昨今、アドテク業界コミュニティで物議をかもしている手法といえば、なんといってもMFAサイト(made-for-advertising sites:広告収入のみを目的とするウェブサイト)だろう。多くの業界人が、MFAという略語を聞いただけで憤り、恐怖や不快感を覚えるといわれる。
実際、MFAサイトに対する各社の非難がさらに高まれば、今後、アドテク業界の構造が根底から覆される可能性も考えられる。騒ぎのきっかけは、今年2023年6月に実施された全米広告主協会(The Association of National Advertisers:以下ANA)による調査で、何千万ドルという広告費がMFAサイトに流れ、まともなパブリッシャーの収益を奪う仕組みになっているという実態が明らかになった。
関係者の怒りが噴出するのももっともだ。MFAサイトが有害な存在であることは疑いようがない。しかし、ANA主導の調査結果が公表されて初めて、業界各社がMFAの存在に気づいたのだとしたら情けない。この種のサイトは数年前から横行していたからだ。とはいえ、この問題に対する業界の認識不足も、過去を振り返ってみればそう意外ではないかもしれない。
事態に怒りはするが、手は打たない
そもそも広告業界各社は、何かに対する自らの関与や認識を疑われたとしても、もっともらしく否認するのを好み、一目瞭然の証拠をつきつけられるまで認めない傾向にある。
ところがANAによる調査の結果、対象の広告キャンペーンで得られた収入のうち15%がMFAサイトに流れていた事実が発覚したとき、ある現象が起きた。
ごうごうたる非難の嵐がにわかに業界を席巻し、誰もが他者の非を指摘し、責任をなすりつけあい始めた。それでも、MFAサイトの台頭に自社が果たした役割について認めた企業はごくわずかで、サイト増殖の阻止に積極的な企業はさらに少ないようだ。
しかし、企業のそんな態度を責められるだろうか。
アドテク業界の過去を振り返れば、アドフラウドや不透明な手数料、ブラックボックス化したアルゴリズムやデータ漏洩などの問題への関心がいっとき高まっても、いつも長続きしなかった。MFAサイトについても同様の対応になるのではないか。MFAは、業界として見て見ぬふりをしたい「不都合な真実」のリストに追加された最新の項目にすぎないのかもしれない。
有害だが業界は関心を向けず
ブランディング/マーケティング専門のイービクイティ(Ebiquity)の最高戦略責任者、ルーベン・シュラーズ氏はこう語る。「近年、似たようなパターンが見受けられて嘆かわしい。この種の問題は、もしメディアバイヤーが厳格なキュレーション戦略を適用していたら、セルサイドが徹底したKYC(本人確認)プロセスを実行し、取り扱う広告在庫の品質と透明性を確実に保証する手段を講じていたら解決していたはずだ。そうした方策が導入されるまでは、対処すべき慣行の名称やテーマが毎年変わるなか、モグラ叩き型の対応を続けるしかない」。
こうした意見はひそかに語られるか、匿名で発表される傾向にあり、アドテク企業幹部の多くはあえて波風を立てようとしない。ごくまれに、現状に異議を唱えて変革を起こそうという者もいるが、自信のほどは定かではない。関係者にとっては、口を閉ざして愚か者と思われているほうが、問題を追求するより賢明な選択なのかもしれない。その選択が妥当かどうか探るには、米DIGIDAYが最近、各社のマーケターを取材した際のコメントが参考になるだろう。
某消費財メーカーの社内メディアディレクターは、匿名を条件に取材に応じ、次のように述べた。「問題は、MFAサイトが広告主とパブリッシャーの双方にとって有害であるにもかかわらず、業界全体の関心が薄いことだ」。
もうひとり、やはり匿名希望のアドテク企業幹部も、「関心の薄さ」を指摘している。「我々は数年前、取引の全プロセスで透明性を担保したプログラマティック広告マーケットプレイスの設立を試みた。当社の経営陣に計画を提案したとき、導入後の見通しを率直に伝えた。目に見えないコストがなくなって手数料収入が減るが、代わりにアドテク関連収入が増えるという提案だったが、誰ひとりとして関心を示さなかった」。
MFAをめぐる問題に対し関係者が怒りを爆発させたとしても、その影響力がいかに小さいかを如実に示すエピソードだ。
昨今、アドテク業界コミュニティで物議をかもしている手法といえば、なんといってもMFAサイト(made-for-advertising sites:広告収入のみを目的とするウェブサイト)だろう。多くの業界人が、MFAという略語を聞いただけで憤り、恐怖や不快感を覚えるといわれる。
