Amazonの会員制サービス、プライム(Prime)は20年近く続いているが、同社はいま、より一貫したストーリーで語ろうとしている。
Amazonは3月、プライムに登録してもらうことに焦点を当てた広告キャンペーンを発表した。それから7カ月経った現在、Amazonはこのキャンペーンを6カ国以上に拡大し、長期的なマーケティングテンプレートとして使用する計画だ。この最新の試みは、eコマース大手である同社がこのストーリーを伝えようとする方法が戦略的に変化したことを表している。これらの広告は、たとえば、送料無料といったもっとも人気の高い特典を強調するのでなく、サブスクリプションサービスによって得られるものの全体像をより詳しく伝えようとしているのだ。
「これまでは、すべての利点がどのように関連しあうのかを顧客にストーリーで伝えることが困難だった」と、Amazonのグローバルブランドおよびマーケティング担当バイスプレジデントを務めるクローディーヌ・チーバー氏は語る。最新のキャンペーンは、「この提案全体をどのようにまとめるか」を中心にしていると、同氏は述べる。
Amazonプライムをストーリー仕立てで訴求
リニアおよびストリーミングTV、ソーシャルメディア、ショート動画の広告のコレクションは、クロスチャネルキャンペーンの一部であり、現在は米国、日本、ブラジルなど8カ国で実施している。このキャンペーンへの投資額をチーバー氏は明らかにしていないが、「当社最大の投資のひとつ」であると述べた。
プライムの多種多様な要素をひとつに結び付ける試みの例として、チーバー氏はひとつのスポットCMに言及している。このCMには、警備員として働いている若い男性が登場する。この男性は時間つぶしに料理の動画を見ているうちに、それに触発されて調理器具を(もちろんプライムで)購入する。最終的に、この男性はスーシェフへの転職を考えるようになる。動画を見たり、商品をオンライン購入するなど、関係するすべての要素が、Amazonやプライム会員の特典によって促進されるわけだ。
この広告は、eコマースとそれ以外の両方で、かつてAmazonが開拓したサービス、特に無料の高速配送を売りものにしている小売企業がますます増えていることを受けたものだ。最近の経営陣の発言を見てみると、現在ではプライムと同様の配達が必須条件であることが明白だ。アナリスト向けのとの直近の決算説明会で、CEOのアンディ・ジャシー氏は「より迅速な配送を行うことに強く注力してきた。配達速度は過去最高だ。前四半期において、米国の上位60の都市圏にわたり、プライム会員の注文の半数以上が即日または翌日配達された」と述べている。一方、ウォルマート(Walmart)のCEOのダグ・マクミロン氏は、「常に配達時間の短縮を進めている。これは当社の顧客と戦略にとって重要なことだ」と決算発表で述べている。
この記事は、小売業界の最前線を伝えるメディア「モダンリテール[日本版]」の記事です。
Amazonの会員制サービス、プライム(Prime)は20年近く続いているが、同社はいま、より一貫したストーリーで語ろうとしている。
Amazonは3月、プライムに登録してもらうことに焦点を当てた広告キャンペーンを発表した。それから7カ月経った現在、Amazonはこのキャンペーンを6カ国以上に拡大し、長期的なマーケティングテンプレートとして使用する計画だ。この最新の試みは、eコマース大手である同社がこのストーリーを伝えようとする方法が戦略的に変化したことを表している。これらの広告は、たとえば、送料無料といったもっとも人気の高い特典を強調するのでなく、サブスクリプションサービスによって得られるものの全体像をより詳しく伝えようとしているのだ。
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「これまでは、すべての利点がどのように関連しあうのかを顧客にストーリーで伝えることが困難だった」と、Amazonのグローバルブランドおよびマーケティング担当バイスプレジデントを務めるクローディーヌ・チーバー氏は語る。最新のキャンペーンは、「この提案全体をどのようにまとめるか」を中心にしていると、同氏は述べる。
Amazonプライムをストーリー仕立てで訴求
リニアおよびストリーミングTV、ソーシャルメディア、ショート動画の広告のコレクションは、クロスチャネルキャンペーンの一部であり、現在は米国、日本、ブラジルなど8カ国で実施している。このキャンペーンへの投資額をチーバー氏は明らかにしていないが、「当社最大の投資のひとつ」であると述べた。
