Amazonアグリゲーターであるセラシオ(Thrasio)は、わずか3年間で200を超えるブランドを獲得した。次なるターゲットはインドだ。この動きは、セラシオの意欲的な国際展開の一部で、インド国内のアグリゲーター分野が過熱しつつあるのと時を同じくしている。
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Amazonアグリゲーターであるセラシオ(Thrasio)は、わずか3年間で200を超えるブランドを獲得したが、ライフロングオンライン(Lifelong Online)という家電機器の新興企業を買収したあとでインドに進出しつつある。
インドの企業であるライフロングオンラインは、トースターからトレッドミルまで100を超える広範な商品を製造し、自社ウェブサイトのほか、Amazonおよびウォルマート(Walmart)所有のフリップカート(Flipkart)などのマーケットプレイスで販売している。今回の買収を機に、新しい親会社による現地でのオペレーションの監督も事業に加わることになるだろう。セラシオは75万の出品者を抱える南アジア最大のインド経済において大きな成功を収めることを目指している。ボストンを拠点とするアグリゲーターである同社は、サードパーティのプライベートレーベルや、Amazonの出品者などのオンラインビジネスを獲得するため、5億700万ドル(約583億円)を充当した。
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この動きは、セラシオの意欲的な国際展開の一部で、インド国内のアグリゲーター分野が過熱しつつあるのと時を同じくしている。同社は過去1年間に、これまで調達してきた資金の34億ドル(約3910億円)をもって、中国、日本、欧州に基盤を構築した。同社はすでに、家庭、ペット、おもちゃ、ゲームなどのカテゴリーで2万2000を超えるSKUを全世界で管理している。2021年には、12億ドル(約1380億円)の収益を生み出した。また同社の国際戦略には、Amazonマーケットプレイスで成功したブランドを、別のマーケットプレイスに輸出することが含まれている。
「進化における大きな一歩」
インドにおいては特に、オンラインビジネスを獲得して最適化するという同じモデルを採用した現地の多数の新興企業が、数億ドルのVC資金と債務を確保した。このような企業としてグローバルビーズ(GlobalBees)やメンサ(Mensa)のようなユニコーン企業があり、両社は最近のラウンドでそれぞれ1億1000万ドル(約127億円)と1億3500万ドル(約155億円)を調達した。さらに、テンクラブ(10club:昨年の資金調達ラウンドで4000万ドル[約46億円]を調達)、アップスカリオ(Upscalio:8月のシリーズAで4250万ドル[約48億9000万円])なども同様なユニコーン企業だ。ムンバイを拠点とするイーブンフロウ(Evenflow)やパワーハウス・ナインティーワン(Powerhouse91)などの企業もあるが、これらは資金調達の額を明らかにしていない。専門家は、セラシオの業務拡大により、eコマースマーケットプレイスで現地D2Cブランドの評価額が急速に引き上げられることで、これらの現地企業に混乱が生じる可能性を指摘している。
セラシオは立ち上げの一部として、ライフロングのeコマースのインサイトと物流インフラストラクチャを使用する計画があると発言した。これには、ライフロングの6つの国内製造施設により、同社が獲得した現地のオンラインブランドを拡大する計画も含まれている。インドを拠点とするビジネス調査プラットフォームのトフラー(Tofler)の推定によれば、ライフロングは2021年3月31日までの会計年度で5400万ドル(約62億1000万円)から6770万ドル(約77億9000万円)までの収益を上げた。またセラシオは、インド政府が現地産業へのビジネスの投資にインセンティブを与えることを推し進めていることから、自社の製造の一部もインドに移行する。この計画のレポートは昨年秋に公開されたが、契約の財務的な詳細は明らかにされていない。
セラシオのCEOを務めるカルロス・キャッシュマン氏は次のように述べている。「インドは数十万もの野心を持つ起業家が存在するユニークな市場だ。当社は、ブランド所有者に対して、自社ビジネスの販売に成功する機会を提供できることに期待している。これは当社の進化における大きな一歩で、インドの販売業者には大きな機会だ」。
