[ DIGIDAY+ 限定記事 ]先ごろ、エクスチェンジワイヤー(ExchangeWire)の「ATS」イベントがロンドンで開かれ、集まったアドテク企業の幹部たちは、今後のビジネスモデルやサードパーティCookieの終焉、プライバシー重視の傾向を強めるブラウザについて議論した。そのなかから、いくつか重要なトピックを紹介しよう。
[ DIGIDAY+ 限定記事 ]プログラマティック広告に変化の波が訪れている。変化を促しているのは主に、規制当局やプラットフォーム、ブラウザなど、ユーザーデータの細分化を阻もうとする外からの脅威だ。
先ごろ、エクスチェンジワイヤー(ExchangeWire)の「ATS」イベントがロンドンで開かれ、集まったアドテク企業の幹部たちは、今後のビジネスモデルやサードパーティCookieの終焉、プライバシー重視の傾向を強めるブラウザについて議論した。そのなかから、いくつか重要なトピックを紹介しよう。
エージェンシーは見かけほどデータに精通していない
この1年間というもの、エージェンシーの持ち株グループの幹部たちが株主に伝えようとしてきたメッセージがあるとすれば、データに関して自分たちにはプランがある、というものだろう。問題は、そうした幹部たちの大半が、自社内でデータをより利用しやすい状態にできていない点だ。そのように評するS4キャピタル(S4 Capital)のCEO、サー・マーティン・ソレル氏の考えでは、電通イージス(Dentsu Aegis)を除いて、持ち株会社はどこも堅牢なデータ戦略をもっていない。ソレル氏は、IPGのメディア事業を例に挙げ、同社はデータ企業アクシオム(Acxiom)を買収したことを、メディアピッチにおいてうまく活用できていないと述べた。
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「あまりに魅力的な分野なので、それ(データ事業の買収)に関して深く考えるということがなされていない」とソレル氏は語った。「IPG、電通、ピュブリシス(Publicis)の関係者と話したが、3社に共通する脅威となっているのは、なぜそれをやるのかについての詳細な分析が欠けていたという見解だ。私が話をしたIPGのあるメディア事業幹部は、買収したアクシオムの事業がうまく統合されていると思えないので、社を去りたいと言っていた」。
サードパーティCookieの終焉
Cookieの「死」が、かつてないほど間近に迫っている。Google、Apple、モジラ(Mozilla)が、自社ブラウザからサードパーティCookieを排除する動きを見せたことで、それは確かなものとなった。これらの変化は、アドテク業界全体を衝撃波となって襲い、その影響は今後も長く続くだろう。しかし一方では、法規制に準拠した方法でファーストパーティデータを共有し、ターゲティングに利用できるという触れ込みのインフォサム(InfoSum)など、新たな技術ソリューションが登場したり、あるいは、きめ細かいターゲティングに必要なデータと分析を広告主に提供するデータクリーンルームを求める動きが見られたりと、消えゆくCookieターゲティングのあとに、新たなエコノミーが形成されつつある。
こうした一連の変化は、長い目で見れば、デジタル広告のサプライチェーンに絶えず存在し、付加価値をもたらさないデータのアービトラージ(裁定取引)の撲滅につながるかもしれない。しかし短期的には、ブラウザによるCookie規制は、広告主とそのエージェンシーにとって大きな頭痛の種となっている。たとえば、世界最大のメディアバイヤーであるグループエム(GroupM)は、オーディエンス市場の20~30%を占めながら、Appleのアンチトラッキングアップデートにより、メディアプランから一掃されてしまったCookieを何によって置き換えるか考えているところだ。
「もし自分の仕事が、広告主と消費者を根本的に結びつけることだったなら、クライアントのところへ行って、御社のオーディエンスの30%には話しかけることができないと言わなければならない現実は、我々にとって大きな問題だ」と、グループエムの英国オフィスで最高データ責任者を務めるリチャード・ロイド氏はイベントの場で述べている。
DSPとSSP
デマンドサイドプラットフォーム(以下、DSP)は直接パブリッシャーへと向かい、一方のサプライサイドプラットフォーム(以下、SSP)もまた、直接広告主へと向かうようになっている。互いの領域に踏み込む必要性が高まっていることで、アドテク業界の大手各社は互いに近づきあっている。SSPにとっては、多くのインベントリー(在庫)ソースを集めてマーケットプレイスに出すだけでは十分でなく、対するDSPは、もはやよく知らないサプライヤーからインベントリーを集めることはできない。広告主はさらなる価値を求めていて、そうでなければ広告費は出さないという姿勢を強めているのだ。
「DSPとSSPは、より似たような存在になっていくだろう」と、あるアドテク企業の幹部は述べた。「そうした事業者は今後、ただ入札とデータを通過させるだけの無能なインフラに成り下がる。そしてビジネスモデルの行き着く先は、関係性だ。もし自分がSSPの立場で、現在のトップ企業とつながりをもっていたら、その関係性を利用しようと考えるだろう。それこそが自社のパワーにつながるのだから。10億のインプレッションを集めても、もはや何のパワーにもならない。誰もそんなものを重視しない」。
未来は認証済みのウェブにあり
認証済みのウェブ(authenticated web)という概念は、いたってシンプルだ。ユーザーが、自分に提供されるすべてのデジタル体験に対して、あらかじめ許可を与えるというものだ。パブリッシャーにとって、それはログインユーザーやその他の形で、直接的かつ同意済みのオーディエンスデータを獲得することを意味する。同意済みのデータは、一般データ保護規則(General Data Protection Regulation:GDPR)やブラウザのデータプライバシーポリシーの下で、いまや重要なものとなっている。認証済みのウェブによってそうしたデータの価値が加わる結果、CPM(インプレッション単価)の上昇が起きるかどうかはまだ疑問が残る。とはいえそれを実現するのは、容易でもなければ、すぐにできることでもない。
サードパーティCookieに依存しない、アイデンティティベースのソリューションを推進する動きは、実際には購入サイドがもっとも強く示していると、インデックス・エクスチェンジ(Index Exchange)のプレジデント兼CEO、アンドリュー・カサーリ氏はいう。マーケターは今後、従来とまったく異なる消費者とのコミュニケーション方法に取り組むことになり、それはCookieベースではなく、もっぱらCRM(顧客関係管理)データに基づいたものになる。
「これは大きな課題だ」と、カサーリ氏は述べた。「すべてのメディア活動を(サードパーティcookieに基づかないものに)作り直さなくてはならなくなる。簡単なことではない」。
Seb Joseph(原文 / 訳:ガリレオ)