いまのところ、Appleによるアプリ内トラッキング規制の影響は見えにくい。しかし、(導入後)最初の四半期を終えて、これがオンライン広告費の流れを揺るがし、圧迫し、制限することが明らかになった。オンライン広告ビジネスの最大手企業の現在の四半期決算にAppleが落とす長い影が、この影響にはっきりと焦点を当てている。
Appleによるアプリ内トラッキングの規制は、展開が予想以上に長引いた影響で、ここまでのところ徐々にしか実施されていない。そのため、新しい規制の影響は見えにくい。しかし、(導入後)最初の四半期を終えて、この規制がオンライン広告費の流れを揺るがし、圧迫し、制限することが明らかになった。オンライン広告ビジネスの最大手企業の現在の四半期決算にAppleが落とす長い影が、この影響にはっきりと焦点を当てている。
2021年に向けて企業がもっとも懸念していたのは、サプライチェーンの問題ではなく、Appleだった。それは、Appleのせいで大量のメディア予算が彼らから離れていったからではない(実際にそうなっているが、それはある程度でとどまっている)。むしろそれは、「状況が良くなる前に悪化する」という単純な懸念だ。そこにある不安は、最高経営責任者(CEO)たちによる慎重な予測や、面白味に欠ける売上を背景にした株価の大幅な下落だ。まるで、Appleのトラッキング規制に悩まされた最初の四半期が、オンライン広告の最大手企業のCEOの目を覚まさせたかのようだ。
考えてみてほしい。2021年4月に「App Tracking Transparency(以下、ATT)」機能が始まって以来、多くのAppleユーザーは、Apple製デバイスにおいてアプリやサイトを通じて追跡されることを許可するよう求められている。追跡はモバイル識別子(IDFA)経由で行われる。この機能は、広告を見た人が商品を買ったのか、アプリをダウンロードしたのかを広告主が知る取り組みのために重要なものだ。しかし、IDFAがなければ、これは難しくなる。実際、IDFAがなければ、広告を詳細に追跡したり、ターゲットを絞ったり、測定したりすることは不可能に近い。
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このことは、こうした識別子に基づいてビジネスを展開してきた企業にさまざまな影響を与える。そしてそのなかには、ほかよりも深刻な影響を受けている企業もある。
ピンチを感じはじめた企業たち
ペロトン(Peloton)を例にとってみよう。ペロトンは、11月初めに行われた決算発表において、ATTによって、多くの人の興味に合わせて正確にターゲットを絞ることができない結果、サービスの加入者を増やす能力が阻害されるだろうと述べている。一方、トレードデスク(The Trade Desk)は、これまでその影響をほとんど感じていないという。このような違いは当然予想されたことだ。オンラインビジネスは、さまざまな要因に影響されるデータシグナルに依存する。だから、トレードデスクがATTによるビジネスへの影響は最小限だと言うのも理解できる。実際、マーケターが入札するトラフィックの多くは、ATTがもっとも苦手とするアプリ内広告をカバーしていない。
とはいえ、CEOたちがもう危機を脱したと考えるのは無責任だろう。そうすると、夏に一部の幹部たちが気づいたように、不意打ちを食らう危険性がある。
モバイルゲームの開発企業であるプレイティカ(Playtika)の株価は、アナリスト予測に届かない決算を発表した2021年11月3日、25%下落した。当然のことながら、同社は今四半期の業績予想を下方修正した。これはプレイティカの経営陣が、これまでATTに関する懸念を軽くあしらってきた結果だ。プレイティカのような広告主は、広告で収益を上げている多くのオンラインプラットフォームを支える主力企業であり、これらの企業が、程度の差はあるものの、ピンチを感じはじめているのにもうなずける。
売上を失うプラットフォーム
たとえば、ピンタレスト(Pinterest)は、米証券取引委員会(SEC)に提出した第3四半期関連書類に、Appleのプライバシー保護措置により、「プラットフォーム外でのユーザーの行動を追跡し、そのやり取りをプラットフォーム上の広告と結びつける能力」が低下したと書いている。一方、Twitterの同時期収益は、Appleのトラッキング規制の影響をほとんど受けていない。実際、Twitter幹部はアナリストに対し、この変更による広告収入への影響は予想以上に小さかったと述べている。Twitterの第3四半期の売上高は13億ドル(約1481億円)で、ウォール街の予想をわずかに下回るものだった。
