Amazonは小売業者だが、自ら顧客に販売するよりも、他社に売り場を提供するマーケットプレイスの儲けの方が大きくなっている。そこで、Amazonは戦略を変えた。かつては卸売りベンダー向けだったeコマース機能をサードパーティのセラーに次々と開放。そして、もっとセラーと手を結ぶべく、リソースをシフトさせている。
変化の必要性を自覚し、対応を進めるAmazon。Amazonは小売業者だが、自ら顧客に販売するよりも、他社に売り場を提供するマーケットプレイスの儲けの方が大きくなっている。
そこで、Amazonは戦略を変えた。かつては卸売りベンダー向けだったeコマース機能をサードパーティのセラーに次々と開放。そして、もっとセラーと手を結ぶべく、リソースをシフトさせている。
Amazonでサードパーティ向けマーケットプレイスが活気づいているのは、認知度が高まり、販売モデルの教育が進んだからだ。小さなビジネスのオーナーと大きなブランドと再販業者に同じようにリソース網を構築。ロジスティクスの変更についての最新情報や、秘訣やコツを共有し、Amazonでセラーになる方法、さらにはセラーが利益を出す方法を教えている。これはまた、直接販売へという小売業界のより大きな動きを反映したものであり、卸売り依存の縮小はブランドに広がり、顧客に直接販売するeコマースチームやサプライチェーンの見直しが進んでいる。
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小売りの中間業者が時代遅れになるならば、たとえAmazonであっても、ギアを入れ替える必要があるのだ。
「いまブランドが(卸売り側から)セラー側に移ってきているのは、結局はコントロールのためだ」と語るのは、Amazonのエージェンシーであるボブスレッド・マーケティング(Bobsled Marketing)の創業者、キリ・マスターズ氏だ。「サードパーティセラーのアカウントに人員を回す時間と能力があるなら、そのほうが在庫をコントロールできるし、新製品をAmazonに直接投入できるし、その際には価格も決められる。卸売りベンダーでなければならないというのでない限り、サードパーティセラーのほうが賢明になってきており、卸売りベンダーとして設立される会社は段々少なくなっている」と同氏は語った。
調査会社eマーケター(eMarketer)のデータによると、Amazonの総売上に占める割合は、マーケットプレイスのほうがAmazonによる販売よりも大きく、しかもその差は広がっている。2017年、Amazonによる販売の売上が21%増の704億ドル(約7.7兆円)だったのに対し、マーケットプレイスの売上は41%増の1295億ドル(約14.3兆円)だった。マーケットプレイスの売上は2019年、さらに増えて2300億ドル(約25.4兆円)になるとeマーケターは予測している。しかも、マーケットプレイスの販売数はAmazonによる販売の過半数に届いていないにもかかわらず、マージンの高さによって収益で上回っている。Amazonによると、販売数におけるマーケットプレイスの割合は40%強だ。
Amazonは社内で、こうした変化への対応を進めている。Amazonの現職や元職のビジネスマネージャーたちによると、Amazonはこの1年半、セラーに開放する機能を増やしてきた。シャンプーや加工食品のような商品を自動的に繰り返し購入してもらう「定期おトク便(Subscribe and Save)」、いち早く購入した人にレビューを促す「アーリー・レビュワー・プログラム(Early Reviewer Program)」、さらにクーポンの自動化や競争力のある価格設定に役立つカゴ落ち率などを示す細かなレポートツールに加え、Amazonの広告プロダクトもすべて開放された。
Amazonの元ベンダーマネージャーで、現在、Amazonに出品するブランドのコンサルタントをしているエレイン・クオン氏によると、Amazonのチームはほかに、セラーを後押しすると同時にセラーに実験材料になってもらうスペシャルプログラムも提案している。たとえば、過去の購入行動に基づいてお試しサイズの無料商品を1箱送るテストプログラムだ。
「Amazonのいわゆる『イノベーション予算』は、現在、ほとんどがマーケットプレイス側に配分され、あらゆるカテゴリーでの拡大に役立てられている」と、クオン氏は語る。「いま、Amazonビジネスを本当に拡大させようと取り組むブランドが、マーケットプレイスを選ばない理由はない」。
リソースの再配分
Amazonからすると、マーケットプレイス事業のほうが、中核ではあるがマージンが小さい小売事業よりも儲けが大きい。マーケットプレイス事業は参加に資金が必要で、成長率が高くマージンも大きい。卸売りは、ベンダーに割り当てるベンダーマネージャーの雇える人数や、Amazonが買える在庫の量によって成長が制限される。これに対しマーケットプレイスは基本的に無限に拡大可能だと、マスターズ氏は語る。
