顧客獲得を手軽で便利なデジタルのみに頼ってきたブランドには、この先いばらの道が待っている。そして、絶大な影響力を誇ってきたパフォーマンスマーケターもまた凋落が予想される。規制はより強固になり、以前に戻ることはない。企業はデータ収集にこれまでにもまして意識的かつ直接的にならざるを得なくなるのだ。
顧客獲得を手軽で便利なデジタルのみに頼ってきたブランドには、この先いばらの道が待っている。そして、絶大な影響力を誇ってきたパフォーマンスマーケターもまた、凋落が予想されるだろう。
来年にかけて――いや、今後何年にもわたり――デジタルアイデンティティのトラッキングは困難になる。変化はさまざまな形で出現する。先陣を切るのがAppleの新モバイルソフトウェアiOS14であり、ユーザーがオプトインしないかぎりアプリ勢は個人情報を共有できなくなる。続いて、Googleの新プログラム、プライバシーサンドボックス(Privacy Sandbox)――サードパーティCookieの代替とされているものは、ターゲティングをなおいっそう困難にすると思われる。
最後に、企業が収集したデータについて、より意図的かつ率直に説明することが求められる規制が、次々と登場している。欧州のGDPRやカリフォルニア州のCCPAなどだ。
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新規オーディエンスをオンラインで見つけるために、マーケター勢は「これまでとは違うツールや戦略を使わざるをえない」と、投資家でマーケティングストラテジストのニック・シャーマ氏は言う。これはつまり、キーワードをいくつかタイプすれば「ルックアライク(lookalike)」を自動的に洗い出してくれるアルゴリズムのおかげで、数千もの顧客を一網打尽にできた「Facebookの魔法使い(the Faceook whiz)」の時代が間もなく終わることを意味する。
Facebookで顧客データは得られなくなる
パフォーマンスマーケティング自体は新しい現象ではないが、その重要度はここ数年で一気に増し、特にD2Cブランドのあいだで高い人気を博した。そんな近年のパフォーマンスマーケティングブーム中に急成長した時代の寵児的2社が、キャスパー(Capser)とペロトン(Peloton)だ。前者は2020年の上場時の発表によれば、2018年はマーケティングに1億2350万ドル(約136億円)を費やし、1億5780万ドル(約173億円)の収益を上げた。Form S-1(いわゆる目論見書)において、同社はマーケティング支出の半分を「オンラインに配分した」と報告している。
一方、後者もまた、2019年の上場時における発表によれば、マーケティング費が3億2400万ドル(約355億円)、収益が9億1500万ドル(約1003億円)だった。米DIGIDAYの姉妹サイトであるモダンリテール(Modern Retail)の2019年半ばの記事にもあるとおり、パフォーマンスマーケターは当時、あらゆるブランドから引く手あまたの職業だった。
その頃、FacebookとGoogleはいずれも広告プラットフォームをいわゆるプラグ・アンド・プレイ型にしていた。「Facebookがやろうとしていたのは、ほぼ誰にでも自社ツールを使わせるシステム」の構築だったと、eコマースに特化したエージェンシー、コモン・スレッド・コレクティヴ(Common Threat Collective)のマネージングパートナー、テイラー・ホリデイ氏は言う。同氏によれば、パフォーマンスマーケティングは「戦術的メディアバイイングというよりもむしろ、クリエイティブな日常会話の一部になった」。では、その結果は? 「この2年程、世界の誰もがFacebookエージェンシーを持っている状態だった」。
だが、時代は変わろうとしている。この先、TwitterやLinkedIn上でふんぞり返り、ROASを自慢しているだけでは、立ちゆかなくなる。Facebookはもはや、顧客データを猛烈な勢いで吸い上げられなくなるからだ。iOS変更の影響をさほど受けないGoogleの場合も同様で、同プラットフォームにおける正確なターゲティングの機会はごく限定的になると思われる。プライバシーサンドボックスはマーケター勢に対し、「精密になりたければクリエイティブになれ」と強いるプログラムだからだ。
長期的な戦略への変更が必要
そんななか、ブランド勢はすでに今後のマーケティングキャンペーンの慎重な再考を始めている。ヒーロー・コスメティクス(Hero Cosmetics)共同創業者でCEOのジュー・リュー氏によれば、同社はこれまでパフォーマンスチャンネルに大きく依存し、すべてインハウスでおこなっていた。現在、彼女はそのアプローチの見直しを考えている。
「今後も前進を続けていくにあたり、解決すべき疑問がいくつかある」とリュー氏は続ける。「ひとつは、これまで同様、パフォーマンスチャンネルに大きく依存していいのか? 何が起きようとしているのか、実際のところは誰にもわかっていない」。引き続きパフォーマンスマーケティングの道を選ぶ場合、パートナーとなるエージェンシーを探す必要があるとリュー氏は考えている。ただし、その場合は未知の領域に入るだけに、また新たな疑問がいくつも生じることになる、とも同氏は付け加える。
現在リュー氏は、他社に先んじてパフォーマンスマーケティング一択主義を捨てた、他ブランドの動向に注目している。彼らはすでにインフルエンサーマーケティングや新たなパッケージングを試しているという。「ブランドに友好的とは言えない環境になる場合に備えて、マーケティング費用の新たな投入先を探す準備はできている」。
手に入るデータ量が減るなか、パフォーマンスマーケティングは間もなくブランド側との融合をなおいっそう進めることになると、データマーケティング企業マークル(Merkle)のCSO、マット・ネガー氏は言う。つまり、アルゴリズムが可能にした裏技的な顧客獲得手段ではなく、ストーリーテリングやすぐには結果の出ない長期的試行といった戦略へのフォーカスが求められることになる。「いま現在、完全にブランド側に立って仕事をしているパフォーマンスマーケターは多くないが、この変化によってそうせざるを得なくなる」と、同氏は指摘する。
一方、コモン・スレッド・コレクティヴのホリデイ氏は、パフォーマンスマーケティングへの壁が高まるなか、正確なデータが乏しくなることで結果の証明が困難になるだろうと警告する。「データが曖昧になれば、明確さに劣る方法論が入り込む余地が増えることになる。それはつまり、背景やストーリーが物を言う場が増える、ということだ」。
CALE GUTHRIE WEISSMAN(翻訳:SI Japan、編集:分島 翔平)