Amazonは自社に批判的なネット上の報道や投稿への対抗策として一部の社員を動員し、ソーシャルメディアを通じて情報を発信している。3月最終週、@AmazonFCのあとに個人のファーストネームをつけたアカウントからの投稿がTwitterをにぎわせた。
Amazonは自社に批判的なネット上の報道や投稿への対抗策として一部の社員を動員し、ソーシャルメディアを通じて情報を発信している。
3月最終週、@AmazonFCのあとに個人のファーストネームをつけたアカウントからの投稿がTwitterをにぎわせた。投稿者はそれぞれ、Amazonの物流倉庫であるフルフィルメントセンターでの仕事について自分の思いや体験を語っている。
ただし、それらのアカウントのユーザー全員が実際にAmazonで働くスタッフかどうかは不明だ。Twitterがヴァイス・メディア(Vice Media)に語ったところによると、@AmazonFCの名を冠したアカウントの多くは荒らし目的やパロディとして作成されたものらしい。つまり本物のAmazon社員が利用するアカウントのほうが少数派ということになる。Amazonも米DIGIDAYの兄弟サイト、モダンリテール(Modern Retail)の取材に応えて次のように述べている。「多くはAmazon FCアンバサダーのアカウントではなく、当社の社員になりすましたユーザーの偽アカウントだ」。
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一方、Amazonの「FCアンバサダー」(FC Ambassadors)プログラムは実在する。2018年に導入されたこの制度は、社員が「会社の顔」として、フルフィルメントセンターでの仕事について前向きなコメントをソーシャルメディアに投稿し、報酬を得る仕組みだ。この制度は極端な例だが、職場環境に関する情報発信を社員に奨励している企業がほかにないわけではない。小売業界では、ソーシャルメディアで多くのフォロワーをもつ社員の力を借りたアンバサダー・マーケティング戦略の事例が徐々に増えつつある。今後は主流となって、Amazonと同様の制度を取り入れる企業も出てくるかもしれない。
裏目に出るおそれがある
モダンリテールは今回、英サウサンプトン大学マーケティング学部で教鞭をとるジェイワント・シン教授に取材した。「ネット上でみられる自社への批判に対抗する手段として社員を使った宣伝活動を行っている企業はほかにあるか」という問いに対し、教授は「そういう例は少ない」と答えている。ソーシャルメディアを利用したこの種の宣伝活動は、会社側に「情報操作の意図」があると社員が疑念を抱き、裏目に出るおそれがあるという。
AmazonはFCアンバサダー制度について多くを語っていないが、デジタルメディアのインターセプト(The Intercept)は3月31日付の記事でAmazonの社内文書の内容を明らかにした。この文書は社員アンバサダーがいつ、どんな形でTwitterに投稿すべきかを指示したものとみられ、かねてからAmazonの労働環境を批判してきたバーニー・サンダース上院議員など、有力政治家によるツイートを模した例をあげて、対抗策を示唆しているとされる。
上記の文書を公表したインターセプトによればAmazonは、社歴の浅い社員をソーシャルメディアで活動するアンバサダーに採用する方針の概要を文書に記しており、その取り組みを「フルフィルメントセンターにおける労働環境の質についてソーシャルメディアやオンラインフォーラムに投稿される憶測や虚偽の主張に対応するため」のひとつの手段だと説明しているという。また、社員アンバサダーに対しては、Twitter上の批判的なコメントに返信する場合は「礼儀正しさを保ちながらも率直な表現」を使うよう書面で指示したとされる。
「ブランドの強力な武器になる」
社員をインフルエンサーとして起用する施策は、小売業界では特に目新しい慣行ではない。ドーナツチェーンのダンキン(Dunkin’)は、自社の職場環境の良いイメージが拡散されることを期待して、一部の社員に仕事の舞台裏を描く動画を投稿させてきた。ウォルマート(Walmart)も同様の取り組みをしている。同社の社員インフルエンサー・プログラム「スポットライト」(Spotlight)には、社員が特定の商品を宣伝して報酬を受け取れる仕組みがあり、このプログラムは近い将来、全社員が利用できるようになる予定だ。
ウォルマートの社員インフルエンサー・プログラムの運用管理を行うブランド・ネットワークス(Brand Networks)のジェフ・ジルベルマン氏は、モダンリテールの取材に応えて、ネット上の悪評への対抗策に社員を参加させるAmazonのようなやり方には懐疑的だと語った。「自社を批判する書き込みに対応するよう社員に促すのはいかがなものか。ソーシャルメディア上で職場について意見を述べるかどうかは社員自身の選択にまかせるべきだ」。
しかし一方でジルベルマン氏は、社員が自らの意志でインフルエンサーになれるよう後押しするツールを会社が提供するのならメリットがあると強調し、eメールで次のように述べた。「最前線で働く社員は企業にとってもっとも価値ある資産だ。職場での経験について社員が公の場で率直に語れる場をつくることは、ブランドの強力な武器になる」。
消費者は昨今、好みのブランド企業に透明性を求める傾向がますます強くなっている。そんななか、企業文化はマーケティングツールのひとつになりえる。ジルベルマン氏はAmazonのプログラムについて、「企業が悪評対策として社員を起用する事例はこれが最後であってほしい」としながらも、次のように述べた。「もしかすると今後、同様の手法をとる企業が何社も出てくるかもしれない」。
[原文:Amazon Briefing: Amazon’s employee influencers present a new retail frontier]
Michael Waters(翻訳:SI Japan、編集:長田真)