Amazonがプラットフォームとは別に展開する物流事業MCFが、これまでで最大級の提携を獲得した。MCFはAmazonで販売する品でなくても同社の配送・フルフィルメントを利用できるAmazonの最もUPS的なサービス。ECプラットフォームのビッグコマースは7月第2週、そのサービスにMCFを組み込むと発表した。
米国ではAmazonがプラットフォームとは別に展開する物流事業「MCF(マルチチャネルフルフィルメント)」が、これまでで最大級の提携を獲得した。
MCFは、Amazonで販売する品物でなくても同社の配送・フルフィルメントを利用できる、AmazonとしてはもっともUPS的なサービスだ。
ECプラットフォームのビッグコマース(BigCommerce)は7月第2週、そのサービスにMCFを組み込むと発表した。つまり、ビッグコマースの6万におよぶ販売業者に対し、フルフィルメントの選択肢としてシップステーション(ShipStation)やデリバー(Deliverr)などと並び、今後はAmazonのMCFも表示されることになる。
Advertisement
物流ネットワーク開放がもたらすもの
Amazonにとって今回の提携は、Amazonのセラー以外の広範な販売業者にMCFを訴求するための新しい取り組みだ。発表を受け、バンクオブアメリカ・セキュリティーズ(Bank of America Securities)のアナリストは、「Amazonが外部の販売業者に自社物流ネットワークを開放しようとますます積極的になっていることを示す重要なメッセージだ」と書いている。Amazonは倉庫の新築、航空機のリース、何千もの配送スタッフの採用に巨額を投じているが、MCFは新たに得たこうした配送能力を収益化する道を提供する。そこで使用される配送業のモデルは、UPSやフェデックス(FedEx)のものとあまり変わらない。
ビッグコマースとの提携で「Amazonのフルフィルメントサービスを利用するにはAmazonで販売しなければならない、ということはなくなった」とビッグコマースのオムニチャネル担当ゼネラルマネージャー、シャロン・ジー氏は話す。特にFacebookなどの新しいプラットフォームがマーケットプレイス化を進めるなかで、各ブランドは販売とフルフィルメントを合理化、統合する方法を求めているという。
MCFを利用することは、配送料の交渉を行う余裕がなく「プラグアンドプレイ」的なフルフィルメントの選択肢を求める小規模な販売業者にとって、特に理にかなった話だとジー氏は語る。
ECソフトウェアプラットフォーム企業フィードバイザー(Feedvisor)のCEOで創業者のビクター・ローゼンマン氏は、MCFが「AWSの場合ととても似た形で」構築されてきたと話す。AWS(Amazon Web Services)はもともとAmazon社内のクラウドコンピューティングのニーズを満たすために生み出されたものだったが、Amazonはこれをのちにサービスとして他社に売り出した。同様に、Amazonのフルフィルメントシステムも、当初はAmazon自身の商品の配送時間短縮を推進するために作られたものが「投資を進め、配送能力を高めるにつれて、彼らはこれを別にも利用できるのではないかと考えた」という。
反発する企業も
MCFに対する反発がないわけではない。ウォルマート(Walmart)とeBay(イーベイ)はどちらも販売業者がMCFを通してフルフィルメントを行うことを禁止しており、少なくともウォルマートは代わりにWFS(ウォルマート・フルフィルメント・サービス)の利用を奨励している。Shopify(ショッピファイ)では今のところ配送業者にAmazonを指定できるが、自社フルフィルメントサービスの構築が進めば、その立場も変わっていく可能性がある。
AmazonはまだMCFを大々的に売り出してはいないが、販売業者へのアピールを高めるためにいくつかの譲歩は行っている。昨年からは販売業者がMCFを選択した場合にAmazonのロゴ入りの箱ではなく、無地の箱での配送を開始した。たとえばEtsy(エッツィ)で注文した品がAmazonの箱で届いてびっくり、ということがないようにするためだ。今年前半には、販売業者がウォルマートとeBayのサービス規定に違反しないように、MCFを利用する際に両社を(有料で)簡単に対象外にできるようにした。
だが、ビッグコマースで利用できるようになったことがAmazonのMCF推進の取り組み強化を示すものであったとしても、最終的にMCFをAWSと同様にスピンオフさせ、独立したサービスとして提供するのかはまだ見えてこない。
ジー氏は、AmazonがMCFをUPSやフェデックスのようなものとして見ているというのは「まったく正しい評価」だといい、「彼らは自社インフラをサービスとするためモジュール化を進めている」と考える。
一方ローゼンマン氏は、AmazonがMCFの利用拡大を推進するのは、主に能力に空きがあるときになるだろうと見る(だが不思議なことに、今はそのようなときではない)。
「彼らには余剰能力があって、それを収益化したいという意思はあるが、最優先されるのは常に自社の配送だろう」と同氏は語る。
ロールアップ企業の変わり種
Amazonを中心に事業を組み立てている企業は数多い。たとえば、EC企業を次々と買収するロールアップ戦略の企業は、おそらくAmazonなしには存在しえないだろう。
ただ、そのなかでも少々変わっているのがROXファイナンシャル(ROX Financial)という不動産だ。SECへの提出書類によると、同社はほぼAmazon専用に貸し出すための倉庫網の構築を目指している。現在はAmazonがすでに借りているベイエリアの倉庫を買収する計画があるのみだが、同社はほとんどAmazonへの貸出だけでひとつのビジネスになると考えている。
これは、Amazonがいかに産業用不動産の世界で影響力を持つに至っているかを示すものである。オンラインショッピングの隆盛でフルフィルメント用の「新しい施設に対し、各社が巨額の設備投資を検討している」と不動産管理会社ヤルディ(Yardi)のビジネスインテリジェンスマネージャー、ダグ・レスラー氏は話す。
現時点では、Amazonを相手にするだけでひとつのビジネスが十分に成立するのかもしれない。この点を世に証明しようとしているかのように、ROXが上場に際して希望している銘柄コードはAmazonを強く思わせる「$AMZL」だ。
[原文:Amazon Briefing: Amazon takes a step closer to UPS]
Michael Waters(翻訳:SI Japan、編集:戸田美子)