そのため、Amazonによるリソースの配分に変化が生じた。Amazonのコンサルティング企業ヒンジ(Hinge)のCEO、フレッド・キリングズワース氏によると、Amazonは2018年、年間売上が1000万ドル(約11億円)に満たない卸売りアカウントすべてから、ベンダーマネージャーを引き上げた。また2018年2月には「マーケットプレイス・グロース(Marketplace Growth)」プログラムを開始。これは、Amazonチームのストラテジックアカウントマネージャーが割り当てられ、マーケットプレイスへの変更にセラーが対処するのを手伝ったり、問題解決の頼みの綱になったりするというもの。Amazonのセラーセントラルはそれまで、完全なセルフサービスだった。セラーはダッシュボードにアクセスできるだけで、問題が生じた場合にはありきたりの「ヘルプ」メールしかなかったのだ。
Amazonという組織はほとんど顔が見えず、そのため障害やルール変更に対処できないという、セラーのよくある不満にマーケットプレイスグロースは対処をした。ただ、このプログラムは安くはない。参加するのに、Amazon収益が年間100万ドル(約1.1億円)以下だと月額2500ドル(約27万円)かかる。上は月額5000ドル(約55万円:Amazon収益が年間1000万ドル以上)だ。
この月額に加えて、(卸売りにはない)山のような手数料がかかる。Amazonの在庫管理プログラムである「フルフィルメント by Amazon(FBA)」は、プライム配送の特典、在庫保管、フルフィルメントの手数料がかかり、セラーの収益全体の約30%が取られる。加えて、Amazonはマーケットプレイスの販売から15%の手数料を取る。検索広告や商品紹介コンテンツ(EBC)などを追加すると、利益はさらに侵食される。
Amazonの元ビジネス開発マネージャーで、いまは統合エージェンシーのステラ・ライジング(Stella Rising)でマーケットプレイス担当VPを務めるリナ・ヤシャエバ氏は、「Amazonはかつて卸しに力を入れ、その方がサイトにおけるブランドの表示をコントロールできていたが、いまわかってきたのは、やり方はひとつではないのだということだ。それに、セラー側は参加費を払う。Amazonとしては、つまりは仕事を減らしながら稼ぎを増やせる」と語る。
活気づくマーケットプレイス
ヤシャエバ氏によると、同氏がAmazonでブランドをセラーに勧誘する仕事をしていた当時は、マーケットプレイスのセラーになったら基本的に自力でやらなければならないということを、ブランドにはっきりさせる必要があった。「手放し運転」というアプローチによるセラー管理をAmazonは推し進めているのだ。ただ、ほとんどのセラーについては、いまもこれが普通だが、ブランドの勧誘に必要なビジネス開発マネージャーの労力が増えるなか、例外は出てきている。
主に加重ブランケットを販売するグラビティ・ブランケット(Gravity Blanket)のCEO、マイク・グリロ氏によると、Amazonの「ストラテジックアカウント」チームから同氏に接触があった際には、Amazonの顧客が同社のブランド名を検索し、見つからないのでまがいものを購入しているという情報が持ち込まれた。ほかに、トップページなどAmazonサイトの目立つエリアで露出を増やしたり、マーチャンダイジングや広告を手伝ってくれる専任のチームメンバーを利用できたりする「ブランドインキュベーター(Brand Incubator)」プログラムの売り込みもあった。
そのなかに、サイバーマンデーのオファーがあったとグリロ氏。グラビティのブランケットを独占で値下げするなら、引き換えにAmazonのサイバーマンデーのアウトリーチで重点的に宣伝するというのだ。サイバーマンデー当日は数百万ドルの売り上げがあり、2018年は売り上げ1650万ドル(約18億円)の15%をAmazonが占めたという。
グリロ氏によると、Amazon担当者から提示されたが結局受け入れなかったものは、もっとあった。アジアにあるセラーの製造業者からのロジスティクスと輸送について、Amazonが面倒を見る「フルコース」のフィルフィルメント契約はそのひとつだ。
「Amazonはブランド資産価値がある人のところにやってきて取引を持ちかける。量とプロモーションが見合うものだったので値下げをしたが、それ以前はAmazonでは販売する予定はなかった」とグリロ氏は語った。
元ベンダーマネージャーのクオン氏によると、新たなブランドにAmazonでの販売を交渉する際、Amazonはかつての卸売り優先から方針を転換し、サードパーティマーケットプレイス、卸売り、それに外部パートナーを通じたサードパーティによる販売と、すべての選択肢を推進している。販売体験は明確にふたつに分かれているが、双方が利用できるツールと機能は比較的同等だ。うわさによると、販売システムがワンベンダー(One Vendor)に統合され、Amazonにおける販売方法をブランドが選択することはなくなる可能性もある。
とはいえ、いまは上向きのマーケットプレイスがeコマース大手Amazonのビジネス全体を持ち上げている。
「かつては卸しの投資と成長に回されていた大きな資金が、マーケットプレイス側に再配分されている。このようにシフトした資金は、Amazonが求めているものの指標になる」と、クオン氏はいう。「そこには、うまく行くとAmazonが考える、会社全体のより大きな方向性が現れている」。
Hilary Milnes (原文 / 訳:ガリレオ)