Amazonは2019年3月4日、ベンダーへの発注書発行の半数以上を停止した。その後、同社はこの決定を撤回したが、この行為は、Amazonへの依存を減らすことで自社のビジネスを守る方法を考えている販売者(セラー)に対する目覚ましのベルになった。
Amazonは2019年3月4日、ベンダーへの発注書発行の半数以上を停止した。その後、同社はこの決定を撤回したが、この行為は、Amazonへの依存を減らすことで自社のビジネスを守る方法を考えている販売者(セラー)に対する目覚ましのベルになった。
Amazonの卸売りビジネスであるベンダーセントラル(Vendor Central)上にいる数万のベンダーへの発注書発行を停止すると突然決定したあと、3月9日にAmazonは各ベンダーに対してもう1通の電子メールを送った。受け取ったベンダーから米DIGIDAYが入手した電子メールのなかでAmazonは、発注は「一時停止」しただけで、再開するとしていた。
ブランド登録の落とし穴
さらに重要なのは、このメールが各ベンダーにAmazonの「ブランドレジストリー(Brand Registry)」へのサインアップを促していることだ。ブランドレジストリーは、ブランドオーナーやライセンス保有者が、ブランド製品の正規販売者である証拠を提出するプログラムで、正規販売者に対してAmazon上で非正規業者からの保護を与えるものだ。なお、電子メールを受け取ったこのベンダーは、ブランドオーナーではない。
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ここに落とし穴がある。Amazonの自動発注書発行を利用できるのは、ブランドレジストリーに登録したベンダーだけなのだ。ベンダーには60日の登録猶予期間が与えられている。ブランドオーナーでないベンダーは、セラーセントラル(Seller Central)に振り向けられる。セラーセントラルは、Amazonのサードパーティマーケットプレイスで顧客に直接製品を販売できる場だ(下の電子メール全文を参照してほしい)。
ブランドレジストリーを強調することは、Amazonのベンダーセントラルからの締め出しが、Amazonにとって管理することが利益につながらないだけでなく、場合によっては、偽物や承認されていないブランド製品を販売するなど、品質の低さの問題をもつベンダーを排除するための動きだったことを示唆する。リテールデータ解析企業、マーケットプレイス・パルス(Marketplace Pulse)の最高経営責任者(CEO)を務めるユオザス・カジュケナス氏によると、Amazonは、顧客の購入体験を損ない、ブランドのポジショニングを傷つけ、維持するのに企業の貴重なリソースを犠牲にし、サードパーティセラーよりも収益性が低いベンダーを取り除いているのだという。
リテールおよびeコマースエージェンシー、コマース・カナル(Commerce Canal)の最高経営責任者(CEO)、ライアン・クレイバー氏は次のように語る。「Amazonは、直接購入しているアカウントの数を整理したがっている。Amazonでのベンダーアカウントの設定は、以前は容易にできて、ベンダーセントラルではブランドを承認する必要がなかった。今後は、Amazon側でのより分けが進み、ベンダーに対してマーケットプレイスをさらに押しつけてくる行為が続くだろう」。
「プロジェクトゼロ」計画
ブランドレジストリーに登録したベンダーは、「プロジェクトゼロ(Project Zero)」計画を含む、Amazonの新しい模造品対策にアクセスできるようになる。プロジェクトゼロは、模造されたロゴや商標を検索し、登録した各ブランドが偽または非正規の販売業者を自力で排除するための、自動化されたブランド保護システムだ。さらに、ブランドの信頼に加え、顧客体験の向上に役立つプレミアムなコンテンツ製品を使って、機能を強化した製品ページやブランド付きストアフロントを構築することも可能だ。登録するには、各ブランドは政府登録の商標番号を提出する必要がある。
マークル(Merkle)でAmazonおよびeリテール担当シニアディレクターを務めるトッド・ボウマン氏は、次のように語る。「Amazonはここからブランドレジストリーのリソースへの投資を進めていくだろう。ベンダーへの要求としてこれを位置づけているからだ。Amazonは、保有するリテールプロセスを合理化したがっている。そうするためには、誰が、どんな製品を、どこで売っているかを取り締まり、ブランドが自身で主張する通りの存在であることを保証しようとしている。どちらも信頼性と合理化のための取り組みで、収益性をあげることにつながるだろう」。