プライムの多種多様な要素をひとつに結び付ける試みの例として、チーバー氏はひとつのスポットCMに言及している。このCMには、警備員として働いている若い男性が登場する。この男性は時間つぶしに料理の動画を見ているうちに、それに触発されて調理器具を(もちろんプライムで)購入する。最終的に、この男性はスーシェフへの転職を考えるようになる。動画を見たり、商品をオンライン購入するなど、関係するすべての要素が、Amazonやプライム会員の特典によって促進されるわけだ。
この広告は、eコマースとそれ以外の両方で、かつてAmazonが開拓したサービス、特に無料の高速配送を売りものにしている小売企業がますます増えていることを受けたものだ。最近の経営陣の発言を見てみると、現在ではプライムと同様の配達が必須条件であることが明白だ。アナリスト向けのとの直近の決算説明会で、CEOのアンディ・ジャシー氏は「より迅速な配送を行うことに強く注力してきた。配達速度は過去最高だ。前四半期において、米国の上位60の都市圏にわたり、プライム会員の注文の半数以上が即日または翌日配達された」と述べている。一方、ウォルマート(Walmart)のCEOのダグ・マクミロン氏は、「常に配達時間の短縮を進めている。これは当社の顧客と戦略にとって重要なことだ」と決算発表で述べている。
顧客の「神聖な不満」に応える
そのため、Amazonのような企業は、現在では配送以外のすべての要素を前面に押し出すことが必要だと感じている。そして、これは競争がますます激しくなっている状況を背景としたものだ。インサイダーインテリジェンス(Insider Intelligence)によると、ウォルマートプラス(Walmart+)は今年10.4%成長しており、今年中にメンバー数は2900万人に達する。それに対して、Amazonはプライム会員の増加率を固く隠してきた。Amazonによれば、プライムの会員数は全世界で2億人を超えている。しかし、コンシューマーインテリジェンスリサーチパートナーズ(Consumer Intelligence Research Partners)のレポートは、米国におけるプライムの会員は、2021年の1億7000万人から、2022年には1億6800万人に減少したとしている(Amazonはこのレポートを否定し、「米国でのプライム会員数は2022年に増加した」とビジネスインサイダー(Business Insider)に告げた)。
まとめると、Amazonが小売会員の分野で明確なリーダーであることは疑いないが、ほかの業者も追いつきつつあるということだ。
チーバー氏が説明したように、このキャンペーンの背景にあるのは、ジェフ・ベゾス氏が2018年に株主に宛てた手紙に記されていた、顧客が「神聖な不満」を持っているというアイデアだ。すなわち、顧客はさまざまな、多くの場合は相互矛盾することを望んでおり、利用するすべてのビジネスに対して完璧な応対を求めるということだ。Amazonがプライムに特典を追加し続けてきた理由のひとつが、たしかにそこにある。多くの点において、プライムはショッピング、TV鑑賞、音楽鑑賞といった娯楽の集まりでしかない。Amazonはこれまで、これらのばらばらな行動が、明確な物語のもとでどのように組み合わされているのかを説明しようとしたことはない。
「人々の情熱や関心は変化し続ける。ここでカギとなったのは、Amazonの全体的な方向性や、プライムがどのようにして顧客の神聖な不満に対する解決策になるのかに、しっかり目を向けることだった」と、チーバー氏は述べている。
競合の激化と逆風
しかし、Amazonがプライムの特典を増やし続けてきたのには大きな理由がある。競争だ。「プライムが開始したとき、買い物客が何を得られるのかは非常に明確だった」と、マーケットプレイスパルス(Marketplace Pulse)のCEOであるジョーザス・カジウケナス氏は語る。「プライムではあらゆる商品の配送が無制限に無料となり、当時としては新しい無二の特典だった」。しかし現在では、市場のほとんどの小売企業がこの種の特典を提供している。一方で、ウォルマート、ターゲット(Target)、ベストバイ(Best Buy)などのほかの企業は、プライムに直接狙いを定めて独自のプレミアムサブスクリプションビジネスを構築してきた。
「今日では、Amazon以外にもショッピングに使用できるプラットフォームは数多く存在し、プライムのサブスクリプションは、配送無料という利点だけでは価値を失いつつある」と、同氏は述べている。
プライムにそれ以外の特典が数多く存在する大きな理由のひとつがこれだ。しかし、ほとんどのメンバーはおそらく関連する利点の半分くらいをわかっていないだろうと、カジウケナス氏は述べている。「私自身、プライム会員として使ったことがあるのは無料配送とプライムビデオ(Prime Video)だけだ。使えるのにもかかわらず、考えたこともない特典は何十個もあるだろう」。
