主要なSNSプラットフォームと大手広告主が集まり、グローバルなパートナーシップを形成して、ブランドセーフティの測定基準作りを進めている。だがこの取り組みを進捗させるには、正しいデータの正直な申告が不可欠だ。財布の紐を握る当事者たちは、「うそ発見器」が必要だと主張している。
主要なSNSプラットフォームと大手広告主が集まり、グローバルなパートナーシップを形成して、ブランドセーフティの測定基準作りを進めている。だがこの取り組みを進捗させるには、正しいデータの正直な申告が不可欠だ。財布の紐を握る当事者たちは、「うそ発見器」が必要だと主張している。
世界広告主連盟(WFA)が主導する「責任あるメディアのための世界同盟(Global Alliance for Responsible Media:以下、GARM)」は、設立から2年近くを経てようやく、プラットフォーマーと広告主の合意に基づき、標準的なブランドセーフティ基準を策定するという目標に向けて一歩前進した。GARMに参加する企業には、YouTube、Facebook、インスタグラム、Twitter、TikTok、Snap、Pinterestに加え、アンハイザーブッシュ(Anheuser-Busch InBev)やユニリーバ(Unilever)ら、大手広告主が名を連ねる。
そしてこの4月、GARMは集計ベースの測定報告書(Aggregated Measurement Report)を初めて公開するとともに、ブランドセーフティを計測する新しい指標を発表した。しかし、初の報告書の公開という節目の一歩も、プラットフォームから提供されたデータが統合も検証もされていないことから、多少のケチがついたと言わざるを得ない。
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まとまらないプラットフォーマー
GARMにとって、当面の目標はこの状況を変えることだ。
そのための次なるステップとして、プラットフォームからGARMに提供されるデータの外部監査を実現する必要がある。いまのところ、外部監査の受け入れを表明しているのはFacebookだけで、残りは態度を保留している。現状では、各プラットフォームはブランドセーフティを担当するGARMの部署に、独自のデータを個別に提供しているのだが、この情報の第三者機関による監査について、Facebook以外のプラットフォームが同意しそうな気配はまったく見られない。
GARMのイニシアチブ責任者、ロブ・ラコウィッツ氏はこう述べている。「GARMの運営委員会とプラットフォームが個別の協議を継続的におこなっている。重要なのは、持続可能かつ適切な方法で、MRCの取得を受けてもらうことだ」。
ラコウィッツ氏によると、監査要件を満たすための人員や予算など、リソースに乏しいプラットフォームもあるという。「第三者機関によるデータの検証は、誰にとっても有益だ」と同氏は話す。「GARMの参加企業は、ゆくゆくは、独立した監査が報告プロセスの不可分の一部になることを想定している」。
ラコウィッツ氏は外部監査の可能性について、「(可能性を論じる状況ではなく)不可避だ」と語った。
歩み寄るFacebookであっても
Facebookは2020年7月に、GARMのブランド適合性基準へのコンプライアンスに関して、業界を代表する測定検証機関MRCの監査を受け入れると表明した。収益化対象のコンテンツについて、MRCのブランドセーフティ基準の認定を取得したいとしているが、その約束はいまだ実現されていない。
GARMに報告するブランドセーフティ関連のデータについて、MRCの監査を受けると公に表明しているのはFacebookだけだ。また、同社はコンテンツの審査と安全性基準に関する独自の報告書についても、外部監査の実施を検討している。ただし、この記事の公開時点では、とくにGARMの報告書に関するかぎり、Facebookはブランドセーフティに関わるMRCの審査をまったく受けていない。
GARMの取り組みとは別に、FacebookとYouTubeはブランドセーフティの監査でMRCと連携している。FacebookはブランドセーフティのMRC監査を6月に開始する予定という。一方、Google傘下のYouTubeは、ブランドセーフティの評価プロセスに関して、すでにMRCの認定を受けている。具体的には、YouTubeの予約型広告メニュー、またはGoogleのアドテクを通じて購入した広告について、個々の動画単位でコンテンツを評価するプロセスが認定されたものだ。
だが、GARMに提出するブランドセーフティの透明性レポートに関しては、依然、外部監査に同意していない。ただし昨年、YouTubeはGARMの基準に合わせるべく、ブランドセーフティの評価プロセスを更新する作業に着手している。
状況を複雑にしている要因
