Amazonが何よりも気に掛けているのは顧客のことだ。従来型の小売業者と違ってAmazonは、リーチによって支配力を得ている。つまり、Amazonがセラー戦略を決定する。Amazonのせいでどれほど苦労しようと、セラーはほかで事業を行わない。少なくとも、Amazonを通じてまだ利益を上げている限りは。
「Amazon’s Choice」に選ばれるのは最高の喜びだが、それは、いつ危機的状況に陥るかわからないという脅威に包まれる状態でもある。
ケトジェニックダイエット向きの低炭水化物スナックを販売するブランド、ファット・スナックス(Fat Snax)にとって、「Amazon’s Choice」に選ばれるということは、Amazonの利用客が「keto cookies(ケトジェニックダイエット向きクッキー)」を検索するときに、広告費不要で検索結果のトップに表示されることを意味する。
ファット・スナックスは、ブランドを立ち上げてから約半年後の2017年に、Amazonで販売を開始した。それ以来、サードパーティのセラーとして100万ドル(約1.1億円)以上の売り上げを達成し、商品レビューは2000件を超えた。胸が躍るような急成長だったが、最高マーケティング責任者のブライアン・ヘンマート氏は警戒している。
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「Amazonはあまりにも急速に成長してきたので、我々は、成長中のほかのビジネスチャネルに注意を払うことができなかった。だがその後、それがどれほど依存性を持ちうるのかに気づいた。我々はAmazon’s Choiceに選ばれたブランドだが、その状況が変わったら、あるいは、我々の力の及ばないことのためにリストから外されたら、どうなるのだろうか? 完全に台無しになりうる。それが怖い。SEOランクが下がるだけでなく、顧客のメールアドレスリストがないので、そうした顧客を再び活性化することができず、顧客が離れてしまう」と、ヘンマート氏は語る。
Amazonのサードパーティセラーは100万を超える。ファット・スナックスは、そのひとつにすぎない。そうしたサードパーティセラーは、Amazonの総売上高の50%超を占めている。ほとんどは小規模企業で、Amazonによって困った状況に陥っているところも多い。セラーサービスおよび顧客データ、洞察の不足や、連絡なしで方針転換する傾向などの問題はあるが、Amazonのリーチに比肩するマーケットプレイスは存在しない。
Amazonが何よりも気に掛けているのは顧客のことだ。従来型の小売業者と違って、Amazonは、同社が誘うことができるブランドやセラーに関して競争してはいない。リーチによって支配力を得ている。つまり、Amazonがセラー戦略を決定する。Amazonのせいでどれほど苦労しようと、セラーはほかで事業を行わない。少なくとも、Amazonを通じてまだ利益を上げている限りは(Amazonは、サードパーティから15%の販売手数料を受け取っているが、「Fulfilled by Amazon」プログラムを通じて出荷される場合は、それが30%に跳ね上がる)。実際、いちばん確実な戦略は、もっと投資することだ。
Amazonで商品を販売する各社が集まった「Amazon セラーズ・グループ」(Amazon Sellers Group)の創設者であるエド・ローゼンバーグ氏は、「これは諸刃の剣だ」と語る。
Amazonの考え方
缶入りのラテや冷えたビールを販売するライズ・ブリューイング(Rise Brewing Co.)のチームは現在、Amazonでの事業構築に投資しつつある。そのうちにもっと大きな見返りがあることを期待してのことだ。
ライズ・ブリューイングは、ジェット・ドットコム(Jet.com)やスライブ・マーケット(Thrive Market)のようなほかのオンラインサイトやそのeコマースサイトと卸売契約を結んで提携しているが、事業の大部分はAmazonが占める(卸売ではなく、サードパーティへの販売を通じてのことだ。ただし、それがその規模は明らかにされていない)。
ライズ・ブリューイングの財務および特殊製品担当シニアマネージャーであるライアン・ウィリアムズ氏はこう語る。「あまり期待せずにAmazonで販売をはじめた。そういうチャネルを持つのもいいと思ってのことだ。だが、軌道に乗り、事業に多くを投入すればするほど、多くのものが得られた。AmazonのCEOであるジェフ・ベゾス氏は、顧客第一だと語り、セラーからもそのように見える。顧客はセラーより上位にある。セラーが満足しているかどうかは、Amazonは気にしない。顧客が満足しているかどうかについて、Amazonは気に掛けている。そこで、我々もそういう考え方を身につけてきた」。
ライズ・ブリューイングは、Amazonのサービスを全部利用すれば報われると確信している。売上高が徐々に増えるにつれて、Amazonから提供されるようになった機能を利用しながら、Amazonでのビジネスを拡大してきた。
Amazonからクリック単価の広告と有料検索広告を購入し、動画や画像のカルーセルのような製品ページ機能を利用している。顧客サービスを向上する目的で、(Amazonが代行する)出荷のたびに、何か問題があった場合のライズ・ブリューイングへの連絡方法に関するメモを同梱している。
