今年2月、Amazonは自社DSPを介して購入された広告が、全米に500店以上展開するホールフーズでの買物にいつ繋がったのかを示すアトリビューションデータを、Amazonは初めて広告主に提供した。広告主は購入実態を示す非常に有用なデータであるとして、これを早くも歓迎している。
2019年にAmazonが数少ない実店舗、Amazonフレッシュストア(Amazon Fresh Store)を訪れる人々にリーチする新たなデジタル広告プロダクトを導入した際、識者らは近未来を予測(いずれ、広告主はAmazonのオーガニックスーパー、ホールフーズ[Whole Foods]での購入を同社サイト上のデジタル広告と紐付けできるようになる)した。
今年2月、Amazonはまさにそれを実現した。自社デマンドサイドプラットフォーム(DSP)を介して購入された広告が、全米に500店以上展開するホールフーズでの買物にいつ繋がったのかを示すアトリビューションデータを、Amazonは初めて広告主に提供したのだ。依然としてデータギャップは存在し、利用にはさまざまな問題もあるが、広告主は人々の買物の実態を示す非常に有用なデータであるとして、これを早くも歓迎している。
デジタルと実店舗のデータを紐付け
「Amazonで1番の売れ筋ではない商品がホールフーズではよく売れている、という事例は複数目にしている」と、Amazonをはじめとするプラットフォームでの広告キャンペーンを扱うマーケティングエージェンシー、ティヌイティ(Tinuiti)のマーケットプレイスプログラマティック部門アソシエイトディレクター、マディ・カシースカ氏は語る。ティヌイティは現在、紙製品メーカーやプロテインバーブランドといった一般消費財(CPG)を製造販売する広告主とともに、この新アトリビューションデータを「積極的に試している」とカシースカ氏は語る。広告主の社名については、氏は明言を避けた。
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たとえば、プロテインバーブランドに関していえば、Amazonのサイトでもっとも人気の高いフレーバーと実店舗での人気商品は違うことが判明した。これはつまり、実店舗に足を運ぶ人々はオンラインでの商品レビューや星の数に必ずしも左右されていないことを意味する。こうした情報を活用すれば、オンラインで人気のフレーバーに狙いを絞った、より高精度のターゲット広告の実現につながる可能性があると、カシースカ氏は指摘する。
「今後DSP経由でAmazon.com上やオフサイトにディスプレイ広告を打つ場合、このファーストパーティデータを活用して、誰をターゲットにしているかという観点からコントロールグループを作ることができる」。
同サービスを試用しているエージェンシー幹部らは概して、このホールフーズ広告アトリビューションについて、デジタルと実店舗のデータを紐付け、実店舗購入に対するデジタル広告効果も提示する、という構想実現に向けたAmazonのさらなる一歩と見ている。「我々のディスプレイ広告がAmazonの以外の場で消費者に与える影響の程を知れるわけであり、これでホリスティックかつナラティブにストーリーを見ることができる」と、カシースカ氏は語る。
Amazon対ウォルマートの新広告戦争の前線
オンライン広告と実店舗購入の紐付けは、世界に1万1000店以上を展開する巨大チェーン、ウォルマート(Walmart)のようなライバルとの戦いにおいて、Amazonの有利に働くことになる。
「こうした試みは、Amazonが『物理的』な資産をデジタル化するためになすべき多くのステップのひとつだ」と、データコンサルティング企業マイティハイヴ(MightyHive)のコマース市場参入部門ディレクター、ニック・セオ氏は語る。同氏は、新たなアトリビューションデータを用意したAmazonの動きは、必ずしもウォルマートに対する「攻撃」ではないと強調しながらも、「実店舗アトリビューションに向かうこの動きはウォルマートへの対抗意識の表れだ」と指摘する。
