長年にわたり「政治的中立」を謳ってきたコマースプラットフォーマーが、政治的な騒動に巻き込まれている。とりわけ1月5日の合衆国議会議事堂の襲撃以降、米国のSNS企業に対し、暴力を助長するような個人や組織のアカウントを永久凍結するよう非難が殺到しているが、さらにはECサイトに対しても責任追求の声が高まっている。
長年にわたり「政治的中立」を謳ってきたコマースプラットフォーマーが、政治的な騒動に巻き込まれている。
とりわけ1月5日の合衆国議会議事堂の襲撃以降、米国のSNSプラットフォーマーに対し、暴力を助長するような個人や組織のアカウントを永久凍結するよう非難が殺到しているが、さらにはECサイトに対しても責任追求の声が高まっている。
1月7日、Shopify(ショッピファイ)はトランプ大統領に関連するふたつのオンラインストアを無期限に凍結したと発表した。このShopifyの決定の前には、Facebookがトランプ大統領のアカウントの無期限凍結、Twitterが12時間のアカウント停止を発表していた。FacebookとTwitterは、この決定について、トランプ大統領がアカウントを使い、米大統領選挙の結果が不正であると主張し、1月5日の合衆国議会議事堂の襲撃を扇動したためとしている。
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また、同週の週末には多数の企業が行動を起こしている。金曜日の夜、Twitterはトランプ氏のアカウントの永久凍結に踏み切った。さらにウォールストリート・ジャーナル(Wall Street Journal)は、1月10日にStripe(ストライプ)がトランプ氏のキャンペーンの支払い処理を停止したと報じている(これについて、本稿の発表時点でStripeからの返答は得られなかった)。
EC業界の企業たちのスタンス
今回の件は、暴力を助長したとされる個人や組織に対するSNSアカウントの凍結に、EC企業が追従したという非常に顕著な例となった。トランプ氏が大統領に選出されて以降、FacebookやTwitter、YouTubeといったSNSプラットフォームにおけるヘイトや暴力的な発言に対して、対応が不十分だという声が高まっていた。だが、こういった批判がECのマーケットプレイスやソフトウェアプロバイダーにまで及ぶことは希だった。一方、たとえばエッツィー(Etsy)が、Qアノンと関連する事業者のアカウント凍結を行った(FBIは、これを国内テロの脅威として警告している)という例がある。ほとんどのECプラットフォームで、利用規約として「サービスを使いヘイトや暴力を助長するユーザーはアカウントを凍結する」と定められている。だが、この規約通りに動かなかったからといって、SNSプラットフォームほどにまで強く批判されることは少ない。しかしShopifyの今回の行動が、変化のきっかけになる可能性はある。
同社の広報担当は米DIGIDAYの姉妹サイト、モダンリテール(Modern Retail)からの質問に対し、これまでも同社が述べてきた通り、「最近の出来事に基づき、ドナルド・トランプ大統領の行動が、目的のために暴力を助長したり脅迫したりすることを禁じている当社の利用規約に違反したと判断」し、ふたつのストアを凍結したと回答している。凍結されたふたつのストアはそれぞれトランプ氏のキャンペーンとトランプ・オーガナイゼーション(Trump Organization)によって運営されていた。
モダンリテールは、エッツィー、Amazon、マジェント(Magento)、ビッグコマース(BigCommerce)、StripeといったEC業界の企業に、トランプ氏との結びつきがあるストアや商品に対する行動を起こすか問い合わせたものの、ほとんど回答を得られなかった。
そんななか、エッツィーの広報担当者は、同社が販売業者への規約で、個人やグループに対するヘイトや暴力を助長する行為や虚偽の情報を流布することを禁じていると指摘する。政治関連の商品も、こういった規約に違反しない限り咎められることはない。実際、Shopifyはトランプ大統領や同氏のキャンペーンに関連する2ストアを凍結した一方で、トランプ氏の商品の販売そのものは禁止していない。またイーベイ(eBay)の広報担当者は、リコード(Recode)に対して「当社はヘイトや差別に対する厳格な規約」を定めており、「政治に関連性のある商品を削除することはしないが、議事堂の襲撃を肯定的に扱う商品はすべて削除している」と述べている。
「SNS企業と同じレベルの責任を」
これまでも、ヘイトや暴力、虚偽情報の流布を禁じるECプラットフォームやマーケットプレイス、決済プロバイダーのあいだでは、大手IT企業やSNSプラットフォーマーが起こした行動に追従するケースがよく見られた。たとえば、2018年8月、Appleが最初にインフォウォーズ(InfoWars)の創業者であるアレックス・ジョーンズ氏のポッドキャストを凍結すると、まもなくFacebookやYouTube、Twitterも同氏のアカウントやチャンネルの凍結を発表した。そしてそれに続き、より小規模なSNSサイトやソフトウェア企業が追従した。たとえばペイパル(PayPal)は、翌月にジョーンズ氏やインフォウォーズとの取引を停止すると発表している。
TwitterやFacebookといったSNSプラットフォームは、ユーザーが暴力やヘイトスピーチを発見しやすいという特徴がある。それゆえ、アカウント凍結を求める声がユーザー側から上がるケースが圧倒的に多い。だがチェック・マイ・アズ・アンド・スリーピング・ジャイアンツ(Check My Ads and Sleeping Giants)の共同創業者ナンディニ・ジャミ氏は、EC企業もまたSNSサイトと同基準で運営されるべきだと主張する。
モダンリテールに対し、同氏は「Shopifyも、こういった個人や組織を財政的に支援することにつながるのだから、SNSプラットフォームと同じくらい運営として責任を負うべきだ」と語っている。
ShopifyとStripeの現状
ジャミ氏は以前、トランプ氏のキャンペーンのストアがShopifyに置かれていることに対し、Twitterで批判したことがある。同氏は9月にも、米国ウィスコンシン州でデモ参加者を銃撃し殺害したカイル・リッテンハウス氏を支持するような内容のTシャツを販売した企業のストアを凍結するようツイートしている。だがこのサイトは、いまだ健在だ。
同氏は、Shopifyの利用規約自体は他社より優れていると語る(サービス利用時に禁止されている行為について各社が定めた規約)。Shopifyの利用規約には、「人種や民族、肌の色、出身国、宗教、年齢、性別、性的指向、障害、医学的状態、兵役経験をはじめとする差別的で不寛容な考え方に関連し、憎悪や暴力を助長するために本サービスを利用することを禁ずる」と書かれている。しかし同氏は、Shopifyがこの規約に沿った行動を一貫して実施していないと語る。
そしてジャミ氏は、Stripeの利用規約が他社と比べ、もっとも粗末な内容となっていると指摘する。Shopifyと異なり、Stripeの規約はヘイトを助長する企業の凍結について明確に定めていないと同氏は語る。一方、暴力行為を禁止する条項は盛り込まれており、「いかなる企業や組織も、不法な暴力または物的損害に関与、助長、称賛することを禁ずる」という条文がある。
ジャミ氏は「Stripeは、本来ならばストアを一時停止すべきケースであっても、放置して一切動いていない」と語る。
「中立を謳う時代は終わっている」
さらに同氏は、議事堂襲撃事件を受けて、ECプラットフォーマーを含むあらゆる企業が、「どこで線引きをするか」改めて考え直す必要があり、「中立を謳う時代はすでに終わっている」と主張する。
「民間企業として、どのように線引きをするのかをしっかり検討し、決定すべきだ」とジャミ氏は語り、次のように締めくくる。「本来、各社にはその権利があり、そして責任を負うべき存在なのだから」。
Anna Hensel(翻訳:SI Japan、編集:長田真)