ウォールストリート・ ジャーナル(The Wall Street Journal)は10月初旬、Amazonが実店舗の食料品店チェーンの展開を計画していると報じた。Amazonは、ロサンゼルスにある食料品小売りスペースについて複数のリース契約を結び、数カ月以内にオープンする店舗もあるかもしれないという。
Amazonの食料品店が出現しそうだ。それは、新たなホール・フーズ(Whole Foods)のようなものではない。
ウォールストリート・ ジャーナル(The Wall Street Journal:以下、WSJ)は10月初旬、Amazonが実店舗の食料品店チェーンの展開を計画しているとされる件について報じた。記事によると、Amazonは、ロサンゼルスにある食料品小売りスペースについて複数のリース契約を結び、数カ月以内にオープンする店舗もあるかもしれないという。さらに、Amazonは、カリフォルニア州外の都市にも目を向けている。
店舗について具体的な詳細はほとんどわかっていない。ただ、Amazonが所有するホール・フーズとはまったく異なるが、食料品店に分類される模様だ。WSJは、新しい立地は、食料品店を訪れる平均的な米国人買い物客をターゲットにし、ホール・フーズよりも安価な選択肢を探していそうな中所得の消費者向け商品を扱うと付け加えている。ターゲットのこうした拡大は、Amazonが、新たな市場を支配すると同時に、新しい別の顧客を呼び込もうとしていることを示している。
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Amazonにコメントを求めたが、本記事の掲載時までに回答はなかった。
Amazonの必勝アプローチ
食料品分野を検討している理由から、Amazonの小売りに対する全体的なアプローチと、ライバルと見なしている相手が窺える。Amazonは、食料品以外の商品のオンライン販売を支配してきたが、まだこの市場には完全に参入していない。同社はこの分野への進出にゆっくりと歩みを進め、実店舗型小売りへの野心も匂わせてきた。そのあいだに、ライバルは注意を払い、時代遅れになるのを避けるために防衛戦略を考え出しはじめた。状況のこうした進展は、新たな戦争がすでにはじまっていることを示している。
従来、食料品は、Amazonから逃れてきた分野のひとつだった。Amazonは、小売企業のビジネスモデルを変える帝国を密かに築くことで、オンラインでの存在感を高めてきた。Amazonの支配の結果、ライバルは適応か廃業かのどちらかを迫られてきた。だが、Amazonは食品以外の分野では傑出したリーディングカンパニーになったものの、企業が乱立する食料品業界への参入ペースは遅かった。2019年第2四半期には、Amazonの実店舗の売上高(ホール・フーズやAmazon Goを含むが、実店舗でピックアップされたオンライン購入は含まない)は、43億ドル(約4660億円)に達した。一方、ガートナーL2(Gartner L2)のデータを見ると、インスタカート(Instacart)は、Amazonやホール・フーズと比べてもっと速いペースで、米国内での配達範囲を広げてきた。
こうした動向は、「チャンスがある分野やもともと弱点だった分野をターゲットにしていることを物語っている」と、ガートナーL2のシニアプリンシパル、オウェシ・カージー氏はいう。
ホール・フーズの買収は最大の成功だったが、Amazonは、アルコール飲料の配達のようなほかの分野にも慎重に参入してきた。Amazonフレッシュ(AmazonFresh)の配達ネットワークも徐々に拡大し、8月には、配達サービスを提供する新たな3都市を発表したばかりだ。Amazonが食料品で、それも特に実店舗で成功するには、ライバルに匹敵する店舗の構築だけでなく、際立つ何かが必要だろう。
「(Amazonには)顧客のロイヤルティやエンゲージメントを伸ばす特別な力があると思う」と、シンフォニー・リテール AI(Symphony RetailAI)の最高マーケティング責任者、ケビン・スターネッカート氏は語る。「逆に、食料品業界はこれまで、顧客に合わせた個人的なインタラクションに苦闘してきた」。
強力なプライベートブランド
食料品店は、Amazonがプライベートブランド事業をさらに強化する手段にもなる。Amazonは、プライベートブランドや自社サイトに掲載されている特定商品向けの限定ブランドを構築してきたが、食料品はその戦略が実際にうまくいった業界だ。また、Amazonが業界の他社と競争できるようになるには、独自の一連の強力な商品を作らなければならない可能性がある。
食料品のプライベートブランドは、「ロイヤルティと差別化を向上させる」のに利用されることが多いと、スターネッカート氏は指摘する。ターゲット(Target)のようなほかの企業は、食料品戦略を見直しはじめ、Amazonの新しい食料品店は、同社にそうした機会をつかむための余地を与えている。
それが最低限の条件であっても、Amazonは、食料品分野に進出する際、有利な立場になれるように、プライベートブランドについてすでに備えている業界の知識を利用する可能性が高い。カージー氏は、新しいプライベートブランドに対するAmazonの取り組みのわずかな変更に気付いている。独自のブランディングを利用して、どこにでもある商品を売り出す代わりに、コラボレーションを追求しはじめたのだ。たとえば、歌手のリアーナやレディー・ガガのような、「真の価値を生み出す」人々とのコラボレーションだ。これは、「Amazonがプライベートブランドを理解していることを示唆している」と、カージー氏は話を続けた。
消費者にとっての新商品が多すぎ、小売業者が自社ブランドで注目を集めるには、「真の包括的価値を生み出す」必要があると、カージー氏はいう。同氏は、トレーダー・ジョーズ(Trader Joe’s)やコストコ(Costco)のような、ほかの食料品専門小売業者は、消費者に強く支持される独立したプライベートブランドを構築することに成功してきたと指摘した。
よりユビキタスな存在へ
正確な計画は不明なままだが、戦略はかなり明白なようだ。Amazonは、米国の家庭によりユビキタスな存在となる方法を探している。実店舗型の小売りを行うことで、消費者と関わる新しい手段を生み出すだけでなく、新たなフルフィルメントの機会も提供する。
ライバルの対応には皆が注目することになる。Amazonは、ショッピングモールや百貨店に大きな変化をもたらし、食料品店チェーンは、混乱に陥らないよう躍起になっているとみられる。ターゲットやクローガー(Kroger)、ウォルマート(Walmart)のような企業はすでに、デジタル面での競争力を維持するために、技術革新に多額の金を投資しはじめた。一方、インスタカートやフレッシュ・ダイレクト(Fresh Direct)のようなアプリやサービスは、よりユビキタスになっており、Amazonの食料品プログラムが規模を拡大すれば、形勢が不利になる立場にある。Amazonは、実店舗と小売りの両方に投資を続けているが、それ以外に焦点を絞ることになるだろう。
「人材獲得競争になる。業界の専門家と企業は、チームが優秀な人材の引き抜き対象になることを警戒する必要がある」と、スターネッカート氏は指摘した。
Cale Guthrie Weissman (原文 / 訳:ガリレオ)
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