Amazonは2021年6月末、自動運転トラックメーカーのプラス(Plus)に大金を投じる決意をした。プラスから自動運転トラック1000台を購入するほか、プラスの株式を20%取得するオプションを手に入れたのだ。これは、ここ数年の自律走行車分野におけるAmazonの注目すべき一連の投資の締めくくりだ。
Amazonは2021年6月末、自動運転トラックメーカーのプラス(Plus)に大金を投じる決意をした。プラスから自動運転トラック1000台を購入するほか、プラスの株式を20%取得するオプションを手に入れたのだ。
これは、ここ数年の自律走行車分野におけるAmazonの注目すべき一連の投資の締めくくりだ。同社は、2020年の自動運転車のスタートアップ、ズークス(Zoox)の買収をはじめ、2019年の自動運転トラックメーカーの会社エンバーク(Embark)や自動運転車メーカーのオーロラ(Aurora)への投資などを進めてきた。
Amazonは、需要の急増とこれまで以上にスピードを求められるようになった配送時間に対応するため、配送部門の雇用を強化している。しかし、懸命な採用活動にもかかわらず、Amazonはドライバー確保に苦慮している。そしてこれは、トラック運送業界全体が抱える課題でもある。Amazonは、ほかの物流企業と同様に、自律走行車に活路を見いだしているようだ。自律走行トラックは、完全な無人トラックによる輸送という絵空事のような未来に向けてのためだけでなく、ドライバーにとってより魅力的な業界にするためにトラック輸送プロセスの特定部分を自動化するというような短期的需要について、ドライバーを採用するうえでの助けになるだろう。
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トラックドライバー不足解消のため
オハイオ州立大学のテリー・L・エスパー教授(物流学)は次のように話す。「ドライバーの離職については、トラック運送業界が過去20年にわたって闘ってきた問題だ。一般的に、トラックドライバーの高齢化が進み、トラックドライバーという職に興味を持つ若者も少なくなってきている」。
毎年、トラックドライバーの90%以上が、長時間労働や安全面での不安、労働時間ではなく走行距離に応じて決まる報酬体系など、不遇な労働条件を理由に離職している。「このような背景が、自律走行技術に注目が集まっている大きな理由のひとつだ」とエスパー教授は語り、トラック運送会社にとっては「トラックドライバーの離職率を下げることができるものは、非常に魅力的だと思う」と述べる。
Amazonもまた、特にその成長過程で、同じような問題と闘ってきた。物流市場調査会社ロジスティクストレンド・アンド・インサイツ(Logistics Trends & Insights)の創設者、キャシー・ロバーソン氏は、「彼らも従業員問題を抱えている。フルフィルメント施設や輸送手段に至るまで、十分な労働力を確保できない」と述べる。ここにはトラックドライバーも含まれる。
ニューヨーク・タイムズ(The New York Times)によると、パンデミック以前のAmazonの全社員の離職率は毎年およそ150%だったという。Amazonは在庫の運搬を専属業者のネットワークに依存しているため、具体的にトラック部隊の正確な規模(および減少率)を測定することは困難だが、2021年末までに285社のトラック会社と専属提携することを目標としている(2021年初めの時点では、約100社と専属契約を結んでいる)。
「自動運転」と「無人運転」は違う
しかし、Amazonは、少なくとも近い将来にトラックドライバーの仕事を自動化するためにプラスのトラックを買い集めているわけではなさそうだ。「自動運転」と「無人運転」は同じものと考えがちな人は多いが、自動運転技術は、理論的には、トラック輸送の安全性とスピードを向上させることができる多くの媒介的なソリューションを可能にするものだ。
エスパー教授は、ひとつの例として自動ブレーキを指摘する。トラックが危険な状況に陥ったときに、ドライバーに代わってブレーキをかける技術を搭載したトラックが増えている。また、いくつかの州では、「プラトーニング」と呼ばれる技術の使用が認められている。これは、複数の異なるトラックが道路上に並んで走行する際、先頭を行くトラックだけはドライバーが実際にハンドルを握っておく必要があると定めたものだ。2台目以降のトラックは自動運転システムを使い先頭トラックをミラーリングできる。エスパー教授は、それはまるで鉄道車輛のように見えるという。
「無人運転は、遠い未来の話だと思う。規制環境がまだ整っていない」とエスパー教授はいう。しかし、その中間的な自動運転技術は、トラック会社の競争力を維持し、ドライバーに優しい労働環境をより短い期間で実現できる。「これは、現状に関連し、時代に即した、より大きなテーマの一部だ」とエスパー教授は話す。
Amazonの最大の狙いはデータ?
自動運転トラックがAmazonにもたらす可能性がある別の恩恵としてはデータがある、とロバーソン氏は述べる。「こうした車輛について私が魅力を感じるのは、基本的にはそれが車輪のついたコンピューターだという点だ」。
この技術によってAmazonのトラックの走行ルートについての情報をリアルタイムで集め、スピードをさらに最適化できる可能性があるとロバーソン氏はいう。Amazonのプラスに対する関心は、配送の「ミドルマイル」と呼ばれる部分に集中している。つまり、商品が国内に入ってくる港から、個々の顧客に届けるための倉庫までのあいだのことだ。
ミドルマイルは、何度も繰り返し使う部分なのでとても重要だ、とロバーソン氏は語る。Amazonのような企業は、顧客に商品をできるだけ早く届けるために、毎日、絶え間なく、港と倉庫のあいだを何度も行き来している。それが自動化によって少しは容易になり、配達時間を短縮するためにすべての走行ルートについての詳細な情報を知ることはより重要になる。
この可能性に目をつけたのはAmazonだけではない。ほかの多くの小売企業や物流企業も、何年も前から自動運転技術に投資している。ウォルマート(Walmart)は、2020年末に自動運転トラックプロジェクトでガティック(Gatik)と提携し、2021年4月には自動運転車輛メーカーのクルーズ(Cruise)に投資した。UPSはスタートアップのツーシンプル(TuSimple)に投資し、FedExは自動運転トラックでボルボ(Volvo)と協働している。
「Amazonが動けば注目が集まる」
だが、自動運転トラックへのAmazonの関心が特有のものでないとしても、「Amazon効果について言っておかなければならないことがある」とエスパー教授は話す。Amazonが新技術に投資すると、ほかの多くの企業が追随する。トラック業界では10年前からこの技術が話題になっていたわけだが、Amazonの投資によって自動運転トラックに新たな関心が寄せられることになっても不思議はない、とエスパー教授は述べる。
「Amazonが動けば注目が集まる。それを擬人化してAmazon効果と言う」とエスパー教授は語った。
[原文:Amazon Briefing: Why Amazon is investing in autonomous trucking]
MICHAEL WATERS(翻訳:藤原聡美/ガリレオ、編集:長田真)
Photo from Plus.ai