AmazonがFire TVアプリにおける動画広告インベントリーの30%を販売するようになって、2カ月が経つ。そのため、Amazonは動画広告販売専門チームの立ち上げを進めている。ある広告バイヤーは、現在Amazonが行っているFire TVの営業について「完全にテレビ広告主向けだ」と指摘する。
Amazonは、同社が提供するコネクテッドTVプラットフォームのFire TV(ファイヤーTV)の予算獲得のため、既存のテレビ広告主への働きかけを強めている。
AmazonがFire TVアプリにおける動画広告インベントリーの30%を販売するようになって、2カ月が経つ。その在庫は、ロク(Roku)とコネクテッドTV分野で広告主の予算を奪い合っているため、Amazonは動画広告販売専門チームの立ち上げを進めている。だが、Amazonが追い求めているのは、コネクテッドTVの予算だけではない。ある広告バイヤーは、現在Amazonが行っているFire TVの営業について「完全にテレビ広告主向けだ」と指摘する。そして「AmazonのFire TVへの扱いはテレビと同じだ。どのようにテレビ業界に割って入るかを考え、そのためのロードマップと販売するための専門チームを作り上げている」と語る。
動画広告の販売に本気
これまでAmazonが広告主やエージェンシーに動画インベントリーの営業を行う際には、検索広告やディスプレイ広告のインベントリーと同じ販売担当チームが行ってきた。結果としてFire TVの動画インベントリーは、Fire TVのホーム画面に流れるバナー広告等のディスプレイ広告インベントリーと一括で販売されたり、「サーズデーナイトフットボール(Thursday Night Football)」のライブ配信など、大きなパッケージの一部として販売されてきた。
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だが、最近、AmazonはFire TVの動画インベントリー単体での販売を進めており、広告バイヤーに対して、Fire TVインベントリーに興味はないかを訊ねる機会が増えている。前述の広告バイヤーは「第1四半期には大攻勢がくるのではないか」と予想している。
この予想を裏付けるように、AmazonはFire TVのインベントリーをさらに積極的に集め、広告主向けに専門の販売チームを組織しつつある。さらに事情通によると、Amazonは業界幹部から動画広告販売の専門チームに参加する人材を募っているという。現在、Amazonのウェブサイト上には動画広告ソリューション専門家の上級職を募集する求人情報が掲載されている。その説明を見ると、「広告エージェンシーのテレビバイヤーに対して当社の動画広告商品を販売し、売上を伸ばす」と記載されている。Amazonの広報担当からは、この件についてコメントは得られなかった。
広告付きFire TVアプリ
先ほどとは別の広告バイヤーは、Amazonについて「これまで以上に力を入れて、マーケット向けの販売方法を模索しようとしている印象は、非常に強い」と語る。
広告バイヤーたちは、夏の終わりごろにAmazonがFire TVの営業攻勢を強めた印象を受けたと口を揃える。Amazonが開発中の広告付きFire TVアプリの営業をはじめたためだ。インフォメーション(The Information)が以前報道したように、このアプリは各スタジオからライセンス供与を受けた映画やテレビ番組を配信すると見られており、ロクが提供するに近いサービスとなる見込みだ。CNBCの報道によると、Amazonはこのアプリを10月初頭に発表する予定だったという。広告バイヤーも10月の終わりから11月はじめにかけて登場すると予想していた。だが12月に入ったいまも、Amazonは同アプリについて公式発表していない。広告バイヤーもリリース時期について告知を受けていないという。
Amazonは現在のFire TVの営業で、このアプリの存在を強調してはいない。Amazonから広告主向けの営業を受けた広告バイヤーによると、Amazonがこのアプリについて言及したのはたったの1スライドで、「新しいテレビと映画の動画サービス」と説明されたという。
AmazonはFire TVの営業において、他社デバイスで展開しているFire TVアプリから集めたインベントリーに重きを置いている。9月にAmazonは、同社が提供する広告付きFire TVアプリについて、広告インプレッションの30%をAmazonが広告主に販売するために使用することを発表した。
Amazonの広告販売方法
複数の広告バイヤーによると、Amazonは固定価格の予約型マーケットプレイスを作り、テレビ広告主にFire TVへ興味をもってもらおうと働きかけているという。Amazonは、広告主を引きつけるにあたってプログラマティック広告のオークションといったデジタルの付加機能を多数提示しているわけではなく、代わりにFire TVのインベントリーを広告主に直接販売している。さらにAmazonは価格を安定させるため価格に上限を設定した。広告バイヤーはこのような対策は珍しいとしつつも、支出額が予想できるため従来のテレビバイヤーにとっては魅力的だと指摘している。複数のバイヤーの証言によると、キャンペーンではテレビにおける対象年齢2歳以上のコンテンツに対して、CPM30ドル(約3350円)を提示されるが、価格交渉もできるという。
この2歳以上という対象年齢からも、幅広いリーチのキャンペーンに慣れ親しんだ広告主が幅広くターゲティングできるように、Amazonが配慮していることがうかがえる。この対象年齢2歳以上という設定は、テレビ広告主からデジタルコンテンツを買ってもらいやすいため、ほかのメディア企業でも採用されている。たとえばNBCユニバーサル(NBCUniversal)もこの対象年齢を採用して、広告主に対し2018年の冬季オリンピック用にテレビとデジタルを組み合わせたインベントリーを販売している。
だからといって、Amazonによるターゲティングが特定の年齢や性別に限定されるわけではない。Amazonには世帯収入といった、サードパーティの基本的なデータにもとづいてオーディエンスを振り分ける能力がある。広告バイヤーによると、Amazonはほかにも広告主の買い物客データにもとづいた「若いトレンドセッター」のようなオーディエンス層のカスタマイズにも対応しており、その場合のCPMは40から50ドル(約4500円から5600円)になるという。
現在残されている課題
ただしFire TVのインベントリーがテレビ広告主にとってさらに魅力的なものとなるためには、まだ課題が残されている。そのひとつが、広告バイヤーが広告表示の可否についてもっと自由に決められるようにすることだ。現時点でAmazonは、個別のアプリごとに広告主が広告をブロックできるようにしているが、広告主が知らないアプリに関してはブロックできないのが現状だ。そのため広告バイヤーに対して、どのアプリがリリースされるのか事前に告知する必要がある(Facebookは配信動画内の広告に関してこのような告知を実施するようになった)。
さらに広告バイヤーとしてはAmazonがニールセンの「デジタル広告視聴率」に対応すれば、適切なオーディエンスに広告がリーチしているか追跡できるようになる。ほかにもAmazonが、サードパーティの測定に基づくオーディエンスへの販売保証をすることも必要だろう。
「透明性は高ければ高いほど良い。ウォールド・ガーデン(壁に囲まれた庭)にはなってほしくない」と、広告バイヤーは語る。
求められる販売バランス
Amazonは、デジタル動画の広告主を遠ざけないように注意しつつ、Fire TVのインベントリーを売り込むのが難しいテレビ広告主にアピールするという綱渡りをしなければならない。
別の広告バイヤーは次のように語った。「AmazonはクライアントがHuluに年間100万ドル(約1.1億円)以上払っていようと気にしないようだ。私たちに対してそうしたクライントに関する質問は一切ないのだから」。
Tim Peterson(原文 / 訳:SI Japan)