保守的なインフルエンサー、ワクチン反対派のアリッサ・ロック氏がアップした政治色の強い投稿について、この投稿がペイドの政治的発言に当たるか否か、議論が進められている。こうしたコンテンツを規制するTikTokの管理能力も然りだ。
保守的なインフルエンサー、ワクチン反対派のアリッサ・ロック氏は6月1日、ダラスで開催される会合、ヤング・ウィメンズ・リーダーシップ・サミット(Young Women’s Leadership Summit)で着用予定の衣服姿の画像を含む動画をTikTokに投稿した。このとき、保守的な政治的非営利団体、ターニング・ポイント・USP/TPUSA(Turning Point USA)を示すハッシュタグ #turningpoint を付した。
ロック氏はさらに、ファッションブランド、ケイト・スペード(Kate Spade)を示すタグも付け、テネシー州上院議員マーシャ・ブラックバーン氏や元アラスカ州知事サラ・パリン氏といった著名な共和党員が演壇に立つ同サミットへの出席を明示する画像も載せた。しかし、 @alynicolee1126 の名でロック氏がアップロードしたこの投稿が、ペイドの政治的発言に当たるか否かには、議論の余地がある――こうしたコンテンツを規制するTikTokの管理能力も然りだ。
TikTokは、政治家候補や政党・政治的団体の広告も、候補者や政治問題に賛否を表明する広告も投稿を認めていない。そして、今回のロック氏の投稿は厳密には広告ではない。TikTokの広告販売チーム、または自動広告購入ツールを介して広告インベントリを購入した結果としてプラットフォーム上に投稿されたのではなく、オーガニックな動画としてアップされたからだ。つまり、ロック氏によるこの動画の投稿が有償か無償なのかを明示する判断は、連邦取引委員会(Federal Trade Commission)のガイドラインにあるとおり、彼女自身に一任されている。しかも、それが必要なのは有償の場合に限られる。ロック氏の投稿がスポンサードコンテンツか否かを巡る今回の問題は、YouTube、Facebook、インスタグラムに続き、TikTokも悩ませる盲点を浮き彫りにしている。
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Firefoxを提供する非営利団体モジラ財団(Mozilla Foundation)は6月3日、有償の政治的コンテンツの管理が甘いとして、TikTokを非難した。そして、有償パートナーシップなのか、スポンサードコンテンツなのかを示すクリエイターのための自動ツール(YouTube、Facebook、インスタグラムは導入済)の提供と、政治的広告に関する方針の刷新と強化を同社に要求した。
TikTokとモジラ、それぞれの主張
政治色を帯び、物質的な関係がうかがえるにもかかわらず、それが明示されていないというような投稿が複数、TikTok上に存在している。この事実こそが、「そうした影響がいかに広まっているのかをリサーチャーや[TikTok]ユーザーが見定められるツールが必要な理由にほかならない」と、モジラのアドボカシー部門シニアマネージャー、ブランディ・ジャーキンク氏は語る。モジラは今年1月以来、政治色を帯びたメッセージおよび広告の透明性について、TikTokと話を続けてきたという。
これに対し、TikTokの広報は「政治的広告をTikTokは認めていない。我々はこの方針を今後も一貫して強化し、クリエイターのためのツールを構築するべく、人的および技術投資を続けていく」と語る。「こうしたアプローチの進化の途上にある我々は、モジラ財団のリサーチャー含む専門家のフィードバックを大いに歓迎する。そして透明性、説明責任、創造性を促進する公正な方針およびツールの開発に注力するなか、今後も継続的な対話が持てることを期待している」。
TikTokは米ユーザーに対し、有償、雇用、個人的あるいは家族的な関わりなど、ブランドとのあらゆる関係性の明晰かつ顕著な表示を求める連邦取引委員会のガイドラインに準拠し、動画を投稿することを期待していると語る。TikTokはスポンサードコンテンツであることを示すツールをインフルエンサーに提供しているが、そのツールがどの程度利用可能なのかについては定かでない。
