同社の広報担当者によれば、広告は同社にとってまだ新しい部類のビジネスだが、広告主に提供するツールを継続的に改善し、更新することを目的にしているという。最終的な目標は、すべてのツールをセルフサービス型にすることだ。その背景を探った。
広告ビジネスを拡大しているAmazonは最近、売上の増大を目指したふたつの大きな取り組みを実施した。
Amazonの複数の幹部によると、同社は現在、AMG(Amazon Media Group)向けのセルフサービス型製品をリリースし、展開しているという。AMGは、Amazon.comサイト以外の場所で広告を掲載できるプログラマティック広告的なサービスを手がけている広告部門だ。「Amazonがいま行っているのは、セルフサービスプラットフォームをエージェンシーに提供し、エージェンシーがキャンペーンを管理できるようにすることだ」と、あるエージェンシー幹部は語る。これまで、エージェンシーはAmazon独自の管理サービスを利用しなければならなかった。
この幹部によれば、Amazonがこのツールの話をはじめてもちかけてきたのは、2016年第3四半期のことで、当時はベータ版だったという。また、7月には、このツールをさらに多くのブランドとエージェンシーに提供することになったと、この幹部に伝え、ブランドの変更に取りかかっていることを明らかにした。
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Amazonの最終目標
また、別のエージェンシー幹部によれば、Amazonは2017年にさらに大きな改善を実施。その結果、プラットフォームでの入札とレポートの作成が、ファーストパーティーとサードパーティーのどちらのユーザーにとっても簡単になったという。
さらにこの幹部が語ったところによると、Amazonはスポンサープロダクト広告向けのAPIを提供して、Amazonのプラットフォームでの入札効率を高めているという。したがって、「AMS(Amazon Marketing Service)」のプラットフォームでも同じような改善が行われるかもしれないと、この幹部は予測した。
Amazonの広報担当者によれば、広告は同社にとってまだ新しい部類のビジネスだが、広告主に提供するツールを継続的に改善し、更新することを目的にしているという。最終的な目標は、すべてのツールをセルフサービス型にすることだ。
セルフサービスの拡大
Amazonが公開しているページでは、自社のプログラマティック広告プラットフォームについて、Amazon.comや「インターネット・ムービー・データベース(Internet Movie Database:IMDb)」上だけでなく、Amazonが所有または運営しているそのほかのサイト上やアドエクスチェンジ経由で広告を動的に配信できると書かれている。「AAP(Amazon Advertising Platform)」と呼ばれるこの製品は、Amazon独自のデマンドサイトプラットフォーム(DSP)で、Amazon.comのサイトの製品画像や製品レビューなどさまざまなものをクリエイティブのために利用できる。
Amazonは6月にも、「Advertiser Audiences(アドバタイザー・オーディエンス)」というセルフサービス型プラットフォームをリリースした。これは、ブランドがオーディエンスマッチングをするための製品で、いくつかの点でFacebookやGoogleに似ている。このツールを使えば、ブランドはAmazonのデータに基づいてオーディエンスセグメントを作成できる。
こうしたセルフサービスの拡大が、マーケターとエージェンシーにより多くのツールや管理権限を与えようとする動きであることは間違いない。セルフサービス化すれば広告が増え、広告が増えれば売上が増える。また、エージェンシーにとってもセルフサービス化は魅力的だ。エージェンシーがマージンや値上げを独自に設定できるようになるからだ。その結果、摩擦を減らせることはもちろん、広告オプションを増やし、売上をさらに増やせる。この件に詳しいあるエージェンシー幹部は、「私が複数の担当者から聞いた話では、これは広告収入を増やす取り組みの重要な要素だそうだ」と述べた。
広告オプションも拡大
Amazonはもうひとつの変化をもたらしたが、これはセラーのコミュニティに波紋を引き起こすこととなった。ブランドオーナーでもあるセラーに限定して、ヘッドライン検索広告を開放したのだ。ヘッドライン検索広告は、スポンサープロダクト広告に次いで、Amazonでもっとも強力な広告ツールだといってよい。Amazonのヘッドライン検索広告は、Googleと同じように、ユーザーが特定の製品を検索したときに、検索結果の上に表示される。
「このようなパフォーマンスの高い広告枠の開放によって、新しい製品の発表やリリースを行おうとしているブランドや、重要なブランド名や戦略的なブランド名を守ろうとしているブランドは、大きな差別化を実現できる可能性がある」と、ある幹部は語る(3つ目の広告タイプは、eコマース広告と以前呼ばれていた商品ディスプレイ広告で、Amazonに直接販売しているベンダーのみに提供されている)。
匿名を条件に米DIGIDAYに語ってくれた複数のセラーによれば、彼らはAMSの利用に際して99ドルのクーポンやインセンティブを受け取ったという。こうした施策は、広告オプションを拡大しているプラットフォームのあいだでよく行われるものだ。
Googleに遅れを取る点
インスパイア・トラベル・ラゲージ(Inspire Travel Luggage)を創設したクリスティン・レイ氏は、Amazonでサードパーティーセラーとして旅行かばんを販売している起業家だ。そのレイ氏は、クレジットを付与された記憶はないものの、(AMSの)ヘッドライン検索広告を見かけることがたまにあるという。「このため、私はキーワードを独占している。Amazonで費やしている金額は同じだが、ほかのどの企業よりもターゲットを絞った結果が得られているようだ」と、レイ氏は語った。
商品をAmazonに直接販売しているのではなく、Amazonのマーケットプレイス内で販売しているサードパーティーセラーでも、以前はAMSを利用するための方法がいくつかあった。セラーコミュニティの人たちは、ベンダーセントラル(Vendor Central)経由で販売されるパフォーマンスの低い製品(要は捨て石)を使って、AMSにアクセスできたのだ(商品ディスプレイ広告などのAMSのオプションは、ベンダーにのみ提供されている)。
「(Amazonは)プラットフォームのマネタイズという点でGoogleよりまだ何年も遅れている。だが、新しい広告枠の開放、キャンペーンの自動レポーティング、複雑なキーワードの設定や利用といった新たな変更は、このチャネルの効率を大きく高め、戦略的なブランドが、このプラットフォームで苦労しているブランドからシェアを奪うことを可能にした」と、ある幹部は語った。
周囲関係者の見方
Amazonは広告ビジネスを拡大しているが、その規模についてはさまざまな議論がある。広告最大手WPPのCEOで、Amazonについての意見をもっとも口にする業界人のひとりとして知られるマーティン・ソレル氏は8月23日、Amazonが2016年にデジタル広告から得た売上を25億ドル(約2700億円)と推測した。だが、リサーチ会社のeマーケター(eMarketer)は10億ドル(約1100億円)と推測。一方、モルガン・スタンレー(Morgan Stanley)のアナリスト、ブライアン・ノーワーク氏は、Amazonの広告ビジネスの売上が2020年までに70億ドル(約7600億円)に達すると予測する。また、Amazonがブランドに対する売り込みを強めているため、ブランドのあいだでAmazonの広告プラットフォームの利用が増えているという。
業界のアナリストらは、広告部門を急成長させることがおそらくAmazonの優先事項だと考えている。利益率の高いAWS(Amazon Web Services)などの部門で起こっている成長の問題をいくらかカバーできるからだ。また、広告は利益率が20~30%で、一般に5%といわれる小売業の利益率より高いと、アナリストのスティーブン・マラース氏は述べている。
Shareen Pathak(原文 / 訳:ガリレオ)