昨年来、Amazonの商品ページに、インフルエンサーが作成した動画が掲載されるケースが増加している。Amazonはこのところ、ほかのプラットフォームで活躍する小規模インフルエンサーを集め、インセンティブを提示して商品紹介動画の制作を奨励している。
昨年来、Amazonの商品ページに、インフルエンサーが作成した動画が掲載されるケースが増加している。
以前は、Amazonユーザーが商品の見た目を確認できるように、セラーが自らの商品詳細ページへ動画をアップロードするだけだった。しかし、このところ見られているのは、Amazon主導の取り組みだ。同社はこのところ、ほかのプラットフォームで活躍する小規模インフルエンサーを集め、インセンティブを提示して商品紹介動画の制作を奨励している。これまでのところ、Amazonのトップ動画クリエイターの多くが、ウェブサイト「RTINGS.com」や164万人のチャンネル登録者数を誇るテクノロジー関連のYouTubeチャンネル「ハードウェア・カナックス(Hardware Canucks)」のような、商品紹介ブログやYouTubeチャンネルを保有しているという。
動画は、商品説明のすぐ下の「Influencer and Publisher Videos」という見出しの下に並んで表示される。動画をどれかクリックすると、動画プレイヤーがポップアップで表示され、関連商品を含めたほかの動画も次々と再生される。少し目を細めてみれば、YouTube動画に見えなくもない。Amazonは、これまでのようにインフルエンサーにYouTubeやTikTokでAmazon上の商品をリンク付きで紹介させるだけでなく、自身のプラットフォームにおけるコンテンツとして、彼らの動画を取り入れようとしている。
Advertisement
こうした動画は、Amazonのインフルエンサープログラムの延長線上にある。インフルエンサープログラムでは、Amazonの承認を受けたインフルエンサーであれば、YouTubeやインスタグラムをはじめとするプラットフォームで紹介する商品にアフィリエイトリンクを付けて紹介手数料を得ることができ、さらにはAmazon内に自分のストアページも作成できる。最近では、インフルエンサーがAmazon Liveで商品を紹介する場合も、または商品紹介動画をAmazonにアップロードする際にも、紹介手数料が支払われるようになった。
規模はまだ「控えめ」
ただいまのところ、こうした動画の再生数は、YouTubeに比べるとかなり控えめだ。Amazonでインフルエンサーとして活躍するある人物によると、この人物が手がけたAmazon上の動画のうちもっとも再生されたものでも、その回数は2700回から7500回程度だという。「こうした数字は商品によって異なるし、商品ページの表示回数や、商品ページ上にほかの動画がどれだけあるかにも左右される」。さらにこの人物は、以下のように付け加える。「Amazonでは、ひとつの商品ページに4つか5つの動画しか表示しない。そのため、トップ5に入ることのできない動画はほぼ気付かれることがない」。
また、動画の質に関しても、現状は玉石混淆状態だ。商品のしっかりとしたデモンストレーションが盛り込まれた動画や、複数の商品を推奨しタグ付けもなされている動画もあれば、自動音声で商品説明を棒読みするだけの動画もある。なお、Amazonでは、承認された商品動画を10本アップロードした時点からインフルエンサーへの紹介手数料の支払いが開始されるという。金額は商品カテゴリーによって異なるが、販売価格の0.5%(ビデオゲーム機)から5%(ラグジュアリー商品)まで幅がある。
前出のインフルエンサーによれば、紹介手数料の料金体系は複雑だ。消費者が商品を購入する前に動画を見ると、インフルエンサーに少額の手数料が入る。購入までに商品詳細ページで複数の動画を見た場合は、再生された動画のインフルエンサーたちのあいだで、手数料が分配される。
ユーザーの囲い込みが狙い
eコマースエージェンシーのパターン(Pattern)で広告担当アソシエイトディレクターを務めるタナ・コファー氏は、Amazonはユーザーを囲い込もうとしているのだろうと話す。商品の詳しい情報をYouTubeで探すかわりに、Amazonの商品ページですぐに答えが見つかれば、Amazonでの購買を促すことができるというわけだ。同氏は、Amazonにとって特に重要なのは「直帰率を低く抑えることだろう」と語る。
しかしコファー氏によれば、Amazonはセラーに対して何の計測値も公表していないため、これらの動画がコンバージョンにどれほど役立っているかは不明だという。インフルエンサーの動画が商品ページに表示されることについてセラーから問い合わせを受けた場合には「それが商品ページのコンバージョン率を上げる効果があるのかについては情報がないと伝えている」そうだ。いまのところインフルエンサーの動画に関しては、「現時点では、ユーザーはほとんど気に留めていないと思う」。
こうしたAmazonによるインフルエンサー動画への取り組みは、同社が米国外で短尺動画をショッピングアプリに結びつけはじめていることを考えると、特に注目に値する。たとえば同社は先月、インドでYouTubeライクな(多くは実際にYouTubeに由来する)短尺動画を、Amazonアプリに追加するMiniTVという機能をリリースしている。
こうした動きは、YouTubeでも動画内に出てきた商品を「商品陳列棚」的な機能で表示したり類似商品を提案したりするなど、より直接的なコマース機能が試されるなかで見られている。ソーシャルプラットフォームがアプリ内ショッピング機能を拡大するにつれ、Amazonも自身をソーシャルメディアに近づけることで、それに対抗しようとしている。ソーシャルプラットフォームが、オーディエンスをAmazonから自分のショッピングチャンネルに向かわせようとするのであれば、AmazonはAmazonでインフルエンサーが制作したコンテンツを根本的に充実させ、ユーザーがYouTubeに訪れなくても済むことを目指している。
[原文:Amazon Briefing: The rise of influencer videos on Amazon]
MICHAEL WATERS(翻訳:SI Japan、編集:村上莞)