Amazonが実店舗の美容室、Amazon Salonをロンドンに開店する。現場を仕切るのは、長年美容室を営んできたベテラン、エレナ・ラヴェニ氏だ。なお、当面のあいだAmazon Salonを予約、利用できるのはAmazonの従業員だけだが「数週間後には一般に開放する」という。
Amazon Salonのオープンは、壮大な構想を暗示している。
Amazonが、実店舗の美容室Amazon Salonをロンドンに開店する。現場を仕切るのは、長年美容室を営んできたベテラン、エレナ・ラヴェニ氏で、同氏は新規採用した美容師たちを取りまとめる。なお、当面のあいだAmazon Salonを予約、利用できるのはAmazonの従業員だけだが「数週間後には一般に開放する」という。
Amazonはこれは「あくまでも実験」であり「支店を展開する計画は、いまのところない」と発表している。当面、利用客は全員に手渡されるAmazon Fire Tabletでプライムビデオ(Prime Video)を観たり、オンラインショッピングを楽しんだりできるという。「店内での経験がすべて、Amazonに有益なものとなるよう設計されている」と、eコマースに特化したコンサルティング企業クォンティファイド(Kwontified)のマネージングパートナー、エレイン・クウォン氏は述べる。また、同美容室はAR技術も取り入れており、利用客は施術前にカットやカラーリングの仕上がりを画面上で確認できるという。
Advertisement
Amazonと美容室という組み合わせに、意外性を感じる人は多いだろう。しかし実のところ、同社は数年前から美容業界に着実に進出しており、ヘアケア企業だけでなく、美容師をはじめとする業界のプロフェッショナルに向けたプラットフォーム構築も、粛々と進めている。そして、そうした企業とプロたちこそが、Amazon Salonの主な受益者となる。それを踏まえると、今回の取り組みの背景にあるAmazonの狙いは、カットやカラーリングによる収益獲得ではなく、プロ向けの美容製品や美容技術を提供する企業として、自らの信頼性を高めることにあると考えられる。
「おそらく、ヘアサロンは出発点に過ぎない」とクウォン氏も断言する。
B2B卸売事業に「本腰」の構え
Amazonのヘアケア分野進出は、これがはじめてのことではない。同社は2019年、美容師に向けて顧客販売用のヘア/スキンケア商品を卸売価格で提供するAmazon Professional Beauty Storeを立ち上げており、この事業こそが、Amazon Salonの核となる。
Amazon Salonは、顧客が髪のカットやカラーリング、セットといった施術を受ける場を担うと同時に、eコマースと緊密に結びついている。つまり、Amazon Professional Beauty Storeで商品購入を考えている近隣の美容師にとって、Amazon Salonはいうなれば「フルフィルメントハブ」となるのだ。同社は実際、注文可能な商品数に最小ロットを設けず、迅速な発送を提供する旨を発表している。
クウォン氏いわく、これらの取り組みは、Amazonの「B2B卸売事業を強化したい」という強い意志と、同社が美容分野に可能性を感じていることの証だという。というのも、「Amazonが展開するB2B卸売事業は、同社のビジネス全体においては、まださほど大きくない」と氏は指摘する。いま現在、AmazonにおけるB2B卸売事業の大半は、Amazon Business(アマゾン・ビジネス)という法人・個人事業主向けのeコマースソリューションを介したものだが、「多くの企業はこのサービスを利用せず、個人アカウントとしてAmazonの利用を続けているのが現状だ」という。
「今回のAmazon Salonの立ち上げは、我々はB2B卸売事業に本気であり、本腰を入れて取り組んでいく、というAmazonの宣言だ」とクウォン氏は続ける。同氏はこれまで、Amazonの美容業界における取り組みを追ってきたが、「なるほど、これは本気だと思ったのはこれがはじめてだ。AmazonがB2B卸売事業を、社内における重要な部門に成長させたがっていることは間違いない」と述べる。
米金融サービス企業ジェフリーズ(Jefferies)のエクイティアナリスト、ステファニー・ウィシンク氏も、2021年4月第4週に発表された報告書において、Amazon SalonをAmazonによるB2B卸売事業推進の延長線上にあるものと位置づけており、Amazonは美容室という空間のなかで、さまざまなカテゴリーに「手を広げていこうとしている」と書いている。美容室業界では、施術と抱き合わせで販売される商品の売上が収益全体の20%を占めており、Amazonの実店舗が収益性の高い市場になる可能性は高い。
壮大なビジネス構想
とはいえ、Amazonが美容室をB2B卸事業のマーケティングアウトレットとして利用していくのか、それともヘアケアなど、一般顧客へのサービス提供に特化した場にするのかは、現段階では定かではない。ただ少なくとも、ヘアケアといったサービス提供が、人々を集めるための手段だとAmazonが認識していることは確かだと、クウォン氏はいう。「人々を物理的に呼び込むには、それなりの価値が不可欠だという点にAmazonは気付いている」。
しかし同氏は、「Amazon Salonが興味本位で足を運ぶ、1回限りの利用客を惹きつける店になるのか、地元民の行きつけになるのかはわからない」と述べる。というのも、Amazonがこれまで展開してきたコンセプトストアのいくつかを見ると、短期的な取り組みに止まっている例も見られるからだ。
無人コンビニのAmazon Go(アマゾン・ゴー)は現在、食品を手早く購入できる場として近隣会社員のあいだで人気を博している。しかし、AmazonのWebサイトにおける人気商品のみを扱う、Amazon 4-Star Storeは、シアトルにおける、たたの観光スポットになっている。こうしたコンセプトストアに関してAmazonは、現状では様子見的な姿勢を一貫しているように思えると、同氏は述べる。「たとえばAmazon Goについては、立ち上げ当初、Amazonに格別大きな計画はなかったのではないか」。
また、美容室専門のコンサルティング企業、ユーリスコ(Eurisko)の代表を務めるレオン・アレクサンダー氏は、Amazon Salonの立ち上げには、Amazonの壮大な構想が透けて見えると強調する。その根拠として同氏は、米DIGIDAYの姉妹メディア、モダンリテール(Modern Retail)の取材で、Amazonが書店チェーン、Amazon Booksの立ち上げについて、以下のように述べている。「Amazon Booksは実験的なもので、複数店舗展開は考えていない、と彼らはいっていた」。しかしいまや、Amazon Booksは10以上の支店を構えている。Amazon Salonに関しても、同様に拡大していく可能性があるというのが同氏の見立てだ。
「Amazonは、Amazon Salonに対し、もしも成功すれば、おそらくすると思われるが、業界の形勢を一変させる可能性を感じているのだろう。彼らがテストを進める理由はそれしかない」。
また、もしAmazon Salonが、ロンドンをはじめヨーロッパで人気を博した暁には、同社は複数店舗の展開を進めると同時に、美容室ブランド製品の販売も開始する可能性があると、同氏は指摘する。「うまくいけば、ニューヨークやシアトル、シカゴといった米国の重要都市でも店舗を構える可能性もある」。
[原文:Amazon Salon hints at the e-commerce giant’s B-to-B ambitions]
(翻訳:SI Japan、編集:村上莞)