実際、MFAサイトに対する各社の非難がさらに高まれば、今後、アドテク業界の構造が根底から覆される可能性も考えられる。騒ぎのきっかけは、今年2023年6月に実施された全米広告主協会(The Association of National Advertisers:以下ANA)による調査で、何千万ドルという広告費がMFAサイトに流れ、まともなパブリッシャーの収益を奪う仕組みになっているという実態が明らかになった。
関係者の怒りが噴出するのももっともだ。MFAサイトが有害な存在であることは疑いようがない。しかし、ANA主導の調査結果が公表されて初めて、業界各社がMFAの存在に気づいたのだとしたら情けない。この種のサイトは数年前から横行していたからだ。とはいえ、この問題に対する業界の認識不足も、過去を振り返ってみればそう意外ではないかもしれない。
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事態に怒りはするが、手は打たない
そもそも広告業界各社は、何かに対する自らの関与や認識を疑われたとしても、もっともらしく否認するのを好み、一目瞭然の証拠をつきつけられるまで認めない傾向にある。
ところがANAによる調査の結果、対象の広告キャンペーンで得られた収入のうち15%がMFAサイトに流れていた事実が発覚したとき、ある現象が起きた。
ごうごうたる非難の嵐がにわかに業界を席巻し、誰もが他者の非を指摘し、責任をなすりつけあい始めた。それでも、MFAサイトの台頭に自社が果たした役割について認めた企業はごくわずかで、サイト増殖の阻止に積極的な企業はさらに少ないようだ。
しかし、企業のそんな態度を責められるだろうか。
アドテク業界の過去を振り返れば、アドフラウドや不透明な手数料、ブラックボックス化したアルゴリズムやデータ漏洩などの問題への関心がいっとき高まっても、いつも長続きしなかった。MFAサイトについても同様の対応になるのではないか。MFAは、業界として見て見ぬふりをしたい「不都合な真実」のリストに追加された最新の項目にすぎないのかもしれない。
有害だが業界は関心を向けず
ブランディング/マーケティング専門のイービクイティ(Ebiquity)の最高戦略責任者、ルーベン・シュラーズ氏はこう語る。「近年、似たようなパターンが見受けられて嘆かわしい。この種の問題は、もしメディアバイヤーが厳格なキュレーション戦略を適用していたら、セルサイドが徹底したKYC(本人確認)プロセスを実行し、取り扱う広告在庫の品質と透明性を確実に保証する手段を講じていたら解決していたはずだ。そうした方策が導入されるまでは、対処すべき慣行の名称やテーマが毎年変わるなか、モグラ叩き型の対応を続けるしかない」。
こうした意見はひそかに語られるか、匿名で発表される傾向にあり、アドテク企業幹部の多くはあえて波風を立てようとしない。ごくまれに、現状に異議を唱えて変革を起こそうという者もいるが、自信のほどは定かではない。関係者にとっては、口を閉ざして愚か者と思われているほうが、問題を追求するより賢明な選択なのかもしれない。その選択が妥当かどうか探るには、米DIGIDAYが最近、各社のマーケターを取材した際のコメントが参考になるだろう。
某消費財メーカーの社内メディアディレクターは、匿名を条件に取材に応じ、次のように述べた。「問題は、MFAサイトが広告主とパブリッシャーの双方にとって有害であるにもかかわらず、業界全体の関心が薄いことだ」。
もうひとり、やはり匿名希望のアドテク企業幹部も、「関心の薄さ」を指摘している。「我々は数年前、取引の全プロセスで透明性を担保したプログラマティック広告マーケットプレイスの設立を試みた。当社の経営陣に計画を提案したとき、導入後の見通しを率直に伝えた。目に見えないコストがなくなって手数料収入が減るが、代わりにアドテク関連収入が増えるという提案だったが、誰ひとりとして関心を示さなかった」。
MFAをめぐる問題に対し関係者が怒りを爆発させたとしても、その影響力がいかに小さいかを如実に示すエピソードだ。
低品質サイトの容認という姿勢こそが「低品質」
残念ながら、内容がよく練られたSNSの投稿も、雄弁なスピーカーによる基調講演も、徹底した調査も、変革を起こすには十分でない場合が多い。業界に蔓延し、構造的に深く根づいた慣行への対策を講じるなら、マーケターは揺るがぬ決意をもって問題の根本原因と向き合う覚悟をしなくてはならない。ところが、結論から先に言ってしまうと、大半のマーケターたちは、そんな断固たる対応をとろうとしないのが現状だ。
