Amazonは自社広告プロダクトについて、メディア・レイティング・カウンシル(Media Rating Council、以下MRC)の監査を受ける準備を進めている。これは60年の実績を誇る非営利団体、MRCによる認定プロセスの一環であり、Amazonは1年以上前に同意していた。
謎多きデジタルプラットフォームとして知られるAmazonが、ついに自社アドテクシステムの覆いに穴を開ける。
Amazonは自社広告プロダクトについて、メディア・レイティング・カウンシル(Media Rating Council、以下MRC)の監査を受ける準備を進めている。これは60年の実績を誇る非営利団体、MRCによる認定プロセスの一環であり、Amazonは1年以上前に同意していた。MRCはまず、スポンサードプロダクト(Sponsored Product)広告の効果測定法を調べ、続いて広告主がAmazon内外のプログラマティックな広告購入に利用するデマンドサイドプラットフォーム(DSP)もチェックする。
「我々は今回の監査に関してMRCと合意を結んでおり、MRCに全面的に協力する。間もなくスポンサードプロダクトの監査を始め、Amazon DSPがそれに続くことになる」と、Amazonの広報は今回、米DIGIDAYの取材に応じて語った。MRC(メディア企業によるディスプレイ/動画広告インプレッションやビューアビリティメトリクスなどの測定法に適格性認定を与える非営利団体)は、数週間の内に監査を開始すると発表している。上述のとおり、AmazonはMRC監査について1年以上前に同意していた。
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この監査はAmazonに相応の対価を強いることになる。Amazonが4月に掲載した求人広告によれば、同社はデータ分析、IT、ソフトウェア、デジタル広告/効果測定に関するスキルを持ち、MRC適格性認定プログラムに精通するコンプライアンスマネージャーを採用する。加えて、現在MRC監査を受けている他企業と同じく、監査の費用も全額、同社が負担することになる。その金額は、概算についてもMRCは公表しないとしている。
Amazonはなぜ、監査を受け入れたか?
Amazonはおそらく、新規広告主を引き寄せる手段として、今回に限り、喜んで外部団体の監査を受けることにしたのではないかと分析するのは、広告主に代わってAmazonやFacebookをはじめとするプラットフォームでメディアバイを手がけるエージェンシー、ティヌイティ(Tinuiti)のチーフクライアントオフィサー、クレイグ・アトキンソン氏だ。「Amazonにしてみれば、現在の機会というよりもむしろ、今後のそれを見据えたものだろう」。
実際、現在Amazonの広告枠を購入している広告主の大半は、同社のeコマースプラットフォームで自社製品の販売もしている。それゆえ、それらの広告が売上に転化したのか否か、コンバージョンを直接確認できるため、他メディアでも利用される標準的方法でキャンペーンの効果測定を必ずしも行うわけではない。ただし、AmazonはDSPを通じて自動車メーカーといった広告主にAmazon.com以外のメディアを販売しており、いまや競争の場は移行していると、アトキンソン氏は指摘する。Amazonとしてはしたがって、そうしたブランドに対し、ほかの従来型デジタル広告環境およびメディアで馴染みのある、標準的な認定済メトリクスを提供したい、との思いをより強めているという。
「自動車の購入に積極的な人がいれば、Amazonはおそらく、それを誰よりも早く伝えられる」とアトキンソン氏は語る。そしてその場合、自動車メーカーは「[それを示す]質の高い合図を求める」ことになると、氏は言い添える。
MRC認定のAmazon効果測定法は、広告主には価値あるものであり、それが業界で一般に利用されているほかの標準メトリクスと合致するものであれば、なおさらだと、フルサービスeコマース/Amazonマーケティングエージェンシー、ニュアンスト・メディア(Nuanced Media)CEOのライアン・フラナガン氏は指摘する。「MRC認定はさらなる透明性を構築し、プラットフォームの信頼度を高めてくれる。広告を打つ際、ブランドは当然、対価に見合うものを確実に得たいと考える。したがって、ブランドによりいっそうの安心感を与えるものは何であれ、プラットフォームへの信頼感の付与という点で、極めて効果的に機能する」。
監査に対する一般的抵抗感
Amazonは2020年前半、MRC監査に同意した。しかし、監査にはそれ相応の透明性が不可欠であり、同社はそこを非常に警戒していた可能性があると、MRCのジョージ・アイヴィー氏は4月、米DIGIDAYに語った。「その点において、Amazonは例外的といえる。ほかのプラットフォームほど、広告に依存してはいないからだ」とアイヴィー氏。「我々の監査には、完全開示が求められる」。
とはいえ、Amazonの事業における広告割合は拡大を続けている。調査会社eマーケターによれば、米デジタル広告市場における同社のシェアは2020年に初めて10%を越えた。実際、Amazonは最新の決算報告で、2021年第1四半期における北米および海外市場における広告収入のさらなる成長を発表している。
今回のMRC監査ではたとえば、テックデザインやデータ収集、データプロセッシングなどが対象となる。MRCのメンバーには、ベテランの放送業界大物や若手メディア業界人に加え、メディア/広告の効果測定に関する基準/監督に関心を寄せる広告業界の有力ブランドやエージェンシー(米ビール大手アンハイザー・ブッシュ[Anheuser-Busch]や全米広告主協会[Association of National Advertisers]、DSPのザ・トレード・デスク[The Trade Desk]など)が名を連ねている。
デジタルプラットフォームを含め、多くの企業がMRC監査に必要とされるテクノロジーおよびデータの開示に消極的なのだが、その背景には知的財産、データセキュリティおよびプライバシーを保護したいとの強い思いが、あるいはそれが競合他社の手に渡ってしまうのではないかとの懸念が存在すると、アイヴィー氏は指摘する。「開示のレベルに関し、そうしたプラットフォームは多大な懸念を抱いている」が、認定が欲しいのであれば、MRCが要求する情報提供は必須だと、氏は言い添える。
AmazonのMRC認定コンプライアンスマネージャーの職務が求人広告どおりであるなら、同社がこのリスク管理に本腰を入れて取りかかろうとしているのは間違いない。職務には「コンプライアンス要件の重要姓を見極め」、監査結果と勧告の優先順位を決め、複数の利害関係者(おそらくは、社内およびMRC内部の双方)を取りまとめ、「MRCコンプライアンス要件の推進に向けた適切なソリューションに対する合意を得る」ことも含まれると、求人広告には記載されている。
[原文:Amazon will finally open its ads products and DSP to audit by Media Rating Council]
KATE KAYE(翻訳:SI Japan、編集:長田真)
Illustration by IVY LIU