二極化が進むインド市場
ライフロングのCEOを務めるバラタ・カリア氏は、同社がすでに現地の販売業者と、エグジットの可能性について「積極的な話し合い」を行っていると語っている。さらに同社はAmazonのサードパーティのプライベートレーベルや出品者などのオンライン小売商が自社ビジネスの詳細を共有するためのウェブサイトをセットアップした。このサイトのフォームから、セラシオがターゲットにしているのは合計平均収益が5000万ルピーから7億5000万ルピー以上(約67万7000ドル[約7790万円]から1000万ドル[約11億5000万円]以上)の会社であることが明らかになっている。
ライフロングオンラインを2015年に共同創設する前に、コンサルティング企業のベイン・アンド・カンパニー(Bain & Company)に5年近く勤務していたカリア氏は、次のように述べている。「インドの起業家が自社のブランドと商品の可能性を最大限実現する手伝いができ、喜ばしく感じている。創設者向けの有利なエグジットオプションにより、さらに多くのブランドと販売業者がインドのD2Cエコシステムに参加するよう促したいと考えている」。
インドではeコマースが盛んだが、いまだにオフライン小売市場は大きく、各地の人々は主にキラーナと呼ばれる小規模の店舗で買い物を行っている。Amazonは同国に約65億ドル(約7480億円)を投資し、テックハブを作り上げ、小規模店舗をデジタル化し、同国のモバイル優先の人々に対して同社のプライム(Prime)やプライムビデオ(Prime Video)などのサブスクリプションサービスにおける低価格のメンバーシップを提供している。インド・ブランド・イクイティ・ファウンデーション(India Brand Equity Foundation)によれば、インドのオンラインショッピング分野は2020年の462億ドル(約5兆3100億円)から、2025年には1114億ドル(約12兆8000億円)に成長することが予測されている。
現地のアグリゲーターよりも的確
専門家たちは、セラシオのような豊富な資金を持つ海外企業の参入により、現地のアグリゲーターの分野が揺るがされることになるだろうと示唆している。
「同社は洗練された運用業者で、インドのような成熟度の低いeコマースマーケットプレイスの、経験の少ない新興企業にとっては、競争のレベルを引き上げることになるだろう」と、Amazon出品者代理店のボブスレーマーケティング(Bobsled Marketing)の創設者であるキリ・マスターズ氏は述べている。
セラシオはAmazonの米国のプラットフォームについて熟知している(eコマース企業であるセラシオは、新しい広告のターゲット設定、マーケティング、販売ツールを、ほかの場所でロールアウトする前にテストする傾向がある)。同社はこの知識により、現地のアグリゲーターよりも的確な見通しを得ていると、同氏は説明している。
まだ多くの機会が存在している
しかし、インド国内の新興企業が現地の市場を対象とし、ニッチなカテゴリーに特化するかぎりは、まだ多くの機会が存在していると、eコマースのエグジットに特化したM&A企業であるザ・フォルティア・グループ(The Fortia Group)の共同創設者でCEOを務めるエメット・キルダフ氏は語る。ただし、セラシオがインド市場に参入することにより現地のD2Cビジネスの評価額は上昇する可能性があると、同氏は付け加えている。
キルダフ氏は次のように述べている。「セラシオが操業している地域は、勝者総取りではない。セラシオはメンサや現地の既存企業と、買収を競い合うことになるだろう」。
同氏はさらに続けている。「インドではD2Cブランドが不足してはいないが、大手のD2Cブランドはまだ多くない。このため、米国が2年か3年前にそうだったように、今は評価額が低いが、競争が過熱するにつれて急速に評価額も上昇するだろう」。
[原文:Amazon aggregator Thrasio enters India with plans to spend $507M on acquisitions]
Saqib Shah(翻訳:ジェスコーポレーション、編集:猿渡さとみ)