アリババが見据える、「eコマース消滅」後の未来

オムニチャネルやチャネルシフトなど、小売業界では世界規模でオンラインとオフラインを組み合わせたマーケティング戦略が注目されている。それは中国でも同様だ。

「アリババの小売における新しい試みや実践は、新しい顧客体験とビジネスモデルを創造することに成功した」。こう語るのは、アリババグループ(阿里巴巴集团:以下、アリババ)の提供する法人向けのマーケティングサービス、「ユニマーケティング(Uni Marketing)」のジェネラルマネージャーであるクリスティーナ・ルー氏だ。ルー氏は2018年5月14日、東京ミッドタウンにて開催された、アドバタイジングウィークアジア2018(Advertising Week Asia 2018:Awasia 2018)のグローバル基調講演、「新しいビジネス運営の形成」に登壇。

eコマースで知られるアリババだが、2016年末にオフラインへの進出を表明した、「ニューリテール戦略」を発表して以来、小売業界におけるオンラインとオフラインの統合を試みてきた。セッションで話された、同社の2年間の取り組みと業界の未来をお伝えする。

多様化する中国リテール

アリババの取り組みを語るうえで欠かせないのが、毎年11月11日の「独身の日」に実施しているプロモーション施策だ。もともとバレンタインデーに対抗する目的で作られたこの記念日だが、アリババはVRやARを活用することで、この日の売り上げを毎年伸ばしている。実際、2017年の売上は前年比39%増の1683億元(約2.9兆円)に及ぶ

この成功に寄与した要因のひとつが、「キャッチ・ザ・キャット(Catch the cat)」だ。これは、2016年に世界中で人気を博した「ポケモンGO(Pokémon GO)」のような位置情報を活用したARゲーム。プレイヤーはゲーム上で、さまざまなブランドのマスコットを捕まえ、それを実店舗で景品や割引券と交換できるシステムになっている。同氏によると、これまで40以上のブランド企業の3万を超える店舗がこのキャンペーンを活用したという。そのなかには、スターバックスやKFCなど、錚々たるグローバルブランドが名を連ねる。

「従来のeコマースだけでなく、こうしたARやVRを活用した事例など、中国の小売業界は年々多様化が進んでいる」と、ルー氏は語る。

商品ではなく体験を提供

また、「ただ商品を売るのではなく、いかに良い顧客体験を提供できるかが大切だ」。その例として同氏は、2017年12月にスターバックスが上海にオープンした「リザーブロースタリー(Reserve Roastery:TOP画像)」を挙げる。リザーブロースタリーは一般的なスターバックスの店舗とはい一味違う、体験型の大型カフェだ。施設内には焙煎施設が併設されているほか、焙煎機の展示を楽しむことができる。アリババはテクノロジーパートナーとして運営に関わっており、ショールーム的な特徴を持つリザーブロースタリーに、同社のテクノロジーが組み合わさることで、新たな店舗体験の提供を実現していると、ルー氏は語った。

同店の顧客はタオバオ(淘宝网)のアプリをスマホにインストールしておけばさまざまなARを体験可能。たとえば、あらかじめ位置情報をオンにしておけば、入店時に自動的に店内のマップやデジタルメニューが画面上に表示されたり、店舗内のコーヒーサーバーにスマホをかざせば、なかにあるコーヒー豆の種類を画面上で確認できるのだ。

さらにルー氏は、アリババが運営する「フーマー(盒马鮮生)」にも触れる。「まだ実験の一環として取り組んでいる段階だが、すでに大きな反響を呼んでいる」と同氏。フーマーは生鮮食品スーパー、オンラインショップ、そしてロジスティック機能を持っている。店頭での会計がアプリで行うよう設計されている点や、遠隔で商品を注文すると、自動的に最寄りの店舗が選択され、3km以内であれば30分以内に商品が配送されることが特徴だ。

「最近では、フーマーが対象とする3km内に住ことを希望する顧客が多く、ある種のコミュニティーが形成されている。事実中国では、『フーマー地区』なるものが存在し、同区域内の住宅はほかの地区に比べて高い。顧客は、ただ純粋に商品を買いたいのではなく、体験を求めているのだ」。

「eコマースは死んだ」

セッション終盤で、「2016年の末に元CEOのジャック・マーが、『eコマースは死んだ』と公式の場で話したときから、我々のリテール戦略はスタートした。これから20年30年先、おそらくいわゆるeコマースは完全に消滅し、オンラインとオフラインを跨いだ、新たなリテールの形が一般化するだろう」と語るルー氏。

しかし、データやテクノロジーがどんなに発展しようと、マーケティングの本質は変わらないという。「マーケティングはブランドと消費者の架け橋である以上、我々は常に顧客中心主義でなければならない」。

※DIGIDAY[日本版]は、アドバタイジングウィークアジア2018(Advertising Week Asia 2018:AWAsia 2018)のメディア・パートナーです。

Written by Kan Murakami
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