YouTubeの広報担当者は米DIGIDAYの取材に対して、こう述べている。「YouTubeは誰にとっても持続可能で健全なデジタルエコシステムの構築に向けて、全業界的なアプローチを開発するために、GARMと継続的に連携するつもりだ。次の認定の取得についてMRCとも協議しているが、現時点で我々の測定指標を第三者が監査することについては、まだ同意していない」。
進捗を遅らせ状況を複雑にする要因として、監査プロセスにおける官僚主義の存在も否定できない。プラットフォームが提供するGARMレポートのためのデータをMRCが検証するには、まず監査要件を確定し、MRCのブランドセーフティ基準と監査内容に反映させる必要があるという。MRCによると、要件の確定や基準への反映はまだ実現していない。
一方、TikTokもGARMに参加しており、説明責任と透明性を重視するとしているが、外部監査を受け入れる用意はできていない。TikTokでブランドセーフティとインダストリーリレーションズを統括するグローバル責任者のデイヴ・バーン氏は、GARMに提供するブランドセーフティデータの外部監査について、「いまのところ、この問題に関しては特にどのような立場も取っていない」と述べている。反面、同氏はGARMの活動をこう評価する。「プラットフォームを交えた協議の場を提供した。広告主がプラットフォームに説明責任を課す形は整えつつも、対立関係ではなく、協力関係を背景に、透明性を実現しようとしている」。
GARMの創設メンバーに名を連ねるユニリーバで、グローバルメディア担当のエグゼクティブバイスプレジデントを務めるルイス・ディコモ氏は、プラットフォームに外部監査の受け入れを認めさせることは、「当然、容易なプロセスではない」と述べている。GARMに参加する広告主たちは、プラットフォームが独自に提出するブランドセーフティレポートの外部監査を要求するが、ディコモ氏は「それは一朝一夕に実現できることではない」と認めている。
進捗が好転しそうな兆しも
いま現在、不適切なコンテンツの監視や削除、あるいはブランドセーフティの測定指標の策定といった取り組みは、プラットフォーム単位で個別におこなわれている。おおまかに言えば、GARMの目的は、このばらばらの取り組みを調整し、足並みを揃えさせることにある。たとえば、不適切なコンテンツの分類方法もそのひとつだ。
各プラットフォームが社内や独自の報告書で使用しているカテゴリーを、GARMの集計レポートでは標準的なカテゴリーに揃えている。Facebookでは「ヘイトスピーチ(Hate Speech)」や「いじめ・嫌がらせ(Bullying and Harassment)」、Twitterでは「憎悪に満ちた行為(Hateful conduct)」というカテゴリーを設けているが、GARMではすべて「ヘイトスピーチ・攻撃的行為(Hate speech & acts of aggression)」に分類される。
ラコウィッツ氏とディコモ氏は、現時点で関係者が合意し、GARM初のレポートに盛り込まれた新指標の重要性を評価する。そのひとつが「違反コンテンツの視聴率(Violative View Rate)」で、総視聴回数に占めるポリシー違反のコンテンツの比率を示す。一方、Googleが今回のレポートで採用した別の新指標「広告安全性エラー率(Advertising Safety Error Rate)」は、GARMの基準に則ったコンテンツ収益化ポリシーに違反する広告コンテンツが、総視聴回数に占める比率を表している。
GARMのレポートは、各プラットフォームによるブランドセーフティ対策の集計データをマクロの視点で見たものだ。一方で、新しい指標の存在は、プラットフォームなどが作成するキャンペーンレベルのレポートにも、すでに影響を及ぼしはじめている。GARMは、ゆくゆくはMRCがこれら標準化された新指標に基づいて、すべてのプラットフォームを検証してほしいと期待している。
これら新指標について、ラコウィッツ氏は「ポストキャンペーンの報告書に波及効果的な影響を確実に与えている」と話し、こう続けた。「コンテンツの審査や検証をおこなう企業だけでなく、プラットフォーム自身からも、この指標のいくつかをキャンペーンのレポーティングに導入する意向だと聞いている」。
規制当局も動き出す可能性
この波及効果は広告以外にも広がるかもしれない。今後、規制当局や議員たちが、大手のテクノロジープラットフォームと、彼らが及ぼすとされる有害な社会的影響をひと括りにして、ヘイトスピーチや偽情報に関する透明性の高い報告を要求するかもしれない。
そうなれば、「政府に対する報告で、プラットフォームが足並みを揃える際、GARMの基準が役に立てるのではないか」と、ラコウィッツ氏は話す。同氏いわく、「ステークホルダーは、広告主、マーケティングの最上位責任者(CMO)、メディア企業の幹部だけではない」。
KATE KAYE(翻訳:英じゅんこ、編集:分島 翔平)