4月第2週、アラバマ州ベッセマーのAmazonフルフィルメントセンターにおいて、業界の労働組合、リテール、ホールセール、デパートメントストアユニオン(RWDSU)加盟の是非を巡る郵便投票が開票され、数カ月に及ぶ推進派の努力は失敗に終わった――投票した2536人の内、票を投じたのはわずか738人だった。
4月第2週、アラバマ州ベッセマーのAmazonフルフィルメントセンターにおいて、業界の労働組合、リテール、ホールセール、デパートメントストアユニオン(RWDSU)加盟の是非を巡る郵便投票が開票され、数カ月に及ぶ推進派の努力は失敗に終わった――投票した2536人の内、票を投じたのはわずか738人だった。リテール業界の労働者にしてみれば、特定分野での組合結成/加盟の難しさが浮き彫りとなった。
昨年を通じて、RWDSUはAmazonフルフィルメントセンターの労働者に対し、長時間労働、過酷なノルマ、ほかの倉庫従業員よりも低い賃金を指摘し、団体交渉による利益を享受できるとして、団結を促していた。
RWDSUは早くも、投票結果に対する異議を全米労働関係委員会(NLRB)に申し立てている。その根拠のひとつとして挙げられているのが、投票開始直前にAmazonが郵便ポストを施設内に設置した事実であり、これは投票を常時監視していることを暗に示す不当行為にあたると、RWDSU側は主張している。ただいずれにせよ、この敗北によって、近年次々に誕生した労働者擁護団体――ターゲット・ワーカーズ・ユニオン(Target Workers United)、クルー・フォー・ア・トレーダー・ジョーズ・ユニオン(Crew for a Trader Joe’s Union)、そしてAmazonの労働者団体アマゾニアンズ・ユナイテッド(Amazonians United)など――の動きが鈍る気配は見られない。彼らは実際、たとえ会社に公認されなくとも、多種多様な戦略を用い、今後も戦い続ける旨を発表している。
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たとえば、アマゾニアンズ・ユナイテッド――Amazonフルフィルメントセンターの労働環境改善を求め、従業員が結成した非公式団体――のシカゴ支部(Chicagoland)は先の投票を受けて、この戦いは「個人から団体へという、職場意識の変容の始まり」とTwitterに投稿し、「Amazonでの労組誕生に必要なもの。それは忍耐、謙虚、闘争だ」と述べている。同様の団体、たとえばギグ・ワーカーズ・ライジング(Gig Workers Rising)も「ベッセマーでの投票結果は残念だが、これで終わりではない。むしろ始まったばかりだ」と宣言している。ただ、大局的には依然、状況は混沌としている。
リテール労働組合の現状
コロナ禍により、全米の労働者が健康リスクと労働時間削減の両問題に直面させられるなか、リテール労働者の組織化が加速した。たとえば、メイシーズ(Macy’s)やクローガー(Kroger)といったリテーラーの従業員は昨年、劣悪な労働環境に対する抗議の声を上げ、危険手当など、いくつかの要求を勝ち取った。
CUNYスクール・オブ・レイバー・アンド・アーバン・スタディーズ(CUNY School of Labor and Urban Studies)の教授ステファニー・ルース氏によれば、労働者を支援する団体は「コロナ禍が発生した昨年以降、要求/調査依頼が圧倒的に増えたと報告している」という。氏はその代表例として、coworkers.orgなど、団結を求める労働者に助言や援助を提供する団体を挙げる。
もっとも、全体として見れば、組合に保護されているリテール労働者はごく少数だ。2020年の発表によると、組合員は全リテール労働者のわずか5.1%であり、2019年の4.7%より増えたとはいえ、依然として業界の一部でしかない。しかも、そのほぼすべてをグローサリー労働者が占めている。ウェブサイトのユニオン・スタッツ(Union Stats)によれば、スーパーマーケット従業員の17%強が組合員である一方、衣料小売店は2.1%、小売薬局では1.5%となっている。
グローサリー業界の比率が極めて高い理由のひとつは、ルース氏いわく、20世紀前半に「同業界の労組は精肉業界と合併しており」、多くの組合を後者から受け継いだからだという。たとえば、ショップ&ショップ(Stop & Shop)といったグローサリーチェーンでは、労働者の大半が組合員となっている。
