各方面から大きな批判を浴びているGoogleが開発中のCookieを使わない追跡・ターゲティングツール「FLoC(Federated Learning of Cohorts:コホートの連合学習)」。ここにきて、AmazonがFLoCをブロックしていることが判明した。
各方面から大きな批判を浴びているGoogleが開発中のCookieを使わない追跡・ターゲティングツール「FLoC(Federated Learning of Cohorts:コホートの連合学習)」。ここにきて、AmazonがFLoCをブロックしていることが判明した。
対象はAmazon.comだけでなく、WholeFoods.comやZappos.comといったAmazonが展開しているサービスの大半にまで及ぶ。いずれもECで大量の商品が売買されているウェブサイトだが、米DIGIDAYが専門家3名とともにコードを分析したところ、いずれのサイトにおいてもユーザーが検索した商品についてFLoCが重要データを取得できないようになっていることが分かった。
この記事を書くにあたってAmazonにブロックについて問い合わせたものの、回答は得られなかった。
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Googleのシステムは、オンライン上におけるユーザーの行動データを収集し、分類する。脱Cookie化が進むなかでオンライン広告の追跡ソリューションの主導権を握りたいGoogleにとって、Amazonの今回の動きは大きな打撃だ。それと同時に、Amazonにとっては残されたオープンウェブにおける広告販売面で有利に働く。
「Amazonの決定は、サードパーティCookieの代替ソリューションを模索するGoogleに直接的な影響を与える」と話すのが、デジタルエージェンシーのグッドウェイグループ(Goodway Group)で企業提携担当VPを務めるアマンダ・マーティン氏だ。「個人情報保護が叫ばれるなか、これまでデータ追跡の基盤となってきたサードパーティCookieは使えなくなる。これを巡り、Google、Apple、Facebook、Amazonはまるでチェスのような駆け引きを繰り広げているが、AmazonによるFLoCのブロックも駆け引きのなかの一手だろう」と分析する。
米DIGIDAYが6月10日に3人の専門家とともにAmazonが保有するサイトのコードを分析したところ、GoogleのChromeブラウザでFLoCによるユーザー追跡が実際にブロックされていることを確認できた。たとえば、WholeFoods.comとWoot.comには、その数日前までFLoCをブロックするコードは含まれていなかった。だが10日の時点では、似たユーザーに関する情報提供やID割り当てといったGoogleのアクティビティをブロックするコードが追加されていた。一方、Amazonのブロックは統一されたものではないようだ。専門家のひとりによると、WholeFoods.comとWoot.comではFLoCがブロックされているが、そうではないサイトもあるという。また、Amazonのサーバーが設置されている州とそうでない州によって、対応に差が出ている可能性もあると指摘している。
また、WholeFoods.comのページにおけるFLoCのブロックは例外的となっている。WholeFoods.comではAmazonのアナリティクスリクエストからオプトアウトヘッダーを送信しているのに対し、Amazon所有のほかのドメインでは、FLoCをブロックする際にHTMLページからレスポンスヘッダーを送信するというGoogle推奨の手法で行われているのだ。ある専門家は、匿名を条件に次のように述べる。「Amazonは大半のサイトでGoogle推奨の『100%上手くいく』手法を採用している。例外はWholeFoods.comだけだ。これが単なる見落としなのか、何らかのテスト目的で意図的に行われているのかは不明だが、いずれにしても非常に興味深い」。
FLoCはユーザー個人レベルの追跡ではなく、閲覧したウェブページに基づいて機械学習でユーザーをグループ化する。それゆえ、個人情報は十分に保護されているというのがGoogleの主張だ。FLoCは現在パイロット段階で、ユーザーが興味を持っているウェブサイトやコンテンツ、商品などのデータを収集している。
AmazonはなぜFLoCをブロックしたのか
AmazonがGoogleの取り組みを邪魔する理由は自明だろう。実際のところ、AmazonがFLoCを妨害して得られるメリットは多い。
