改めて言うまでもなく、プラットフォーマーの「ニュース・メディア離れ」は進んでいる。では、プラットフォーマー離れは起きていないのだろうか。 2023年第三四半期の決算を見る限り、プラットフォーマー各社の広告事業は順調だ。2 […]
改めて言うまでもなく、プラットフォーマーの「ニュース・メディア離れ」は進んでいる。では、プラットフォーマー離れは起きていないのだろうか。
2023年第三四半期の決算を見る限り、プラットフォーマー各社の広告事業は順調だ。2番手(つまり、広告費の支出先として価値が低い)プラットフォームと見做され、2期連続で前期割れを起こしていたSnapchatですら5%の増加に転じている。Googleの売上高は検索連動型広告で11.3%増、YouTubeで12.5%増。Metaに至っては全事業の広告収入が前年比21%増という驚異的な成長を達成している。プラットフォーマーはもはや成熟した存在であり、決算報告の直前まで広告収入の伸びは1桁台半ばにとどまるという見方が業界では支配的だったにもかかわらずだ。
順調そのものに見える数字だが、正直なところここからわかるのは昨年の景気後退以降続いていた広告市場の低迷が解消されているという事実だ。プラットフォーマーが盤石なのかについては、大いに疑問が残る。実際、米DIGIDAYがエージェンシーやブランド広告主、リテーラー各社の幹部を対象に実施したアンケートでは、明確にプラットフォーマー離れが見て取れる。潤沢な広告売上は、プラットフォームへの信任状を意味しないのだ。
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進むMeta離れ。Googleに向けられる懐疑の目
今期の広告収入を大幅に伸ばしたMetaだが、この数字にはカラクリがある。大部分は広告枠を大幅に増加させたことによるもので、品質が価格が高かったわけではない。162人のエージェンシー幹部を対象としたDIGIDAYの調査でも、2022年に「直近の1カ月間にクライアントに代わってFacebookで広告を購入した」と回答したエージェンシーが81%に達したが、今年は半50%にとどまった。その理由について、多くのエージェンシーが「昨年購入した広告のROIが期待に届かず、今年は出稿を相当に控えた」とコメントしている。収益ドライバーとして期待できないとする厳しい指摘も多く、「Facebookには価値がない」とまで断ずる幹部もいた。
欧州や米国でのターゲティングの未来は不確かで、Facebookが得意とする下位ファネル向けの広告在庫が不安視されていることは間違いない。現時点で広告事業は上り調子だが、今後も広告主が青天井で予算を投下し続けるわけでもない。Metaの足元は盤石とは言えず、綱渡りの状況だと言える。
YouTubeの成長をアピールするGoogleに関しても、順風満帆とは言い難い。確かにYouTubeショートやアメリカで展開を始めているYouTube TVは成長が期待できる存在だが、現在米国で進んでいる反トラスト訴訟や不透明なYouTube広告の測定・効果検証に関する報告など、成長への期待よりも懐疑の念が勝るのではないだろうか。
なによりも成熟した領域は市場の影響を受けやすい。各社が「主力事業」とする広告事業においては絶好調の四半期が続く時代など期待できず、不安定な市場の様子を見ながらマイナスにはならないよう、歯車を回し続けるしかない。
2番手にはもはや誰も目をくれない
さらに悲惨なのは2番手たちだ。かろうじて広告売上が増加したSnapchatだが、同プラットフォームにおける虎の子であるAR機能は行き詰まりを見せており、4月に新設したばかりのARエンタープライズ部門を早々に閉鎖している。CEOのエバン・シュピーゲル氏はジェネレーティブAIの急激な拡大によってAでの差別化が困難になったためとコメントしているが、エージェンシーや広告主からは「そもそもAR機能がそれほど重要な存在ではない」という厳しい指摘も聞かれる。
広告エージェンシーのジャニュアリーデジタル(January Digital)で顧客戦略およびサービス担当シニアディレクターを務めるジェレミー・エクス氏は「有り余る予算を持つブランドは別として、大半のブランドにはARよりももっと大事な仕事がある(中略)各社の優先順位リストにARはもはや入っていない」とコメントしている。
Xも置かれている状況はあまり変わらない。リンダ・ヤッカリーノ氏がCEOに就任することで業界内では広告支出を振り分けることへの期待感も出たが、結局何も変わらなかった。NYTが報じた2023年6月の内部資料によると、4月1日から5月第1週までのXの米国での広告収益は8800万ドル(約132億円)で、前年比59%減。減少幅はその後も広がり続けている。広告だけでなく、Xへの投稿を控える動きも進んでおり、ブランドがオーガニックなコンテンツを投稿する場として持て囃されたTwitterの姿は面影も残っていない(マスク氏がそもそもプラットフォームであることを志向していないのでは、という点は加味する必要があるが)。
収益を安定化させるために始めたはずの、収益源の多様化も場合によっては「足を引っ張る」要因となる。たとえば、Xだけでなくメタやスナップもサブスクリプションモデルを展開している。GoogleやAppleは生産性向上プロダクトやクラウドサービスを無数に提供している。収益源を多角化すれば、プラットフォーマーの財務状況は安定し、四半期決算の不振を潜在的に回避できるが、すべての事業で同時に良好な結果を出せるとは限らない。
プラットフォーマー各社は今日も必死で広告を販売し続けている。
主な数字
339億6000万ドル(約5兆630億円:2023年現在、Amazon広告の米国での売上。ちなみにアルファベットは売上高788億6000万ドル(約11兆7570億円)、メタは513億5000万ドル(約7兆6560億円)。
20億人:ひと月あたりのYouTubeショートを試聴しているログインユーザー数。膨大な数字ではあるが前期から増えていない。
14%:DIGIDAYが162人のエージェンシー幹部を対象に実施したアンケートで、「Facebookには全く価値がない」と回答した割合。