また、リテール労働者の組合加入率上昇は良い兆候に思えるかもしれないが、サニー・オールド・ウェストバリー(SUNY-Old Westbury)で労働問題を専門とする社会学教授ピーター・アイケラー氏の見方は違う。2020年に数千人規模が失業したが、「組合員が解雇される可能性は非常に低い」ため、結果的に、数字上は増えたように見えるだけなのではないかと指摘する。
リテール労働者の組織化が難しいのには理由がある――この業界は一般に出入りが激しく、パート従業員の多くは運動を継続できるほど長くはひとつの会社にいないからだ。たとえば、ターゲットの非公式労働者団体ターゲット・ワーカーズ・ユナイト(Target Workers Unite)を率いるアダム・ライアン氏は「1カ所に長く留まらない人が多いため、運動の基盤作りが困難」と認め、リテール業界の「仕事は基本的に不安定だ」と言い添える。
「リテール労働者の大多数が特定の職業に就き、短期間で離職する」ため、結果的に「社会学者の言う職業アイデンティティが非常に希薄になる」と、アイケラー氏も指摘する。
さらに、アイケラー氏は別の要因として、リテール労働者の多くが「サプライチェーンの末端に集中している」点を挙げ、それゆえ、たとえばストライキの影響は比較的小さくなると指摘する。「チェーンのもう少し上流、たとえば配給センターやフルフィルメントセンターの場合と違い、大した波紋は生じない」。
組合の未来
昨年、この潮流に抗う動きがいくつか見られた。たとえば、インスタカート(Instacart)の従業員10名はユナイテッド・フード・アンド・コマーシャル・ワーカーズ・ローカル1546(United Food and Commercial Workers Local 1546)への加入を認められた。当時これは、労働運動への参加を望むいわゆるギグワーカーにとっての画期的出来事だった。だが2021年1月、インスタカートはグローサリーストア従業員の大量削減の一環として、すべての非組合員を解雇した。
ただ、会社公認の労働組合が依然として少なく、コロナ禍のせいもあり、運動に弾みが付かないなか、それでも団結を求める草の根の声は消えていない。「実際、改善の実現に組合の力がどうしても必要というわけではない」と、ターゲット・ワーカーズ・ユナイトのライアン氏は、米DIGIDAYの姉妹サイト、モダンリテール(Modern Retail)に語った。「労働者一人ひとりが然るべき知識を持てれば、最善の道を個々が選択できるようになるはずであり、我々はそこを目指している」。
上述のベッセマーにおける投票中でさえ、アマゾニアンズ・ユナイテッドは――シカゴ支部を通じて――劣悪な労働環境に異を唱える抗議運動を敢行し、同団体による指導の下、従業員らが4月第2週、10時間半夜勤、通称「メガサイクル」に抗議するデモ行進を実施した。こうした運動は、労働者の団結力の高まりを示す好例だと、ライアン氏は言う。
近年、公式の労働組合に頼らない、こうした非従来型の手法を通じて、労働環境改善を求めて戦うケースが増えている。ライアン氏が率いるターゲット・ワーカーズ・ユニオンは、たとえばパワハラ上司の排除といった要求を通しており、アマゾニアンズ・ユナイテッドも「非公式組合にもかかわらず、有給休暇などの要求を勝ち取っている」という。
Amazonにおける上述の敗北が、リテール界の労働運動に水を差すことはないと、ライアン氏は断言する。それどころか、今回の投票に対する注目度の高さを考えれば、「自分たちもやってみようじゃないかと、多くの労働者が思うきっかけになった」し、さらなる運動の引き金になるのではないか、と言い添える。「あの投票で終わるとは思わない」。
そしてこれは、労働者団体への追い風の理由にほかならないと、ルース氏は指摘する。「組合結成に対する関心も、組合に対する世間の支持も、労働者の権利を擁護する声も高まっているうえ、バイデン政権は労働者保護を重視している」。
その反面、Amazonといった巨大企業が行使する圧倒的影響力がリテール労働者の団結を阻む最大の障害であることに変わりはない。現在、「大企業の力はかつてないほど強大になっている」とルース氏は言う。
[原文:Amazon’s failed union vote isn’t slowing retail worker collectives]
Michael Waters(翻訳:SI Japan、編集:長田真)