まず、ユーザーが調べた事柄の内容や購入した商品、レビューなどはAmazonの知的財産であり、保護したいと考えるのはごく自然なことだ。さらに6月21日~22日はプライムデーだ。そこで膨大な数のユーザーが集まる。このタイミングでGoogleが貴重なデータを抜き取るのを防ぎたいという意図も当然あるだろう。米DIGIDAYが先日報じたように、さまざまなアドテク企業やエージェンシーがターゲティングや識別の改善を求めてFLoCのIDデータの収集・分析を進めている。簡単に言えば、Amazonにとって、Googleやほかのアドテク企業に外から貴重な買い物客データを持っていかれては困るのだ。
「Amazonのデータが集まらなければ、FLoCそのものへの影響も無視できないものになる」とあるエージェンシー幹部は匿名を条件に米DIGIDAYに話す。「逆にもしAmazonがFLoCをブロックしなければ、FLoCは特定市場のショッピング分野で大幅に効果を高めることになっただろう」。FLoCの手法は完成前にも関わらず関係各所から問題視されており、すでに独占禁止法への抵触の疑いで調査される事態となっている。
「Amazonのブロックは、Googleの買い物客データの収集において大きな痛手になるだろう」と米DIGIDAYの調査に協力したアドテクデータの専門家は予測する。「Amazonの閲覧データは、ユーザーの興味を如実に表す」。
FLoCのブロックは、競争上のメリットも大きい。Amazonには、外部のサイトでデジタル広告を販売し、Googleに集まっていた広告費用を獲得したいという野望がある。現在、AmazonはDSP事業に本腰を入れており、DSPを介して販売された広告や、Amazonのパブリッシャーサービスを通じてパブリッシャーが販売した広告を追跡・計測する識別子を提供する予定だ。「ブロックによって、AmazonのDSP製品は相対的に強化されることになる」と上述のエージェンシー幹部は分析する。
また別のエージェンシー幹部も、匿名を条件に「わざわざGoogleに手を貸す理由はない」と米DIGIDAYに述べる。
一方、サードパーティCookieの有力な代替候補であるFLoCへの妨害はたしかにAmazonにとってメリットも大きいが、一部の重要データが得られなくなるおそれもある。FLoCをブロックしたほかのパブリッシャーと同様に、AmazonもまたFLoCのIDを通じたユーザーの行動データは得られなくなる。とは言え、すでに莫大な数の買い物客のログインデータを有するAmazonにとって、さほどの痛手にはならないということだろう。
FLoCを許容するAmazonのサイトがあるワケ
Amazonの所有するECサイトのうち、ホールフーズ(WholeFoods)、ザッポス(Zappos)、ショップボップ(ShopBop)、グッドリーズ(GoodReads)などがFLoCをブロックしている一方、少なくともこの記事の公開時点ではAmazonの書籍販売サイト、エイブブックス(AbeBooks)はブロックを実施していない。
「これはFLoCを使ってエイブブックスの訪問者が閲覧しているコンテンツや書籍のデータを取得したいのではないか」と上述のエージェンシー幹部は推測する。「Amazonが計画もなしに何か行動を起こすということは考え難い。何らかのテストをしていると考えるのが自然だろう。Amazonは、ユーザーが興味のある書籍についても大量の社内データを有しているだろうが、たとえばFLoCのIDを使ってエイブブックス外部からの訪問者の興味について追跡しているのかもしれない」。
一方で、Amazonが自社の広告追跡・ターゲティング技術とGoogleのそれを何らかの形で比較しようとしていることも考えられる。「密かに分析を進めた上で、Googleとの競争を優位に進めようという算段かもしれない」。
米DIGIDAYとともにFLoCのブロックの調査を行ったアドテク研究科のクリストフ・フラナシェック氏は「エイブブックスもいずれFLoCをブロックする可能性がある」と指摘する。「ウェブサイトごとに別のチームが運営しているのだろう」とフラナシェック氏は指摘し、次のように述べた。「単純にまだブロックが完了していないだけで、これからブロックがかかる可能性も排除できない」。
[原文:Amazon is blocking Google’s FLoC — and that could seriously weaken the fledgling tracking system]
KATE KAYE(翻訳:SI Japan、編集:長田真)
Illustration by IVY LIU