かつてスタートアップたちはオンライン商品販売の主要な手段として、Shopifyに注目した。そしていま、Shopifyの野心はeコマースプラットフォームの枠を越え拡大を続けている。多数のサービスを提供し出店者たちのニーズに応えることで、その依存度をますます高めさせている。彼らは第2のAmazonになるのだろうか?
8年前、D2Cスタートアップたちはオンラインにおける商品販売の主要な手段として、Shopify(ショッピファイ)に注目した。だがここ数年、Shopifyの野心はeコマースプラットフォームの枠を越え、拡大を続けている。
いまや、D2CスタートアップがShopifyを利用する目的は商品販売にとどまらない。オーダーフルフィルメント構築への協力や融資を求めての場合もあれば、実店舗開店時に同社のPOS(販売時点情報管理)システムを利用するため、という場合もある。シューズメーカーのオールバーズ(Allbirds)やコスメブランドのグロッシアー(Glossier)など、 Shopifyで開業したスタートアップ各社が成長を遂げるなか、eコマースエコシステムにおけるShopifyの影響力は急増している。
Shopifyが越えられないライン
Shopifyは現在、転換期を迎えている。規模が拡大するにつれて、出店業者から彼らにとって「最大の問題」を解決できるサービスの提供を求める声が増えているからだ。たとえば、出店業者としては利用を停止したいができない、AmazonやFacebookといった大手のマーケットプレイスや広告プラットフォームに匹敵するサービスなどだ。しかし、仮にこうしたサービスを提供することになれば、Shopifyにとっての「本業」であるSaaSへのフォーカスを弱めてしまう恐れがある。
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また、出店しているD2Cブランドたちもジレンマを抱える。Shopifyのマーケットプレイス設置やスタートアップへの投資は歓迎するだろうが、Shopifyが提供するサービスが増えれば増えるほどShopifyへの依存度も上昇し、結局AmazonやFacebookに依存しているのと同じ状況になってしまう。現在Shopifyが提供するeコマースプラットフォーム以外のサービスには、POSシステム(2013年開始)、デジタルウォレット、Shopify Pay(2013年開始)、無利子融資のShopify Capital(2016年開始)、そして独自のフルフィルメントサービス(2019年開始。いまのところ一部の出店業者のみ利用可能)などがある。
ただし、米DIGIDAYの姉妹サイト、モダンリテール(Modern Retail)が話を聞いた投資家とアナリストは皆、D2CスタートアップがShopifyに依存する恐れはまだないという。むしろShopifyが(そして出店業者が)直面する最大の懸念は、同社が顧客データや同プラットフォームで成功したブランドに関するデータを占有していると出店業者に思わせる状態になった場合に生じる、と指摘する。つまり、新たなプロダクトやサービスの提供を検討する際、Shopifyには絶対に踏み外せない一本の綱があることも意味する――マーケットプレイスを設立すれば、Shopifyは潤うかもしれないが、それによって出店業者間に不平等感が生じると、大切な既存客の感情を害することになりかねないからだ。
業者に優しいプラットフォーム
当然ながら今後のプランについて、Shopifyは固く口を閉ざしている。ただモダンリテールのメール取材に対し、同社プロダクト部門バイスプレジデントのサティッシュ・カンワー氏はプロダクト開発の方向性について、こう述べた。「プロダクト開発に関わる決断はすべて、究極的にはコマースを皆にとってよりよいものにする、という我々の使命達成に向けたものだ。これはつまり、(出店しているブランドの)成功に必要な最重要ツールへのアクセスを民主化するということであり、それにはフルフィルメント、資金へのアクセス、資金管理、販売およびマーケティングチャンネルなどが含まれる」。
大手エージェンシーグループ、ピュブリシス(Publicis)のチーフコマースオフィサーであるジェイソン・ゴールドバーグ氏は、どんなベンダーにも依存するリスクは常に存在するが、「一般的に、Shopifyに依存するリスクは、Amazonへのそれに比べてはるかに小さい」とモダンリテールに語った。
ゴールドバーグ氏はこうも言い添える。「もちろん、将来的に業者がShopifyを離れるのが極めて難しくなる可能性もなくはない。たとえば、Shopifyが業者のデータの大部分は自分たちに所有権があると主張したり、顧客とのつながりはShopifyが管理し業者はそれを『貸与』されているだけ、などとなった場合だ。ただ、いまのところ理念的にも一般的にも、そのような姿勢をShopifyは見せていない」。