オンラインプラットフォームにとって、これは魅力的ではあるが、同時に不安定な状況だ。経営上層部は、自分たちの商業モデルのかなりの部分が危機に瀕していることを、頭ではもちろん、心でも理解している。なかには、これに対応するために、広告ビジネスの主要部分の見直しを進めているという人もいる。たとえば、Twitterは10月、投資家に向けて、将来的にApple製デバイスのユーザーをより正確に測定するための新製品を開発中であると述べている。
特に、ATTが各プラットフォーム上の広告のパフォーマンスを低下させている可能性があるため、この変更によって多くのことが影響を受ける。最近のデータからは、必要な調整を迅速に行うことができなければ、これらのプラットフォームにどれだけの多くの金銭的な影響があるのかが判明している。
フィナンシャル・タイムズ(Financial Times)が最初に引用したアドテクベンダー、ロテーム(Lotame)のデータによると、Facebook、Twitter、YouTube、Snapの4社は、第3四半期および第4四半期に売上の12%(99億ドル:約1.1兆円)を失ったという。Snapは、スマートフォンでの利用が多いため、割合的には損失が大きく、Facebookはモバイルビジネスの規模が大きいため、絶対額ではもっとも損失が大きい、とフィナンシャル・タイムズは報じている。
Facebookとマーケターの信頼関係
そうは言っても、Facebookは ATT に対してほかの企業より実際には有利な立場にあるかもしれない。Facebookは、消費者の大規模なインストールベースを持ち、かなりの商業活動がそのウォールドガーデン内で行われているため、ATTからの反撃を軽減できるだけでなく、広告主は、このホリデーシーズンの期間中、Facebookからできる限り多くの広告を購入しているようだ。確かなデータがあるわけではないが、これは数カ月のあいだに思われていたほど大きな問題にはならないだろう。広告主の多くは、何年もかけてオーディエンスプロキシを構築しており、それを用いれば、IDFAを使わずにオーディエンスにリーチすることができるのだ。
メディアエージェンシーのスペース・アンド・タイム(Space & Time)で有料ソーシャル部門を率いるブルース・ティッシントン氏は、「我々のクライアントは、これはトラッキングの問題であり、コンバージョンあたりのコストの上昇がキャンペーンのパフォーマンスの低下を示しているわけではないことをすぐに理解した」と話す。有料ソーシャルは、ATTの影響を最も受けるチャンネルだが、10月の投資レベルは過去6カ月間より高くなっていた。
言い換えれば、マーケターは、ATTは単なる技術的な変更にすぎず、人々はApple製デバイスでこれまでと同じコンテンツを見ているが、マーケターが追跡できなくなっただけだと考えているのだ。いずれにしても、こうしたマーケターは、Facebookと長年仕事をしてきて十分な経験を積んでおり、IDFAなしでどれほどの効果があるかわからないとしても、これらの広告は機能すると信じている。
アイル・ロケット(Aisle Rocket)のメディア担当エグゼクティブバイスプレジデント、グレッグ・スラマ氏は、「プラットフォーム内のデータが失われたにもかかわらず、実世界の売上や収益のデータはより高く、ビジネスの目標に沿ったものであることが証明されており、広告主にとってはプラットフォームのデータを超えて測定することがより重要になっている」と語る。
Appleユーザーを避けることはできない
特に、Androidでのテストと学習のために一時的なシフトを行い、iOSユーザー向けの戦略を再現しなければならないアプリの広告主にとって、これは試練になる。実際、Appleのモバイル市場のシェアはすぐには縮小しないため、これらのユーザーを避けることは、Appleのトラッキング規制を乗り越えるための戦略にはならない。
スラマ氏は次のように述べる。「第4四半期には広告投資が増加し、2022年も減速する兆しはない。不確実性がある一方で、成長目標が加速しているため、効率性の方程式を維持するために、まず実績のある収益源を最大限に活用しながら、新しいチャネルを試すことで多様化を図るよう、クライアントにアドバイスしている」。
[原文:Why Apple’s ATT is casting a long shadow over online advertising’s latest quarter]
SEB JOSEPH(翻訳:藤原聡美/ガリレオ、編集:長田真)