数年前に業界を騒がせた、メディアバイの透明性をめぐる問題を思い出してみてほしい。マーケターたちは深い懸念を表明してみせたが、その反応はけっきょく、ご都合主義にすぎなかった。当初、自分たちにメリットがあると判断して関心を示したわけだが、メリットがないとわかったとたん、知らぬ顔を決めこんだ。結果として、マーケターたちの本気を信じて行動した多くの企業を不利な状況に追いこんだのだ。
「こうしたコミュニケーションにおける失態のあとには、大手ブランドなど広告主から、メディア予算を削減して代替案を検討するという声がよく聞かれる」と、コンテクスチュアル広告テクノロジーを手がけるショーヒーローズ・グループ(ShowHeroes Group)のカントリーマネージャー、スティーブン・フィラー氏は語る。「しかし、しばらくしてほとぼりが冷めると、広告主の予算は通常のレベルに戻り、アドテク大手は相変わらず不釣り合いなほど多額の収益を上げ続けることになる」。
これまでずっと守られてきた商習慣は、なかなか変えられるものではないということか。
MFAサイトの増殖は、オンライン広告全体の問題から派生するひとつの現象だといえる。オンライン広告の大半は、露骨な表現や詐欺まがいの内容もあるていど含まれるという想定のもと、オープンウェブ上でのリーチの最大化を目指している。結果として、信頼性に欠けるプログラマティック広告の売り手側にも広告費が流れることになる。そのほか、海賊版コンテンツ、コネクテッドTV詐欺、インストリーム動画広告の誤申告といった事案のリスクも生まれる。
これらの問題への対処として、マーケターはまず、自社のプログラマティック広告戦略を見つめ直し、MFAのような低品質サイトの横行を容認するような戦略こそ低品質だと認めるべきだ。一方、アドテクベンダーがMFAサイトをブロックするつもりなら、サイトに広告が表示されるたびに懐に入っていた収入を手放す覚悟をしなくてはならない。
業界各社に求められるのは、そんな謙虚さであり、寛大さだ。そうして新たに身につけた姿勢の価値がわかる者が多くなれば、口先だけの言葉を実際に行動に移せる者も出てくるだろう。
解決への期待値は高いが……
「基本的に私は、今後の展開を楽観視している」と語るのは、プログラマティック広告コンサルティングのジャウンスメディア(Jounce Media)の創業者、クリス・ケイン氏だ。
「これからは、現実にはありえないKPIの数値を見て、おかしいと疑いを抱くメディアバイヤーが増えるだろう。たとえば動画広告キャンペーンの場合、インプレッション単価(CPM)が3ドル50セント(約508円)でビューアビリティが85%、視聴完了率が90%などというデータには信憑性がない。そんなKPIの組み合わせは信頼のおけるウェブサイトではありえない。業界では、ビジネスの状況分析をしたうえで広告効果の測定結果とつき合わせる人が多くなっているから、データに表れた非現実的なKPIに気づけば、怪しいサイトだという判断ができるはずだ」。
そういった兆候が最近、まれに散見されるようになった。サードパーティCookieの廃止によりアドレス指定能力が無くなるおかげで、広告主やアドテク各社にとって、徐々に、しかし着実に、MFAサイトの問題を見過ごす代償が大きくなっていく。
アクセス解析データの入手が難しくなればなるほど、ビューアビリティや視聴完了率といった特定の指標のみに最適化した手法に頼らず、アテンション指標などに方向転換する広告主が増える。実際、少ない活動で多くの成果を得ることは可能だと、ケイン氏は指摘する。そのためには、充実したクリエイティブをたずさえて、少数だが効果的な広告インプレッションを狙い、厳選されたパブリッシャーによる質の高いサイトに実体のある広告を出稿しつづける必要があるという。
既知のMFAサイトのドメインをブロックする方法では、モグラ叩きゲームに終始するだけで真の解決策にはならない。マーケターは、信頼できる広告の売り手とのみ取引する道を歩みはじめるべきだ。そうすれば、さまざまな問題から自社の広告宣伝活動を守れるだろう。
しかし、MFAをめぐる問題への対処にも、落とし穴が存在する。それは解決への期待だ。期待値が高ければ高いほど、結果が出なかった場合の失望は大きくなるだろう。
[原文:Anatomy of an ad tech outrage]
Seb Joseph, Kayleigh Barber and Ronan Shields (翻訳:SI Japan、編集:分島翔平)