ここ数カ月、FacebookやAmazonなど、大手のテクノロジー企業が独自のライブコマース機能の実験的な運用に乗り出している。こうした動きは、ライブコマースの本格的なブレイクを予感させる。とりわけ、中小のニッチな企業には、大きな福音となるかもしれない。
FacebookとAmazonの思惑通りに事が運べば、遠からず、あらゆる企業がこぞってライブコマースに走るだろう。
買い物ができるライブ動画、いわゆるライブコマースに関して、ここしばらく、ポップショップ(Popshop)やNTWRKなど、ひと握りの小規模なアプリが様子見程度に手を出してきた。海外におけるライブコマースの大成功にあやかろうとの試みだ。とくに中国では、ごく小規模な農家でさえも、ライブ配信を通じてインフルエンサーへの転身を遂げている。
だがここ数カ月、大手のテクノロジー企業が独自のライブコマース機能の実験的な運用に乗り出している。まずはこの8月、インスタグラムが従来のライブ配信にその場で商品を購入できる機能を追加した「ライブショッピング(Live Shopping)」を公開。そして今月、Facebookは新たに実装した「フェイスブックショップ(Facebook Shops)」タブでライブコマースの実験を行うため、大手のブランドに参加を呼びかけた。ほかのeコマース大手も同様の動きを見せている。たとえば、Amazonも、あまり知られてはいないがAmazon Live(アマゾンライブ)というライブコマースのプラットフォームを持っており、現在、消費者のショッピングエクスペリエンスの一部に組み込むため、インフルエンサーの呼び込みに注力している。そして4月には、ショッピファイ(Shopify)もeコマースストアとライブ動画の統合に着手した。
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海外での成功を受けて、米国でもライブコマースが急速に普及するだろうと、専門家たちは何年も前から予測してきた。しかしこれまで、ポップショップのようなアプリの時価総額が1億ドル(約104億円)近くに高騰してさえ、爆発的なブームはやってこなかった。だが、大手テクノロジー企業による参入は、ライブコマースの本格的なブレイクを予感させる。とりわけ、中小のニッチな企業には、大きな福音となるかもしれない。実際、Facebookを含め、大手テクノロジー企業の動きを見るかぎり、むしろごく小規模なショップに対して、ライブコマースを推し進める姿勢がうかがえる。
「本格的な普及はこれからだ」。そう語るのは、リテールおよびテクノロジーを専門に扱う調査会社コアサイトリサーチ(Coresight Research)のデボラ・ワインズウィッグ氏だ。同氏は、小売企業にとってライブコマースのメリットは計り知れないとしながらも、単なる企業広告のライブ配信とは根本的に異なる難しさを伴うとも指摘する。「ライブ配信はエンタテインメントだ。楽しく、エキサイティングでなければならない。だがいまのところ、その域には至っていない」。
ビッグブランドにとっては未開の荒野
有名ブランドのなかにも、ライブコマースを試みるものは確かにある。たとえば、アディダス(Adidas)はインスタグラムショッピングライブの実験運用に乗り出している。小規模なブランドとしては、メイクアップアーティストのニキータ・ドラガン氏が経営するドラガンビューティ(Dragun Beauty)が同様の試みを行っている。11月10日には、アパレル企業のアンクライン(Anne Klein)がフェイスブックショップでショッパブル動画をライブ配信した。この機能を活用したライブコマースとしては、おそらく同社が第1号だ。アン・クライン氏の孫娘、ジェシー・グレ・ルービンシュタイン氏がホストを務め、企業経営者やセレブがゲストとして出演している。同社は、ブラックフライデーとサイバーマンデーに合わせて、さらにいくつかのライブコマース配信を計画している。
「ライブコマースでは、とても効果的にストーリーを語ることができる」。アンクラインを運営するWHPグローバル(WHP Global)のイェフダ・シュミッドマン最高経営責任者(CEO)はそう語る。アンクラインには、同ブランドのトレードマークとも言える黒系のパンツをはじめ、いくつかの売れ筋商品があるが、シュミッドマン氏はライブコマースの「語る力」を活用して、あまり有名ではない商品を積極的に紹介したいという。
