三菱自動車の新型車が、Amazon Liveで発表された。今回の発表は、Amazonのライブコマースプラットフォーム、Amazon Liveで実施された取り組みのなかで、最大級のイベントとなった。
三菱自動車の新型車が、Amazon Liveで発表された。
今回の発表は、Amazonのライブコマースプラットフォーム、Amazon Liveで実施された取り組みのなかで、最大級のイベントとなった。2019年初頭の発売から1年ほど大した反響もなかったAmazon Liveだが、ここにきてインフルエンサーとの提携をすすめるとともに、プライムデーには俳優のガブリエル・ユニオン氏や、ジェシカ・アルバ氏らを登場させるなど、積極的な姿勢が目立っている。
これまでもライブコマースは、米国のeコマース界隈でトレンドになるといわれてきた。そしてついに、テックジャイアントの一角であるAmazonが、この分野に力を入れはじめた。一方TikTokやインスタグラム、Facebookも、ライブコマース機能を追加して積極投資を行っている。そんななか、Amazon Liveで行われた三菱自動車のイベントは、今後の米ライブコマース市場の可能性を示す事例といえるだろう。これを機にAmazon Liveは、あらゆるライブイベントや商品のリリースが集う、ハブ的な存在となる可能性がある。
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「Amazon Liveで、三菱自動車ほどの大手企業が発表を行ったのは、今回がはじめてといっていい。これを機に、Amazon Liveを利用する後続ブランドが現れるのではないか」。こう語るのは、インフルエンサーマーケティングエージェンシーのスタックインフルエンス(Stack Influence)の共同創業者で、自身もAmazon Liveのインフルエンサーを担当した経験のある、ウィリアム・ガスナー氏だ。
Amazon Liveだけじゃない
そもそもAmazon Liveは、Amazonがライブコマース/ライブストリーミング市場を制するための、唯一のツールではない。
たとえば2017年以来、同社はサッカーのプレミア・リーグ(Premier League)や全米オープンテニス、NFLのサーズデイ・ナイト・フットボール(Thursday Night Football)をはじめ、各国の主要スポーツリーグと契約を締結。プライムビデオ(Prime Video)でこれらスポーツリーグのライブ配信を行ってきており、今後もこの方向性を推し進めていくようだ。
また、プロトコル(Protocol)が2020年夏に報じたように、Amazonはライブ配信のための人材を雇用するなど、24時間配信型のプライムビデオ番組を強化する取り組みを続けている。さらに、同社が保有するTwitch(ツイッチ)への展開をテストするブランドも増加中だ。そのなかには、三菱自動車以外の自動車ブランドも含まれている。たとえば2021年1月にはレクサス(Lexus)が、Twitchの配信で新型車の宣伝を行っている。
テレビ関連のリサーチを行うTVREVの共同創業者、アラン・ウォーク氏は「三菱自動車のAmazon Liveでの発表は、コロナ禍がなければ実現しなかったのではないか」と指摘する。「三菱自動車のような企業にとって、この時節に、人を集めて行う大規模な発表イベントは考え難い」。
一方で、キャデラック(Cadillac)をはじめ、自社のWebサイトで新型車の発表を行うメーカーは少なくない。しかしAmazonの莫大なオーディエンス数、そして「かつてないほどに、Amazonの利用者が増えている」状況を考えると、Amazon Liveでの発表は十分検討に値するだろう。
視聴から購入へのシームレスさ
また、Amazon Liveでの製品発売は、コロナ禍の終息後も続く可能性が高いと、ウォーク氏は指摘。それゆえAmazonでライブ配信を行うことは、Amazonにとっても、スポーツリーグのスポンサーブランドにとってもメリットがあるといい添える。その根拠のひとつは、Amazonではテレビ局とは比べ物にならないほど簡単に、イベントの関連商品のを購入できる点がある。
Amazon自身も、主要スポーツリーグに対してこのメリットをアピールしている。ウォーク氏は、「Amazonであれば『スーパーボウルの配信時に、トム・ブレイディー氏のユニフォームを販売する』といったことも簡単だ」と指摘する。「『放映権を売ってくれれば、かわりに大量の商品を取り扱う』といった交渉も可能だ」。
Amazon Liveではすでに、ショッパブルなテレビ番組として、インフルエンサーが進行役を務める番組、『メイキング・ザ・カットTV(Making The Cut TV)』の配信を開始している。こうした動画には、画面下に常に関連商品のバナーが表示される仕組みとなっている。いずれは、三菱自動車の事例のような新製品発表にも、この種のショッパブルなコンテンツが増えていくだろう。
ガスナー氏は、「ショッパブル動画には、オーディエンスを買い物客に変える力がある」と語る。「ショッパブル動画のコンバージョン率は、ディスプレイ広告の3倍にも上る。この数字からも、今後ショッパブル動画の利用が、指数関数的に増えていくことは想像に難くない」。
Amazonの更なる目論見
今回の三菱自動車の取り組みは、ショッパブル動画の盛況のはじまりといえるかもしれない。実際、Amazonは自動車ブランド向けに「Amazon Vehicles」という自動車のオンラインハブを展開している。これはいまのところ、Amazonのプラットフォーム上で製品を販売できるサービスではない。飽くまで自動車ブランドのWebサイトへと遷移する仕組みになっている。しかしウォーク氏は、この形式でも、Amazonにとっては製品のターゲティング面でメリットがあると予測する。
「たとえばオーディエンスデータを活用すれば、プラットフォーム内で自動車愛好家へのターゲティング広告も行える。また、一方で『三菱自動車の購入者はコカコーラよりもペプシ好きが多い』といった、ほかのデータとの紐付けも可能になる」と同氏は語る。「Amazonにとって、こうしたメリットは非常に大きいはずだ」。
そして何よりも、今回の発表から見えてくる重要なポイントは、「Amazonが、マーケットプレイスという立ち位置から脱却し、ユーザーが新製品についてさまざまな形で交流し、情報を得られる場所になろうとしている」ということだ。
[原文:Amazon Live is becoming a destination for big product launches target=”_blank”]
MICHAEL WATERS(翻訳:SI Japan、編集:村上莞)