シアトルが本社のAmazonは米国時間11月13日、ニューヨークとバージニア州アーリントンに新しい拠点を設けることを発表した。Amazonのニューヨーク進出は、急成長する広告ビジネスへの本気度を示すものであり、エージェンシーは新たな人材危機を迎えることになるかもしれない。【※本記事は、一般読者の方にもnoteにて個別販売中(480円)です!】
Amazonのニューヨーク進出は、急成長する広告ビジネスへの本気度を示すものであり、エージェンシーは新たな人材危機を迎えることになるかもしれない。
シアトルが本社のAmazonは米国時間11月13日、ニューヨークとバージニア州アーリントンに新しい拠点を設けることを発表。50億ドル(約5660億円)を投じ、2都市あわせて5万件の雇用を新たに生み出す。すでにマンハッタンには1年ほど前に新しいオフィスを開設しており、この時はニューヨークのマディソン街の近くに、広告を中心に2000人の雇用を生み出した。
今回の新しい拠点は広告に絞ったものではない。Amazonの広報担当者は、「会社の自然な成長に対処したもので、特定の事業に焦点をあわせたものではない。新しいキャンパスで働く従業員は、あらゆる事業をサポートすることになる」と語った。
Advertisement
しかし、現在30億ドル(約3396億円)の広告事業に対するAmazonの本気度はうかがえるだけでなく、同事業は現在、Amazonのどのラインよりも急成長している。
今回の開設の意味
Amazonは最近、広告事業で数多くの改善を実施しており、広告バイヤーたちの報告によると、プラットフォームの整理統合と合理化を進めている。また、11月15日には新しいエージェンシー認定プログラムを導入。このプログラムに参加するエージェンシーの従業員は、スポンサード広告の最適化、レポート作成、戦略、ターゲティングなど、特定のコースと評価を完了して、各自の能力を示すことを求められる。
いち早く「Amazon認定」のエージェンシーになったアイプロスペクト(iProspect)の米国のプレジデント、ジェレミー・コーンフェルト氏は、広告に対し「Amazonはとても真剣だ」と話す。「製品をどのように進化させているのかを我々は目の当たりにしている。予算増加の点でサポートを得ているのを知っている。最大の成長チャネルになっている」
広告を象徴するマディソン街への接近が実際に意味するところは、そこまで明確ではない。1年前に広告におけるAmazonの成長に注目が集まりはじめたとき、Amazonはエージェンシーと話す機会を増やすことに真剣に取り組んでランチミーティングを多数実施したほか、FacebookやGoogleをモデルに、エージェンシー開発グループを数百人規模に拡充した。メディアとは結局のところ人のビジネスだ。Amazonによる「サポート」が欠けていることについてバイヤーたちからの苦情が多く、Amazonはこの問題をエージェンシーへのアウトリーチプログラムを強化することで解決しようとしている。「ここにやってくるというAmazonの約束は、ある意味、興味深い」とコーンフェルト氏は語った。
エージェンシーたちの本音
データにターゲティングにアトリビューションと、Amazonにはすべての商品がそろっている。しかし、匿名でと語ったくれたエージェンシー幹部たちは、Amazonに自分たちの言葉を学んでほしいと、いまも思っている。Amazonはまだ、エージェンシーとの仕事のやり方を理解しきれていないのだという。漠然とした問題ではあるが、エージェンシー幹部らは、GoogleとFacebookがニューヨークでプレゼンスを構築した際に、人々と知り合って変わっていったことを指摘した。ここはそうしたことが起きる可能性が少しある場所なのだ。
MDCでは、傘下のデジタルパフォーマンスエージェンシーであるユニーク・インフルエンス(Unique Influence)が、Amazonの効果の新しい可能性を生み出した。MDCメディア・パートナーズ(MDC Media Partners)の最高技術責任者(CTO)であるステラ・バウトシーナ氏によると、Amazonの「メディアとマーケティングの業界への接近はイノベーションに火をつける」ものであり、小売りメディア分野のスタートアップたちがAmazonの第2本社(HQ2)発表にこれからもっと続くのを目にすることになると、同氏は考えているという。
ニューヨークの第2本社はまた、Amazonへの人材流入の増加を意味するのかもしれない。すでにこの数カ月、プログラマティックの専門家たちがAmazonのマンハッタンのオフィスに移っていると、多くの幹部が語っている。
人材は流動的なものに
コーンフェルト氏は、ニューヨークではAmazonとの「人材共有」になるとの見方を語った。同氏も米DIGIDAYが話を聞いたほかのエージェンシー幹部たちと同様に、GoogleとFacebookがニューヨークに広告チームを構築し、エージェンシー企業から引き抜いてスタッフにした時になぞらえる。
トップエージェンシーの人材を主に対象とする広告業界のリクルート企業、グレース・ブルー(Grace Blue)でプリンシパルを務めるジェイ・ヘインズ氏は、この半年間、トップエージェンシーや広告人材とキャリアについて話をする際、Amazonの話が出なかったことは1度もないと語った。「(Amazonがニューヨークに来るという)ニュースで話し合いが明確になる」と同氏。「私がエージェンシーやグループのCEOだったら、Amazonはどんな場所で働きたいと思っているのかのベンチマークに使える。だから、Amazonはプレッシャーになっていくだろう」と話す。
VMLY&Rニューヨークのエグゼクティブディレクター、ロザンナ・ジョンソン氏の見方は少し違う。「このニュースを好ましくないものと見るものは我々のなかにはいないと思う」と同氏。「ただ、人材は流動的なもので、好む体験が人それぞれなのは間違いない。人材プールの強化になる」。
また、Amazonのような話題のプラットフォームには、エージェンシーの従業員の希望の兆しがあるかもしれない。ジョンソン氏は、「向こうが我々のことを、我々のスキルセットのことをわかっていることから、新たなレベルのチャンスが開ける。我々は元従業員がいる会社とは、他にないような提携をしている」と語った。
同じVMLY&Rで人材エンゲージメントと従業員体験のエグゼクティブディレクターを務めるロニー・フェルダー氏は、これは働き方の変化に波及すると語った。「信頼性とは、かつてはひとつのところにどれだけいるのかが基本だったが、いまは、Amazonやアドビ(Adobe)の経験にはそれなりの敬意が払われる。従業員の多面化だ。Amazonのようなプラットフォームに出て行き、その後、もしかするとエージェンシーに戻ってきて価値をもたらしてくれるかもしれないというのは、悪い話ではない」と同氏。
どの職種に機会があるのか
どのような職種がエージェンシーから出て行くかもしれないのかについて、リクルーターたちは、セールス、プランニング、アカウント管理は可能性が比較的高いと語る。MDCベンチャーズ(MDC Ventures)のパートナーのジェシカ・ペルツ氏によると、Amazonは予算が増え続けており、GoogleやFacebookと比べても新しいAmazonのようなプラットフォームは、収益がさらに高い軌道を描く可能性もあることから、Amazon内のセールス担当者は成長のチャンスが「非常に大きい」と同氏はいう。「エージェンシーやメディアのスターセールス担当には、チャンスがある」。
グレース・ブルーのヘインズ氏は、「Amazonは、ブランド駆動、テクノロジー駆動、メディア駆動、高成長と、あらゆる手がかりに影響力があり、エージェンシーの人間にはものすごく好ましいブランドだ。注目の物件だ」と語った。
Shareen Pathak (原文 / 訳:ガリレオ)