これらいくつかの例を除けば、大手のブランドはいまだライブコマースの潜在力を最大限に引き出せていない。ワインズウィッグ氏によると、このような企業の従業員や幹部たちと話をすると、決まってこう聞かれるという。「私に会いたがる人などいるのだろうか」。同氏の答えはこうだ。「たとえあなたが裏方の従業員でも、あなたに会いたい人はいる。あなたがどんな人か知りたい人はいる。あなたの価値観を知りたい人は必ずいる」。
どちらかと言えば中小企業に有利
ある意味、ライブコマースから最大の恩恵を享受するのは小規模なストアやクリエイターかもしれない。
Facebookは昨秋、ライブコマースのスタートアップ企業、パッケージド(Packagd)を買収したことで、そのような未来を示唆した。ブルームバーグ(Bloomberg)の当時の報道によると、この買収の目的は、第三者が商品を出品する「マーケットプレイス(Marketplace)」内に、ライブコマースネットワークを構築することだったという。これが実現すれば、近い将来、Facebookとインスタグラムに店を開く小規模な販売事業者が、こぞってニッチなライブコマースに乗り出すのではないか。
そのひとつのモデルとなるのが、Amazonが運営する動画プラットフォームのTwitch(ツイッチ)だ。Twitchには公式にショッピング機能が実装されているわけではないが、さまざまな種類の小さなショップや非公式のショッピングチャンネルがひっそりと集まって、一種のライブコマース領域を形成している。Amazon LiveまたはFacebookとインスタグラムが新たに実装したライブコマース機能とは異なり、視聴中の動画から直接商品を購入することはできないが、これら非公式のストア群は、将来的なライブコマースのあり方を体現するものかもしれない。
ベリー・ベリー・ショッピングネットワーク
ビデオゲーム会社でデザイナーとして働くジェン・ヴォーン氏は、この3月、共演者のジャズリン・ストーン氏およびプロデューサーのアーロン・オーク氏と共同で、「ベリー・ベリー・ショッピングネットワーク(Very Very Shopping Network)」というTwitch番組を開始した。この番組の目的は、コミック関連のイベントが軒並み中止になり、苦境に立たされたイラストレーターや漫画家の作品を紹介し、販売することだった。番組中、特定の商品が紹介されると、合わせて購入リンクが表示されるようになっている。
番組をライブで視聴するオーディエンスは少ないときで50人程度、多いときは120人ほどになる。この人々にユニークな視聴体験を提供するため、ヴォーン氏とストーン氏はベリー・ベリー・ショッピングネットワークにひとつのテーマを与えた。すなわち、ふたりは宇宙空間で立ち往生。なんとか地球に帰還しようと試みている。そんなわけで、ふたりはコミックイベントに参加できない。ヴォーン氏が所属する会社は、80年代風の宇宙船など、撮影用の小道具も用意した。同氏によると、売上は大きくないが、たいていはいくつかの作品が売れるという。
ベリー・ベリー・ショッピングネットワークはこれまでに5回配信された。通常は2日単位で1日3時間の配信だ。20分の質疑応答では、作家本人が出演して制作過程について語り、同時に販売中の新作が紹介される。ヴォーン氏とストーン氏がチャットをモニターしながら、セッション中にオーディエンスからの質問や応答、あるいはジョークなどを交える。
ベリー・ベリー・ショッピングネットワークがうまく機能している理由は、オーディエンスのオタク的感性に寄り添った演出だ。ヴォーン氏とストーン氏は、次のゲストを迎えるまでの幕間に、ときにゲストを交えながら、カメラに向かってインタラクティブな寸劇を披露する。たとえば、宇宙船に乗っている想定で、舵を切るべき方向をオーディエンスの投票で決める。あるいは、幽霊やカミナリに遭遇すると、稲光の特殊効果を発動させる。
成功の秘訣は、ニッチではあるが、熱心なオーディエンスをうまく取り込むことにあるようだ。米国でもライブコマースが浸透の度合いを深めるなか、成功するショップのコンテンツや構成を知るうえで、この番組は示唆に富む。ヴォーン氏いわく、「ライブコマースは楽しい。それは普通のテレビよりも、ちょっとばかりインタラクティブだからだ」。
[原文:As big tech goes all in on live-stream shopping, the future may be for small brands]
Michael Waters(翻訳:英じゅんこ、編集:長田真)