一方、競合他社のいくつかは少なくともAmazonの戦略を模倣しているようだ。「ウォルマートプラス(Walmart Plus)は競合を激化させつつあり、勢いを得てきている」と、インサイダーインテリジェンスのプリンシパルアナリストを務めるアンドリュー・リプスマン氏は語る。実際に、ウォルマートはパラマウントプラス(Paramount+)やYouTube Premiumなどの一連のサービスにいくつかの新しい特典を追加した。「ウォルマートはAmazonの戦略をうまく模倣した」と、リプスマン氏は述べている。
外部との競合はさておいても、Amazonは別の大きな問題、すなわち市場を制覇してしまったということだ。ある推定によれば、米国の人口の60%以上はプライム会員だ。「プライムに関心を抱いていながら、まだ加入していない家族や個人を見つけるのは困難だ」と、カジウケナス氏は語る。そのため、米国でこのようなキャンペーンを行うのは「プライムの存在自体を人々に思い出させるだけのマーケティング技法」だ。
米国において、このような種類のコマーシャルは、新規加入者を獲得する方法というより、リテンション(顧客維持)のための戦略となる。Amazonは2022年、プライムの年間会員の料金を119ドル(約1万7600円)から139ドル(約2万600円)に引き上げたため、会員の維持はますます重要となった。
しかしチーバー氏は、新規登録も依然として重視されていると語る。「新規会員を引き入れる方法について常に考えている。プライムアクセス(Prime Access)のようなプログラムを開発することで、社会経済的に多様な会員を獲得できるようになった」と、同氏は述べている。プライムアクセスは、政府からの援助を受けている人々に、プライム会員資格を割引で提供するプログラムだ。
また、Amazonは若い買い物客、特にZ世代にも注目している。実際に、キャンペーンの動画のなかには、顔の毛の悩みを抱える若い女の子が「プライムを使って口ひげを受け入れる」ストーリーが語られていると、チーバー氏は話す。「これは、TikTokで若い女の子たちが口ひげをピンクやブルーに染めていたことにヒントを得たものだ」。
「常勝の構図」
Amazonのビジネス規模を考えると、このようなキャンペーンの成功について正確な数値を設定することは難しい。多くの地域ごとのマーケティング部門が特定の動画の制作に協力したが、チーバー氏は、このキャンペーンのKPI(重要業績評価指標)は全世界で変わらないと述べる。そのKPIには、「我々のビジネスに段階的にどのような影響を与えているか」、およびAmazonに対する視聴者の認識に広告がどのように影響しているか測定することが含まれているという。
Amazonがどのように認識されているかは、この活動の重要な部分だ。多くの人々にとって、Amazonはものを買うため役立つプラットフォームと認識されている。しかし現在では、それ以上のもの、すなわちユーザーが音楽、動画、書籍など、より体験的なものにアクセスできる企業とみなされることが望まれている。
チーバー氏は、Amazonはすでにマーケティングの推進によって「ビジネスへの肯定的な影響」が見られていると語るが、実際の数値については明言を避けた。「認知の面については、Amazonがエンターテインメントのブランドであるという考え方について、非常に肯定的な影響が見られている」と、同氏は述べている。
このマーケティングの推進により、Amazon全体のビジネスモデルにとってプライムがいかに重要なのかを明らかにするものだ。Amazonには多くの異なる収益源があるものの、会員サービスが主要な柱のひとつであることに変わりはない。「プライム会員は最大の資産だ。同社の勢いを持続させているものだ」と、カジウケナス氏は述べる。
チーバー氏によると、これは何年にもわたるマーケティング・チェーンとなるもののはじまりだ。来年の第1四半期に放映されるコマーシャルの制作はすでに完了しており、チームはすでに広告の次のバージョンを検討している。
「これは、いつまでも続くモデルになる。このようなマーケティングキャンペーンは、長期的に続けることで最高の効果が得られる。ただ、人々の注目を集めるには少し時間がかかる。めざすのは、マスターカード(MasterCard)の『プライスレス(Priceless)』キャンペーンのようになることだ」と、同氏は述べている。
[原文:‘An evergreen construct’: Behind Amazon’s global Prime marketing campaign]
Cale Guthrie Weissman(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:戸田美子)
Image via Amazon