コロナ禍中に台頭したバーチャル型のイベントは当分のあいだ、消えてなくなることはなさそうだ。それどころか、アクセシビリティ向上と未開拓層へのリーチを狙い、対極の存在である対面型との融合も始めている。
コロナ禍中に台頭したバーチャル型のイベントは当分のあいだ、消えてなくなることはなさそうだ。それどころか、アクセシビリティ向上と未開拓層へのリーチを狙い、対極の存在である対面型との融合も始めている。
音楽フェスのバーチャル化
2021年のバーニングマン(Burning Man)は完全なバーチャルとなっている――だからといって、出席者が会場中を見て回れないわけではない。昨年に続き今年も、同フェスの公認バーチャル版「バーチャルバーン(Virtual Burn)」がブラウザベースのメタバースプラットフォーム、トピア(Topia)上で開催されている。このバーチャル版には対面型の要素の多くが継承されており、テーマ別テント、フェスの象徴である木製の巨大な人型肖像、会場内を移動できる自転車などが用意されている。「大規模な音楽フェスも、ここで開催する」と、トピアCEO、ダニエル・リーベスカインド氏は語る。実際、ディプロ氏といった有名アーティストの参加が検討されているという。
音楽フェスティバルのバーチャル空間への進出例はもちろん、これだけではない。たとえば、8月の第4週末には、ブレイクアウェイ・ミュージック・フェスティバル(Breakaway Music Festival)がミシガン州グランドラピッズでのイベントで幕を開ける。eスポーツ企業レクトグローバル(ReKTGlobal)が営むオンサイトインタラクティブ「eスポーツラウンジ」を擁するこのイベントでは、参加者は複数のステージで1時間ごとに開かれるトーナメントに参加でき、ゲームプレイ映像が音楽パフォーマンスと並んでライブストリーム配信される。「イベントはすべて、Z世代を惹きつける形でキュレートする必要がある」と、ブレイクアウェイの共同創設者アダム・リン氏は語る。「そういう意味で、これはごく自然な組み合わせだ。音楽とゲーミングの融合はいま、きわめて大きな動きになりつつあると思う」。
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ふたつの融合による相乗効果
コロナ禍で一気に進んだデジタル化は、若年層におけるライブイベントの捉え方に決定的な影響を及ぼした可能性がある。2020年度最大のオーディエンス動員数を誇ったコンサート、トラヴィス・スコットズ・フォートナイト(Travis Scott’s Fortnite)は、複数のプラットフォームを通じて計2700万人を集めた。このイベントでは、対面型コンサートで見られる通常の演出や仕掛けに加えて、オンラインならではの柔軟性や体験の幅を提供した。たとえば、ユーザーは退屈だと思えば、会場の別の部屋にテレポートすることも、ゲームのバトルロイヤルモードに戻ることもできた。「Z世代の消費習慣は間違いなく、ゲーミングとeスポーツの二択に向かっている」と、レクトグローバルCFO、ブラッド・シヴ氏は語る。「我々はその流れの矛先にいると考えている」。
ブレイクアウェイのeスポーツラウンジは依然、トピアのバーチャルバーンのような完全デジタル版を組み込んではいないが、リン氏とレクトグローバルはともに、以前からその構想を練ってきたという。「NFTエコシステムの開発は、我々のイベントを盛り上げる方法のひとつだ」とシヴ氏。「そうすれば、オンラインで交流でき、デジタルスペースからほかでは手に入らない特別なものを持ち帰ることもできる。たとえば、お気に入りのフェスでTシャツといった土産を買うように」。
事実、フィジカルイベントとバーチャルイベントの融合は、巨大なデジタルオーディエンスへのリーチを狙うベンダーおよびブランドパートナーにとって、願ってもないチャンスでもある。
加速するイベント体験の変容
リーグ・オブ・レジェンド・ヨーロッパ選手権(League of Legends European Championship)は2020年、ベルリンのスタジオにおける対面型イベントの開催を断念したが、その代わりに同スタジオのバーチャル版を造り、世界中のユーザーがアクセスできるようにした。このバーチャルスタジオは韓国の自動車メーカー、キア(起亜)がスポーンサーを務めるLEC(リーグ・オブ・レジェンド・ヨーロッパ一部リーグ)8 bit版リフトの会場にもなり、実際のスタジオで開催されたどの対面型イベントの動員数をも上回るオーディエンスを集めた。
「これは長年、それこそコロナ禍の前から、我々の念頭にあったことだ」と、ライアットゲームズ(Riot Game)でリーグ・オブ・レジェンドのヨーロッパおよびMENA(中東・北アフリカ)地区のeスポーツ部門を率いるマクシミリアン・シュミッド氏は語る。今回のバーチャル化は、フィジカルとバーチャルの融合を目指したLECの過去の試みにおける実績と経験に基づいたものであり、たとえば2017年の世界選手権で会場を飛翔したバーチャルドラゴンや2020年の世界大会におけるバーチャルKポップグループ、K/DAのパフォーマンスはその典型例だという。
ライブイベントを巡る状況は、コロナ禍で一変した。メタバースでのイベント体験を当然視するユーザーが増えたいま、フェスティバルはバーチャル空間へと向かっている。そして、バーチャル空間はすでに、対面型フェスティバルにおいても存在感を高めつつある。近い将来、イベント体験におけるフィジカルとバーチャルの差はなくなるのかもしれない。いずれでも同等かつ不変の体験ができる日が遠からず来るのだろう。
[原文:As in-person festivals return, physical and virtual events are converging]
ALEXANDER LEE(翻訳:SI Japan、編集:小玉明依)