一方、TPUSAに言及したロック氏の投稿は、同団体が直接補償するものではなく、あくまでオーガニックだった可能性が高いと、団体の広報アンドルー・コルヴェット氏が米DIGIDAYに語った。TPUSAは5013(c)(3)——内国歳入法(USC 26)第501条C項3号に基づき、課税免除となる非営利団体——に分類され、独自のインフルエンサープログラムを通じて、「ソーシャルメディアおよび従来メディアの市場に自由と小さな政府に関するメッセージを浸透させる」ことを目的としている。ただし、同団体は一部のソーシャルメディアインフルエンサーと有償契約を結んではいるが、「アンバサダープログラムは補償していない」と、コルヴェット氏は言い添える。その「プログラム」には、ロック氏などによるTikTokや他プラットフォームへの政治的メッセージの投稿も含まれると思われる。
「ダークマネー」の存在を示す例
今年2月、モジラは米国の政治的TikTokインフルエンサー、保守派と進歩派の双方に対する調査を実施した。6月3日に発表された報告書は、ロック氏を含む数名の保守系コンテンツクリエイターによるTikTok投稿について、「2020年12月20日フロリダ州ウェストパームビーチで開催されたスチューデント・アクション・サミット(Student Action Summit)をはじめ、TPUSAが後援する会合およびフェスティバルに関するものが大多数を占めていた」と記している。一方、コルヴェット氏は米DIGIDAYに対し、TPUSAは同団体のイベントに参加する、あるいは旅費を補助する給付金を受け取る人々に対し、ソーシャルメディアへの投稿を義務づけてはいないと反論した。
同報告書においてモジラは、こうした投稿は選挙民に影響を及ぼすメッセージを支援する「ダークマネー」の存在を示す例だという。そして、TikTokは「インフルエンサーによる有償パートナー関係の開示の積極的な監視も強要も行なっておらず、さらにスポンサード投稿に対してその旨の表示もしていないため(中略)TikTokにおける政治的インフルエンサー広告の監視は極めて困難である」と述べる。
政治色を帯びた投稿が増加し、TPUSAといった団体が、有償の政治的発言と、緩い思想的発言のあいだを綱渡り状態で歩いているいま、投稿者自身もまた、表示、非表示の判別をつけ難いのが現状だと思われる。加えて、どこからが政治的で、どこまでがそうではないのか、そして何が誤情報の範疇で、何が違うのかを示す境界線もまた、モデレーターと呼ばれる人々にとってさえ、曖昧模糊としている。
TikTokにはコンテンツを審査するモデレーターが世界中に「数千人」おり、彼らが用いる評価基準について、世界情勢や各地域の言語に基づいて定期的に更新していると、TikTokのブランドセーフティインダストリーリレーションズ部門トップ、デイヴ・バーン氏は5月、米DIGIDAYに語った。「AIシステムでは判別できない場合こそが人間の出番であり、モデレーターたちが適切な判断を下す」。
Facebookやインスタグラムとの違い
ロック氏は4月、「君が新型コロナのワクチンを打とうが打つまいが、誰も気にしない」と主張する動画をTikTokに投稿した。だが、これは政治的影響を持っていたかもしれず、ワクチンに関して誤解に基づく見解を助長した可能性もあるのだが、何の表示も付されなかった。
Facebookは対照的に、ロック氏がアップした「ヒドロキシクロロキンの効能」と題する投稿に対し、「未承認の新型コロナ治療薬の一部には甚大な健康被害をもたらす恐れがあります」との免責情報を付した。
さらに、6月3日、ロック氏は米感染症対策トップ、アンソニー・ファウチ博士の新型コロナウィルス関連の流出メールを取り上げた報道に言及する投稿をインスタグラムにアップしようとしたが、できなかった。ロック氏は、Facebookのコミュニティガイドラインへの違反を理由にブロックされたと主張している。
KATE KAYE(翻訳:SI Japan、編集:小玉明依)