスと異なるのが、プラットフォームに完全に埋め込まれている点だろう。
広告エージェンシーのプレシャス(Precious)でアカウントディレクターを務めるクレメント・マー氏は「D2C販売を行う大手のあいだでは、消費者の好みや行動を細やかに分析できるFacebookを重視しているブランドが多い」と語る。
ボイコット終了に安心するEC広告主
7月にはFacebookのボイコットがおこなわれたが、 世界的大企業の広告主の多くは1カ月ほどでこのボイコットを終えた。何社かの例外はあるが、ECを手掛けているブランドはほぼ例外なくFacebookに復帰している。
これは従来の小売企業にとどまることなく、EC事業への参加や拡大を試みている企業へと広がっている。D2Cスタートアップから高級ブランド、消費財メーカー、家族経営の企業に至るまで、オンラインでの商品販売にはFacebookの広告が必須と考える企業は多い。
ユーザーへ商品情報を表示するダイナミック広告をはじめ、こういった広告主はオンラインの買い物客へリーチするためにFacebookを活用している。たとえばデジタルエージェンシーのケンシュー・ソーシャル(Kenshoo Social)では、第2四半期の広告支出の2割をFacebookの広告が占めている。これは前年同期比で38%増だ。
ケンシューのSNS事業担当ゼネラルマネージャーのジョン・ドブロウォルスキー氏は「7月にボイコットをおこなったのはアッパーファネルの企業が多かった。実際アッパーファネル戦略にFacebookを使用しているクライアントは多いが、ボイコットした分の予算はほかのチャネルに流用するか、四半期延期してFacebookで使うというケースが大半だ」と語る。「パフォーマンス広告やダイレクトレスポンス広告の予算自体は変化していない」。
ボイコットに参加した大半のEC広告主の本音は、「ボイコットが終了して一安心」といったところだろう。
Facebookは小売企業に不可欠
デジタルエージェンシーのティヌイティ(Tinuiti)では、7月中のFacebook広告ボイコットを支持したEC広告主29社のうち、8月まで延期することを検討したのはわずか1社にすぎなかったという。残り28社はすべてボイコット以前のキャンペーンを再開。なかには7月分の予算を8月以降に追加で回そうと考えている企業もある。
そもそも、こういった企業はFacebook広告に収益面で依存しており、それなくして生き残ることも難しいという指摘もある。オックスフォード大学サイード・ビジネス・スクール(Said Business School)の研究者が統計モデルで分析したところ、小売企業がボイコットを行った場合、買い物客から検討される割合が25%、購入される割合は8%低下するという予測結果が出ている。つまり広告主にとっては、ボイコットが広告商品の販売にとどまらず、Googleにおける検索数や将来的なメール登録者数の増加といった総合的な影響力の低下につながるということだ。
だが、販売数の増加が具体的にどの原因によるものなのか確信がもてないというマーケターが大半というのも注意すべきだろう。販売数の増加につながるチャネルもあれば、客層を増やすことが得意なチャネルもある。そしてその両方の特徴を併せ持ったチャネルも、いずれにも当てはまらないチャネルもある。
特にEC事業を展開している広告主にとってのFacebookは、広告による販売数の増加だけでなく、Facebookショップのような新機能追加による客層の拡大ももたらしてくれるチャネルだ。
プレシャスのマー氏は次のように述べている。「Facebookやインスタグラムにおけるショップの導入により、各社はSNS上のECプラットフォームでよりよいカスタマーエクスペリエンスを提供できる可能性が出てきた。オンライン販売を牽引する存在として、今後もFacebookの重要性は高まっていくだろう」。
SEB JOSEPH(翻訳:SI Japan、編集:分島 翔平)