Amazonは本質的に、自社の弾み車を微調整し続けていて、力業より強力な自動化を使って、模造品からの保護やインベントリー(在庫)率を増加させる統合セラーシステムの実現を推進している。全ベンダーに対して自身のブランドを登録するよう要求することで、Amazonは、すべてのベンダーがその製品の正規販売者であると知ることができる。各ブランドは、Amazonを経由することなく非正規販売業者や模造品の売り手を押さえ込む能力を手に入れるので、偽物や信頼できない製品がサイトに出ることは制限される。Amazonはサードパーティのマーケットプレイスで「フルフィルドバイAmazon(Fulfilled by Amazon:以下、FBA)」計画も発表している。FBA計画には、製品が倉庫から速やかに移動していることを保証するインベントリーパフォーマンス指標が含まれている。Amazonは2018年10月、価格やAmazonプライム(Amazon Prime)の資格、在庫率のような指標をめぐって、製品のリスティングやパフォーマンスを維持していることを保証するために、サードパーティの販売業者が従わなければならない「ブランドの健全性(brand health)」指標を導入した。
脱Amazon依存の動き
しかし、Amazonの小売ビジネスは、アリババ(Alibaba)のマーケットプレイスに似た無干渉モデルへと進んでいっているため、ベンダーもセラーもほかの場所での成長に目を向けはじめている。米国内のすべてのeコマースでの購入の半分をAmazonが占めている一方で、多様性も避けては通れないものになっている。どこかひとつのプラットフォームに依存してビジネスを展開することは危険で、Amazonはつい先頃、数百万ドルの売り上げをもつ企業さえ一撃で活動不能にできることを示したばかりだ。
ケトジェニックダイエット向きクッキーのブランド、ファット・スナックス(Fat Snax)の最高マーケティング責任者(CEO)であるブライアン・ヘマート氏は、「どのチャンネルを使うにしても、依存しすぎないよう本当に注意している。ほんのひとつの変更で、そこで販売している企業が滅びてしまうことがあり、Amazonは、ほかのチャンネルより素早く、不透明なやり方でその決断を下せる」と述べた。ファット・スナックスは、ビジネスの半分以上をAmazonのサードパーティマーケットで行っている。「Amazonはeコマース空間で多くの部分を占めているので、簡単にそれに依存してしまう」と、ヘマート氏は語る。
ファット・スナックスは現在、マーケティングにより多くの予算を使い、自社の直販サイトへ顧客を誘導している。背景事情を説明するあるベンダーは、すべてのビジネスをAmazonから引き上げたいが、他の場所で販売を増やし、Amazonのバスケットからいくつかの卵を取り出す努力をするつもりだ、と話した。
「この状況では多様性は本当に重要だ。ブランドにとって、ひとつのチャンネルに頼ることは、レバーが切り替わった途端にビジネスの失敗につながる。そしてAmazonは、本当にあっという間に変化を起こせることを示した」と、マークルのボウマン氏は語った。
Amazonからの電子メール
Amazonがベンダーに送った電子メールの全文は以下のとおりだ。
各位
このメールは、一時停止になっていた御社アカウントの発注を再開したことをお知らせするためのものです。ご不便をおかけしましたことをお詫び致します。
御社にはまだブランドレジストリーへのご登録をいただいておりません。弊社はブランドオーナー様から製品を直接ご提供いただきたいと考えておりますので、ブランドレジストリーへのご登録は、ベンダー各社が前進するために重要になるでしょう。
ブランドレジストリーにご登録いただくことで、弊社のシステムは、必要に応じて御社のブランド製品への発注書発行を自動化できるようになります。これは新しいシステムですので、ブランドレジストリーへの登録猶予期間として今後60日間は御社のベンダーアカウントからの注文受付を継続いたします。
ブランドオーナー様はこちらよりブランドレジストリーにお申し込みいただけます。
ブランドオーナー様でない方には、セラーセントラルを経由して弊社ストア内で顧客に直接製品を販売することをご検討いただきますようお願いします。セラーセントラルのアカウントをまだお持ちでない場合は、こちらからご登録ください。
ご不明点は、ベンダーセントラルを通じてベンダーサポートにお問い合わせください。
Amazonベンダーセントラル
Hilary Milnes(原文 / 訳:ガリレオ)