Apple プライバシー強化、「位置情報」業界がさらに混乱へ

プライバシー保護へと舵が切られたことで、位置情報を利用した広告の市場が混乱に陥っている。人々が位置情報の収集を警戒しはじめたいま、市場全体が将来の方向性を問われている。

2019年9月にリリースされたAppleのiOS 13では、アプリがユーザーの位置情報を収集しようとしたとき、必ず確認メッセージが表示されるようになった。ポップアップ画面には、3つの選択肢が用意されている。位置情報の収集を常に許可する、アプリの使用中のみ許可する、一度だけ許可するの3つだ。iOS 13のリリースから4カ月。複数のアドテク関係者によれば、観測筋の予言が的中したようだ。一部の観測筋は、アプリから送られてくる位置情報が減少すると予測していた。

アプリが位置情報を収集するためのソフトウェアを開発しているアドテク企業ティーモ(Teemo)の共同創業者で最高経営責任者を務めるブノワ・グルシュコ氏は、現状としてアプリを使用していないときもデータを共有するという選択肢のオプトイン率は50%を下回ることも珍しくないと報告。同氏によれば、3年前のオプトイン率は100%に近かったという。オプトイン率が高かったのは、人々が選択肢を与えられていることに気付いてすらいなかったためだ。多くのアプリはインストールされてすぐ、自動的に位置情報の共有を開始していた。

しかし、Appleがプライバシー保護に動いたことで、共有するデータを自分で選択することへの人々の意識が高まっている。位置情報の検証を行うロケーション・サイセンシズ(Location Sciences)が追跡したiPhoneユーザーの10人中7人がリリース後6週間以内にiOS 13をダウンロードし、その80%がバックグラウンドでの追跡をすべて停止していた。

ロケーション・サイエンシズの最高事業責任者ジェイソン・スミス氏は「人々はスマートフォンによる位置情報の常時共有をやめることに決めたようだ」と話す。

落胆するマーケターたち

人々がアプリによる位置情報の共有を許可しないと決断したとき、バックグラウンドでの追跡が停止し、マーケターはターゲティング広告用の位置情報をすべて失った。

ピュブリシスメディア(Publicis Media)傘下のエージェンシー、スターコム(Starcom)のマネージングパートナーを務めるポール・カサミアス氏は「オンラインでの検索と店頭での購入を結び付ける能力にも影響が生じ、客足の測定がはるかに不透明になる」と話す。「中小の広告主のあいだでも、広告費が落ち込む可能性が高い。中小の広告主はコスト効果を最重視しているためだ。実店舗に関しても、適切なタイミングで適切なユーザーをターゲティングすることが難しくなるだろう」。

特定のアドテクベンダーと仕事をするとき、Appleの動きによる波及効果を感じはじめているというメディアバイヤーもいる。

ハバス・メディア(Havas Media)のデジタル戦略担当エグゼクティブバイスプレジデント、サルギ・マン氏は「位置情報ソリューションのプロバイダーからの売り込みが減っている。また、大きな契約を結ぶ際、データのやりとりに透明性を持たせてほしいという要望が増えている」と報告する。

「アドテク業界と似ている」

位置情報を利用した広告の市場にとって、Appleの動きはさらなる衝撃だった。2018年、ヨーロッパで一般データ保護規則(General Data Protection Regulation:GDPR)が施行されたとき、位置情報を取引するバーブ(Verve)、グラウンドトゥルース(GroundTruth)などの企業はヨーロッパから撤退し、ほかの市場に注力していたためだ。一方、ファクチュアル(Factual)などは大量のデータを収集していたアプリをつなぎ止めるため、同意管理プラットフォーム(CMP)の分野で存在感を示そうと躍起になっていた。

ビームレイ(Beemray)の共同創業者ラマン・シドゥ氏は「位置情報業界が置かれている状況はアドテク業界の大部分とよく似ている」と話す。シドゥ氏によれば、こうしたビジネスの舵を取る幹部たちは、プライバシーに関しては「近視眼的」だという。AppleやGoogleが動きを見せるたび、その場しのぎの対応に終始するためだ。

「プライバシー重視の世界で位置情報をどのように扱うべきかを探求した者が、広告主やパブリッシャーに持続可能な違いと成長をもたらす可能性がもっとも高い」と、シドゥ氏は話す。

希望の兆しもないわけでない

ただし、広告主が入手できる位置情報の価値が増すという点で希望の兆しもある。しかも、アドテク企業の幹部たちによれば、位置情報の市場は現在も活発だという。

リップル(Rippll)の最高経営責任者、ダグ・チズム氏は「我々はいまも位置情報企業からアプローチを受けている。彼らは成長中だと言っており、なにより、1年前より多くのデータを持っていると言っている」と話す。「私から見ても、収集、販売されているデータの量や種類に変化はない。規制をうまく回避し、(英国のデータ保護当局である)情報コミッショナーオフィス(ICO)の出方を待っているのだろう」。

とはいえ、その場しのぎの回避策は質の低下という犠牲を伴うと、広告バイヤーたちは述べている。

ロケーション・サイエンシズのスミス氏は「スマートフォンの(GPS)技術を利用した位置情報が減少している。(GPS)技術はもっとも精度の高いモバイル位置データの情報源だ」と話す。「その代わりに、通信事業者や(IPアドレスの)データなど、質の低いデータが大幅に増加している。これらの多くがもっとも精度の低いモバイル位置データの情報源だ」。

Seb Joseph (原文 / 訳:ガリレオ)