「業者に優しいプラットフォーム」というShopifyの評判は、新サービスを導入する際にも同社の有利に働いている。食前酒ブランド、ハウス(Haus)の共同創業者ヘレナ・プライス・ハンブレクト氏は、数ある融資元の候補からShopify Capitalの利用を決めた。「Shopifyのプロダクトに対して非常にいい印象があり、それが決断を下す際に検討するべきリスク要因を大いに軽減してくれた」と、以前モダンリテールに語っている。
立ちはだかる課題
Shopify Capitalやフルフィルメントネットワークといった新サービス群、エンタープライズプランであるShopify Plusの導入といった動きは、自社プラットフォームで起業するスタートアップとともに自らも成長を目指すShopifyの経営方針の一環だ。ただし、エントリーレベルのスタートアップと一定規模の企業顧客双方の満足を目指すなか、同社は全員のニーズに必ずしも応えられているわけではない。
「ある業者がShopifyで起業する。すると、従来のプラットフォームの枠にとらわれずShopifyはレビューを集め、出荷料金の計算もしてくれるから、その業者はしばらくのあいだ満足するだろう。しかし、成長するにつれて、同じ機能でももう少し堅固なものを求めるようになる」と、eコマースエージェンシー、ネタリコ(Netalico)の創業者でCTO(chief technology officer)のマーク・ウィリアム・ルイス氏は言う。たとえば、レビュー収集ソフトならばヨットポー(YotPo)が、D2Cブランド向けの出荷料金管理ソフトならばシッパーHQ(ShipperHQ)があると、同氏は指摘する。では、出店業者がShopifyに依存するリスクについてはどうだろうか。「Shopifyはそうなる(依存される)ことを望んでいるだろうが、まだそのような事態は起きていない。業者側も規模を拡大するなか、Shopify以外のさまざまなSaaSプロダクトを試しているからだ」。
Shopifyが取り組むべき課題はほかにもある。自社のエコシステム内により多くのユーザーを留めておくこともそのひとつだ。今年4月、Shopifyは新たな荷物追跡のモバイルアプリ「Shop」を投入し、ユーザーが以前に購入したブランドをフォローできるようにした。ShopifyのCEOトバイアス・ラッカ氏の第3四半期におこなった投資家向けの収支報告によれば、Shopの月間アクティブユーザーは1000万人弱だ。この現状を鑑みて、Shopifyは同アプリをゆくゆくはマーケットプレイスにするつもりなのではないか、との噂が業者の間に広がったのも事実だ。
ベンチャーキャピタル、グレイロック(Greylock)のジェネラルパートナー、マイク・ダボウ氏はShopifyが着手できていない最大の機会のひとつは、業者のためのトラフィック創出だと指摘する。しかし、それがマーケットプレイス立ち上げを意味しているわけではないという。「Shopifyにとって最大のチャンスは、Facebook広告に投入されている資金に食い込むことにある」と、ダボウ氏は語る。「Shopがそうした広告マーケットプレイスの構築に向けた小さな一歩になる可能性はある」。
Shopifyがマーケットプレイスの立ち上げを検討する可能性について訊ねたところ、同社のカンワー氏は直接の回答を避け、こう述べている。「業者はそれぞれの顧客と直接的な関係を持つべきだと我々は確信している。我々の行動はすべて、その実現を目指すためのものにほかならない」。
顧客はあくまで出店者
ピュブリシスのゴールドバーグ氏もダボウ氏と同じ見方だ。出店業者のウェブサイトへのトラフィック創出こそがShopifyの解決すべき課題であり、サードパーティ分析ツールや、決済サービスへのさらなる進出も事業拡大のチャンスになりうるという。同氏はまた、Shopify Payの成功は過小評価されているとも断言する。「Shopify Payは密かに、支払処理の分野においてかなりのシェアを獲得しつつあり」、同サービスを取り入れる実店舗がこのまま増えていけば、Shopifyがその分野でも足場を固めることは十分に考えられるという
ただ、ダボウ氏は同時に、事業拡大に向けてShopifyがいかなるサービスを導入するにせよ、大手プラットフォームのように支配的になりつつあると出店業者に感じさせないことが重要だとも指摘する。
「『出店時よりも競争が熾烈になった気がするが、Shopifyはさまざまな業者のディープデータを利用して業者間の競争を煽っているのではないか?』といった懸念は、出店業者を懐疑的にする原因になりうる」と氏は言う。だがいまのところ、それは杞憂のようだ。「Shopifyの顧客はあくまで出店業者であり、エンドユーザーではないという事実が、前述のような策を弄さない明確な理由だろう。思うに、Shopifyは依然として、業者に非常に優しい存在だ」。
[原文:As its ecosystem grows, companies are becoming reliant on Shopify for more parts of their business]
ANNA HENSEL(翻訳:SI Japan、編集:分島 翔平)