だが、Amazonの顧客に関する洞察はまったくない。Amazonがそのデータを自社に有利なように利用していることを考えると特に、それが不満だ、とウィリアムズ氏はいう。つまり、リターゲティングを行ったり、アップセルの機会を逃しているわけだ。
それでも、ライズ・ブリューイングはAmazonから利益を得てきた。同ブランドは2018年、Amazonによる国際配送を推進する予備トライアルの対象となった。このサービスの促進を助ける米国初のアカウントマネージャーに、Amazonによって指定されたのだ。次は、ホールフーズ(Whole Foods)とAmazon Goに狙いを付けている。
「この分野では、賢明な者なら、成功できるブランドを立ち上げ、それらの店舗のひとつに収まることができる。買い手の姿勢に基づいて決定を下す従来型の量販小売業者とは違う。Amazonには非常に多くのデータがあり、ホールフーズなどでの小売の可能性について、最終的に決定に影響を及ぼさないわけがない。それが、我々の動機付けとなる要因だ」と、ウィリアムズ氏は語る。
問題は、それが根拠に欠けるということだと、ウィリアムズ氏はいう。Amazonが最終的に決定することが顧客と企業にとって最善だと、セラーの立場ではわからないので、Amazonが全権力を握ることになる。たとえば、Amazon Goはプライベートラベルのブランドだけを揃える可能性がある。そう考えると恐ろしいと、ウィリアムズ氏は語る。
Amazonの元事業開発担当マネージャーで、その後、Amazon専門のコンサルタント企業ヒンジ(Hinge)を創設したフレッド・キリングズワース氏は、こう問いかける。「Amazonは毎年、セラーに仕事を負担させるような変更を行っている。サードパーティのセラーとしては、常に一歩先を読んでいなければならない。こうした変更は自分にとって何を意味するのか? どう競争するのか? と」。
そうした変更のなかには、将来実現しそうな「ワン・ベンダー(One Vendor)」マーケットプレイスも含まれる。卸売とサードパーティ間で選択できるというオプションをなくすというものだ。
「Amazonがどういうコミュニケーションをとるかを知ったうえで、また、小さな変化によって多額の金が流れて、企業の浮き沈みにつながる可能性があることを知ったうえで、こうしたことを考えておなければならない」。
Amazon離れは至難の業
Amazonのルールによってブランドの生死が決まることを、すべてのセラーが望んでいるわけではない。だが、完全なAmazon離れは難しい。
ファット・スナックスは、直販事業の構築と店舗内小売りでの提携関係締結に力を注いできたが、Amazonはそうした販売にも関与している。ファット・スナックスの直販はすべて、Amazonのマルチチャネルのフルフィルメント・プログラムを通じて、2日以内に配達するためにAmazonによって出荷されているのだ。
「我々のAmazonでの事業は消滅しようとしているわけではないが、多様化して自社の顧客に全力を注げるようにする必要がある」と、ヘンマート氏はいう。
Amazonとの関係が最悪の状態になっても、セラーが逃げだすことはない。あるセラーは11月15日に、危険物関係の違反行為が理由で、ホリデーシーズンに自分の商品すべてが販売されなくなると知った。Amazonはそれ以上の背景情報を明らかにしなかった(コメントを求めたが回答はなかった)。
この事業主は、「悪夢だ。ホリデーシーズン用の在庫をすべて出荷した後でそういう通知が来た。1年でいちばんの繁忙期に、取引がダメになった」と語った。「これはレッスンみたいなものだが、償還請求はできない。手を引くこともできない。こういうことが再び起こらないことを祈る以外に、取るべき道はない」。Amazonは、同社の取引の50%を占めているという。
ただしAmazonが、完全な支配に至ったわけではない。Amazonは、まだ食い込んでいないファッションのようなほかの分野では、印象が薄い。小売価格が200~400ドルのバッグを販売しているアクセサリーブランド、カーラ(Caraa)のCEOを務めるアーロン・ルオ氏は、Amazonではファッションの発見がないので、あまり魅力的な場ではないと述べた。
「基本的には理にかなっているが、特別な高級品を扱う小売業者からすれば、Amazonには顧客がいないので、全力を注ぐ必要がない」と、ルオ氏はいう。
だが、すでに全力投球している企業にとっては、今後どんな変化が起きようと、逃げ道がない。危険物関係の違反行為があった前述のセラーは、ホリデーシーズンに悲惨な出来事があったにもかかわらず、すぐにAmazonを離れるつもりはないと語る。
「ほかで事業を行うのは実際的ではない。Amazonのシェアは大きく、拡大する一方だ。常にほかのチャネルに投資し、多様化を心がけているが、短期的にも長期的にも、Amazonがこのパズルの一部でない状況を想像することができない」と、このセラーは語る。「重荷になっているのは確かだ。どうすれば、この問題についてもっと賢明になれるのだろうか?」。
Hilary Milnes(原文 / 訳:ガリレオ)