現在、ウォルマートはザ・トレードデスク(The Trade Desk:TTD)と提携してDSPを構築中であり、今年後半の立ち上げが予想されている。ただ、このDSPをいつから試用できるようになるのか、具体的な情報はいまだメディアバイヤー勢の耳に入っていないという。ウォルマートとクローガー(Kroger)――いずれもグローサリー分野におけるAmazonのライバル――は、すでにデジタル広告が実店舗およびデジタル購入に与える影響を示すアトリビューションデータを広告主に提供している。
ただし、Amazonとクローガーにはウォルマートにはない強みがあるし、逆もまた然りだと、フルサービスeコマース/Amazonマーケティングエージェンシー、ニュアンスト・メディア(Nuanced Media)CEOのライアン・フラナガン氏は指摘する。「主な違いはマーケットプレイスの規模だ。とりわけ、eコマースと実店舗の比較に関して言える」。
各社ごとで大きく異なるフットプリント
市場調査会社eマーケター(eMarketer)の予測では、今年、Amazonの米国におけるeコマース売上は3672億ドル(約40兆円)であり、第2位と予想されるウォルマートの646億ドル(約7兆円)も、クローガーの150億ドル(約1兆6000億円)もはるかに上回っている。とはいえ、eコマースは依然としてリテール市場全体の一部でしかない。今年度、eコマースの売上は米国のリテール総売上5兆9000億ドル(約644兆円)の約15.5%相当だろうと、eマーケターは予想している。
「ウォルマートとクローガーの実店舗フットプリント(訪問数)はAmazonのそれよりも圧倒的に大きい」とフラナガン氏。「真のオムニチャンネルマーケティングの観点から見れば、これら企業のフットプリントはそれぞれ大きく異なる。それゆえ、消費者の実店舗離れを受けてオンライン販売の重要性が高まるなか、このデータによってそれがどう再編されていくのか、非常に興味深い」。
Amazonによるこの新レポートが広告主の(Amazon以外の)リテールメディア離れを主導するか否かは不明だが、購入データのトラッキングを通じてブランドアウェアネスメトリクスにおけるポジティブな影響が顕著となれば、Amazonのデジタル広告に対する支出および予算の増大につながる可能性はあると、ティヌイティのカシースカ氏は言う。
ただし、ホールフーズレポートは全体像を示すものではない。デジタル広告と実店舗購入の関連性が見えるのはあくまで、消費者がAmazonプライム(Prime)の会員であり、レジで会員番号をスキャンする場合に限られる。「有効性を確保するために、するべきことはまだまだある」とフラナガン氏は指摘する。
Amazonは最新の決算報告で、2021年第1四半期に北米および海外市場において広告収益が大きな伸びを記録したと発表している。具体的な数字について同社は報告していない。
ロケーション、ロケーション、ロケーション
ホールフーズの各店舗の属性を州や都市ごとにトラッキングすることで、メーカーは新製品を全米展開する前に、2~3の市場で反応を確かめることができるようになるとフラナガン氏は指摘する。加えて、Amazonが新ブランドの可能性をテスト市場で評価しているのであれば、ブランドは地域限定のデジタルキャンペーンをAmazonのDSPを通じて、パイロット製品とともに提供できるメリットを得られると、同氏は言い添える。
広告主たちは最終的な店舗での購入を把握していないため、自分たちのマーケティングが売上増にどの程度貢献したのか知りようがないと、フラナガン氏は指摘する。同氏によると、このアトリビューションレポートはブランドが特定の顧客のLTVを見定める際にも有用であり、「仮説を検証し、実際の指標やKPIを設定するためにもデータを利用できる」と氏は語る。
とはいえ、数々のデータギャップに加えて、広告を表示された人がプライム会員でない場合や、会員番号を会計の際にスキャンしなかった場合など、この新レポートの有効活用には乗り越えるべきハードルが複数存在すると、マイティハイヴのセオ氏は語る。いま現在、ホールフーズの実店舗アトリビューションデータを同じ条件で比較できる対象がないため、「現段階での評価は難しい」と氏は言い添える。
KATE KAYE(翻訳:SI Japan、編集:分島 翔平)