PwCあらた有限責任監査法人は7月20日「ビッグデータを活用した新たな経済指標」(経済産業省「IoT推進のための新産業モデル創出基盤整備事業」)のセミナーを開催した。国立研究開発法人 産業技術総合研究所 人工知能研究センター首席研究員の本村 陽一氏はビジネス、社会におけるAI開発の可能性に関して以下のように主張した
PwCあらた有限責任監査法人は7月20日「ビッグデータを活用した新たな経済指標」(経済産業省「IoT推進のための新産業モデル創出基盤整備事業」)のセミナーを開催した。国立研究開発法人 産業技術総合研究所 人工知能研究センター首席研究員の本村 陽一氏はビジネス、社会におけるAI開発の可能性に関して以下のように主張した。
- AI自体は誰もがアクセスできる「ライブラリ」という形でコモデティ化する。必要なデータを選定し、それが得られるユースケースを提供する戦略が重要になっている
- パッシブな相関関係の推定から、介入実験により因果関係の推定へと拡大するべきだ
- 製品をバックエンドから消費者に渡すというモノ中心の社会から、バリューチェーンが循環する社会へと移るべき
本村氏は「インターネットの利用が進んだことでビッグデータが日々流通する状況が生まれた。機械学習の発展の大きな要因でもある。人工知能が使われるフィールドとしてビジネスや社会が考えられる。今後のIoTの時代にはセンサーデータの拡大によりデータそのものの裏にある構造を導き出すことが重要だ」と語った。
AIが成果を出せる領域の背後には必ずデータがあるという。「全員がスマートフォンを持ってインターネットにつながることで、社会システムと情報システムがほぼ融合している。データを通じて社会がどういう形をしているかを知られるようになった」。
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AI自体はコモデティ化し誰もがそれを使えるようになるという。「クラウドに上がったことで誰もが利用できる。個々のモジュールが組み合わせることでアプリケーションをつくることに焦点が当てられている。『AIの民主化』と呼ばれている」。
「(グローバルの)AI関連企業は連携を模索している。戦略としてはAI自体はコモデティ化しており、ユースケースが鍵になっている。データが手元に集まってくるような仕組みをつくる。GoogleをみてもAmazonもみてもそうだ。サービスを通じて指数関数的にデータが増える」。

パーソナルアシスタントのGoogle Assistantを採用するGoogle Home。住居内のユースケースのなかで、ユーザーの音声・行動データを収穫するセンサーでもある via Google
何を予測したいか(目的変数)を起点に集めたいデータを決め、それが手に入るようなユースケースを人々の便宜に適う形で提供することが重要だということ。端的な例はAmazon EchoやGoogle Homeだろう。
ここまで見据えた経営をしないとAIのもたらす利点を享受できない、と本村氏は指摘する。「線形モデルに対して非線形モデルを適用して確率を上げている。ビッグデータにより正規分布していないことが明らかになることがある。もともとの理論が仮定していた正規性が否定されて、もっと複雑な相互作用や不確実性が見えてくる」。

自動で最適なCADデザインを行う人工知能に対し耐久性を維持しながら軽量化を求めると、従来とはまったく異なる形状になったエンジンブロック via Autodesk
相関から因果へ
「次のステップとしては『どうするとどうなるか』という因果関係に踏み込むことだ。介入実験をしてみて因果関係を確かめてみる」。事象の観察だけではなく実際に事象に対して介入した結果をサブサンプリングしていけばより、精度の高いモデルを生み出せると木村氏は語る。
Facebookは介入してその反応を探ることができると本村氏は指摘する。実際、Facebookは一部のアンドロイドユーザーに対してアプリの人為的なエラーを起こし、ユーザーの忍耐力の臨界点を調査したとされる事例がある。かなりのレベルまでユーザーの心理に負担をかけても「人々がFacebookに訪れ続ける」ことを確認したという。Facebookはこのテストで将来的にGoogleがプレイストアから「Facebookを締め出す」という最悪シナリオに備えることができたのだ(The Information)。
「サービス間の水平統合プラットフォームが重要になっていく。社会全体のコネクティビティが上がる。1巡目のAI実装後、(収穫されたデータからモデルが生み出された)2巡目であらゆる産業が結びついていくことになるだろう」。
本村氏は、AIが何かをするとき人はその中心で進化すると語っている。
「AIが何かをするにはデータをもたらすサービスの設計が重要になる。社会実験、実証実験が必要。(製品をバックエンドから消費者に渡すという)モノ中心の社会から、バリューチェーンが循環する社会へと移るべきだ。ユーザーフィードバックによりサービスを最適化していく。この循環型のサービス最適化プロセスが社会的プラットフォームとして埋め込まれると、社会全体の循環性が高まる」。
学習したモデルを人がそれを利用できる。知識が量産されるからそれをライブラリとして皆が活用できるようにする。Google、Facebookなどが行う識別子による行動データの蓄積はAI開発において極めて重要だ。日本でもプライバシー保護に干渉しないかが機微な部分だったが、本村氏は「(匿名化技法である)『ミクロアグリゲーション』によりパーソナルデータではなくなり、プライバシーを保護された形でデータを扱える」と指摘している。
Written by 吉田拓史 / Takushi Yoshida
Photo by GettyImage