実際にAmazonと話をしている3社の関係者によると、広告とeコマースの巨大企業であるAmazonは、広告主やパブリッシャーがAmazonの広告エコシステム内で、ユーザーをより効果的にトラッキング、測定するための識別子を開発する計画について、さまざまな企業と話し合いを重ねているという。
GoogleによるサードパーティCookieの廃止決定を機に、Amazonがより多くのビジネスを自社のDSP(デマンドサイドプラットフォーム)とパブリッシャーサービスに吸い上げようとしている。
実際にAmazonと話をしている3社の関係者によると、広告とeコマースの巨大企業であるAmazonは、広告主やパブリッシャーがAmazonの広告エコシステム内で、ユーザーをより効果的にトラッキング、測定するための識別子を開発する計画について、さまざまな企業と話し合いを重ねているという。Amazonは米DIGIDAYの取材に対し、識別子をリリースする計画があることを認めたが、具体的な時期には言及しなかった。
Amazonの識別子は、Googleが自社のオープンエクスチェンジでサポートしないと明言している、ザ・トレード・デスク(The Trade Desk)やライブランプ(LiveRamp)のユニバーサルIDとは異なる。そもそもAmazonの識別子はAmazonのエコシステム内だけで使用されるものだ。前述の情報筋によれば、バイサイドにはAmazonのDSP経由で、パブリッシャーにはAmazonのパブリッシャーサービス部門である、APS(Amazon Publisher Services)経由で提供されるという。
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想定されるソリューションの中身
Amazonとこの新たな識別子見通しについて話し合いを進めている企業の関係者は、GoogleのPPID(パブリッシャー指定の識別子:Publisher Provided Identifier)に言及し、「彼らはGoogleの『PPID』のようなものを所有、運用しようと考えている」と説明した。「識別子の独立性を維持しながら、DSPにフリークエンシー、アトリビューションといった情報を提供する形が想定される」。
Amazonがいつ何をリリースするかは不明だ。ただ2人目の情報筋は、識別子の計画が加速しているように見えると述べている。また、3人目の情報筋は、Amazonはプライバシー保護を第一に考えているようだと話している。ただ少なくとも、売上に占める広告の割合がまだ小さい同社にとって、識別子の構築は今後に向けた重要なステップであることは間違いない。Amazonの広報担当者によれば、識別子はAmazonのプライバシー規約、インタレストベース広告とオプトアウトポリシーに従って運用される予定だという。
この話が現実になれば、デジタル広告の勢力バランスがAmazonに大きく傾く可能性がある。Amazonの広告事業は、2020年から一層勢力を伸ばしており、、多くの広告主たちがサードパーティCookieの廃止後において、同社がもっとも有利な立場にあると考えている。実際、アドバタイザー・パーセプションズ(Advertiser Perceptions)が2020年に実施した調査では、AmazonがDSPの最高位を勝ち取った。
識別子の開発は、AmazonのAPS事業を強化する助けにもなる。ウォールドガーデンの外にあるインベントリー(在庫)を最大限に活用するため、Amazonは長年、この事業に力を入れてきた。マイティーハイブ(MightyHive)のコマースプラクティスディレクターを務めるニコラス・セオ氏は「APSはこれまでも、彼らの差別化要因になっていた」と話す。「Amazon独自の識別子は、これをさらに推し進めるだろう」。
新たな分断をもたらす可能性
ただAmazonのこの取り組みは、いまよりさらに分断された時代をもたらすかもしれない。本来、オープンな性質を持つ場であるはずのインターネットだが、広告主は一握りの企業が作った識別子や技術を使用することを求められる、そんな時代だ。Googleの広告担当ゼネラルマネージャー、ジェリー・ディシュラー氏は5月下旬、自社のエコシステム内で代替的な識別子をサポートする予定はないとあらためて明言している。
1人目の情報筋は「バイサイドは、いまよりさらに分断が進んだ状態で、バイイングを進めなければならない可能性がある」と予想している。
米DIGIDAYはAmazonにコメントを求めたが、幹部から回答を得ることはできなかった。この識別子は、Amazonの要件を満たすパブリッシャーのみが利用できると広報担当者は述べているが、要件の詳細は不明だ。
幸先の良いスタート
パブリッシャー指定の識別子という概念は、プライベートマーケットプレイス取引には古くから存在するが、最近、新たな役割を果たしはじめている。Googleは3月中旬、オープンプログラマティックのエコシステムでPPIDの使用をさらに促進すると発表し、パブリッシャーがオープンエクスチェンジで指定した広告主を対象に、パブリッシャー独自のIDを使用できるようにした。Googleの発表によれば、現在、この取り組みは試験段階にあるという。
しかし結局、こうしたソリューションの良し悪しは、その規模感がどれだけのものであり、バイヤーやセラーに対してどのような価値を提供できるかどうかに尽きる。そんななかAmazonは、トランザクションを明確にマッピングする能力とDSPの浸透によって、幸先の良いスタートを切ったといえる。
アドバタイザー・パーセプションズのビジネスインテリジェンス担当エグゼクティブバイスプレジデント、ローレン・フィッシャー氏は、「広告主は将来を見据え、短期的には、ターゲティングと測定の両方を担えるパートナーに目を向けるだろう」と話す。何より、「効果測定の領域に関しては、強固なエコシステム持つパートナーがますます重要になる」。
[原文:Amid post-cookie confusion, Amazon plans to launch an identifier of its own]
MAX WILLENS(翻訳:米井香織/ガリレオ、編集:村上莞)